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オタクは好きなものだと饒舌

 ここ数日、桐羅に通っていてわかったことがある。

 外部生と内部生の軋轢がすごいこと。それはユキも千智ちゃんもわかっているようだった。


 内部生は外部生を見下している。小学生からずっとこの桐羅にいた子たちは外部から入ってきた子をあまり好ましく思えていないようだ。

 桜の会の面々もあまり外部生に対して優しいとは言えず、むしろ厳しいという。


 外部生はそのことが嫌なのか、ただただひたすら耐えているように思える。

 あれこれ内部生に命令されても文句は言わないが、本人が聞こえないところで陰口を言っているのを聞いた。

 やれ歳は変わらねえくせに偉そうにだの、親が偉いだけでお前は偉くねえだの。割とごもっともな意見。


「……あのぉ、僕と一緒に閉じ込められてよかったのですか千智様」

「千智じゃないって。編入生の音子だよ」

「あ、すいません……」


 私は今現在、外部生の男の子と体育倉庫に閉じ込められていた。

 時は数時間前に遡る。私は体育の授業が終わった後、先生に片付けの作業を手伝うと言って手伝っていた。

 体育倉庫に入ると先客がいて、閉じ込められて困ってた様子。私は出してあげようとしたら勝手に扉を閉められて鍵をかけられたのだった。


 で、今に至る。


「改めて、つい先日編入してきた万 音子です。よろしくね」

「え、あ、はい……」

「君の名前は?」

井達いだち 遊暮ゆうぼです……。あ、あの、僕なんかのことに巻き込んでごめんなさい……」

「いいよいいよ。私もつい最近来たばかりだから外部生がこんないじめられてるなんて思わなかった」

「いじめられてるわけでは……」

「こうやって体育館の倉庫に悪意を持って閉じ込められることがいじめじゃないというならなんていうの?」


 性根は優しいんだろうな井達は。だがしかし、いじめじゃないとあいつらを庇う理由にもならんぞ。

 第一、私の存在に知ってか知らずか閉じ込めておいてタダで済むとは思うなよ。ユキを向かわせてやるからなコラ。

 俺はさっそく携帯を……と思ったが、携帯はカバンの中にあったのを思い出した。


「さてどうするかな……。鍵はこっから開けれないし、倉庫の窓はあんなに高いから出るのはまず無理だろ。なんで外から鍵を閉める仕様にするかな。あぶねえだろ」


 こういういじめを受ける可能性もあるんだから改装しろ。


「しゃーない。助けを待つか」

「ごめんなさい……僕なんかのために……」

「気にすんな。悪いのは閉じ込めた奴らだから」


 あとで報復してやる。

 俺は体育に使うマットに腰を掛ける。井達は隅で地べたに座っていた。


「えと、井達くん。私そんなに怖い?」

「だって……万家です、から」

「あー。大丈夫だよ? 私はあまり気にしないから」


 井達は隅でひっそりと縮こまっている。

 なんでこんなにビビられてんだろうな。万家は確かにデカい家でもあるしユキとの付き合いもあるから恐ろしいと言えば恐ろしいが……。もしかして外部生は内部生は全員敵であるという認識なんだろうか。

 だとするとすごい面倒だな……。このまま話をして暇をつぶしたいのにビビられたままじゃ話どころじゃない。


 私はため息をつき、井達の隣に座る。


「な、なんで隣に……」

「閉じ込められて暇だから話し相手が欲しいんだよ。私が万家ってことで怖いのかもしれないけど、私は何もしないから。ほら、落ち着いて」

「ご、ごご、ごめんなさ……」

「ほら、謝らないの。君は何も悪くないんだから」


 井達はもともと根っからのネガティブなんだろうな……。だからこそこんな風に嫌な風に考えておびえてしまうんだろう。

 

「……井達くんはどんな音楽が好き?」

「え? あ、えと……アイドルの曲、とか」

「あー、いいよねぇ。ユニットは何が好き?」

「え、あ、ち、地下アイドルのえりりんまりたんっていう……」

「あー、あのツインテとポニテの二人組アイドル」

「し、知ってるんですか!?」

「もち! 歌いいよねー」

「はいっ! 素晴らしいですよねッ!」


 食いついた。

 やっぱりどこかしらオタク要素があると思ったぜ。オタクは自分の好きなものが一緒だと知ると早口になる。ソースは俺。

 もちろん、知ってるというのは嘘じゃない。えりりんまりたんというのは実際に知ってるし連絡先も持っていた仲だ。むしろまりたんはバンドメンバーである仁と付き合っていた。


「えりりんまりたんのライブは正直いけてないんだけど……曲が好きでいつも聞いてる」

「なんともったいない! 生と音源は迫力が段違いですよ!」

「そうだよねー。見に行きたいんだけど時間がね……。それにえりりんまりたんというアイドル以外はあまり知らないし……」

「こ、今度お教えいたしましょうか?」

「いいの? 助かるー。アイドルに興味があるんだよね」

「はい! まさか外部の方にこんなアイドルの話が通じるなんて思ってませんでした……!」

「類は友を呼ぶってやつだね」

「ですね」


 意気揚々と話すようになってくれて、俺らはアイドル談義を繰り返していた。

 昨今のアイドル事情とか、昔応援していたアイドルとか推しとかの話。好きなものには饒舌になる井達はすっかり怯えもなくなっていた。


 俺らが話していると倉庫の扉が開かれる。


「やっと見つけた。何してたんだよ」

「閉じ込められてた」

「あいつにか?」

「いや、井達くんは巻き込まれただけ。外部生の誰かが犯人だと思うけど……」

「そうか。とっ捕まえて同じ目に会わせてやる」


 と、怒り心頭のユキだった。











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