新聞部の朝比奈
眠たい午後の昼下がり。
食堂で食事をとり、一人で桐羅の校舎の中を歩いていると。
「パシャリ」
「……何してるんですか?」
「今話題の編入生を撮っているの」
目の前には眼鏡をかけた女性が立っていた。
桐羅の制服を着て、にやりと笑っている。
「初めまして。私は2年の朝比奈 美鶴。新聞部所属の冴えない新聞記者志望者よ」
「……この学校に部活なんてあるんだ」
「ええ。例にもれずあるわ。まぁ、運動部とかそういうのは基本外部生が多いけれど」
この学校に部活なんてものはないと思ってたから意外だ。こういう金持ちも部活動にいそしむのか……。趣味の範囲だとは思うけどそれでもかけてる費用はすごいんだろうなとは予想がつく。
それで、俺のことを今話題の編入生だとのたまっていたが、どういうことなのだろうか。
「あの、今話題って?」
「あの天下の帝王であり人間嫌いの財前 幸村が好意的に接している女性ともなると話題にならないわけないじゃない」
「あー……」
たしかに人気だけはあるとか言ってたな。人間嫌いっていうのは知ってたけど。あいつと普通に話せてるのなんて千智ちゃんと友人の剣だけじゃなかろうか。
まぁ、確かに言われてみれば話題にならないわけがないよな。
「で、外部生に話を聞いてみると金持ちの万家ではあれど性格に難はなく、話しやすいということだそうじゃない。外部生では憧れや好きだって人も多くなってるわ」
「外部生とあまりかかわってないのになぜ?!」
「井達君っていう人がめちゃくちゃいい人だったと話していたそうだよ。井達くん、ああ見えて人望があるからね」
「井達くんすげー……」
金持ちにはいじめられても外部生には人望があるのか。
「それで! 密着取材をしたいの! 次の日の学校新聞がはかどるわーーーーっ! いいでしょ!? いいのね! ありがとう!」
「何も言ってないんですけども」
「じゃあ、あとは午後の授業風景とか撮影させてもらうから! 午前中みたいに普段通りに過ごしてもらっていいからねっ!」
強引だなぁ。なんて思いながら俺は行くことに……。
「ちょっと待って。あとはとか、午前中みたいにとかってなに!? もしかして勝手にもう撮られてた!?」
「……してないわよ?」
「今の間はなんですかね!?」
絶対してただろこいつ……。ハナから取材許可なんてとるつもりなかったんじゃねえか。悪質にもほどがあるだろうが……。
まだ昼休みに取材をしていいか聞いてきた(聞いてない)だけマシだと考えるしかないのか? つってもマジでこういう悪質なものはむかつくな……。
「……本当にやめてくださいそういうの」
「あはは……ごめんねぇ」
「記事は書かないでください」
「そ、それはちょっと……」
「そうですか。ではちょっとユキにこういうのに詳しい人いないか聞いてみますね。実名は伏せておきますが、ユキは割と特定するので気を付けてくださいね」
「えっ、あっ、しない! しませんから! 財前様に話すのだけはご勘弁を!」
「言質とりました」
俺はスマホでしませんからという言葉を録音したのだった。
俺はそのままその場を少し離れ、遠くでその朝比奈という新聞部の人を観察してみる。爪を噛み、ぎりぎりと歯ぎしりしていた。
「なにが性格いいよ……。とんだごみカスじゃない……」
やっぱり陰口いうタイプだったな。
「こうなりゃとことんぼかしてでも書いてやるわ……。性格ドブス女め」
よし、話すか。




