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嫉妬

 放課後。帰る準備をしていると女子たちに絡まれたのだった。

 人気のない部屋に連れていかれたかと思うと、思い切り突き飛ばされる。


「いったい何様のつもり? 昔から仲いいからって見せびらかして自慢でもしたいの?」

「何の話ですか……?」

「とぼけんじゃないわよ! いくら万家だからってねぇ……!」


 胸ぐらをつかまれる。

 一体何の話なんだとひたすら頭を働かせてみる。すると一人の男の顔が思い浮かんできた。そう、ユキ。ユキはモテるといっていたからめちゃくちゃ距離が近い俺に嫉妬みたいな感情を抱いてるのかもしれない。

 女の嫉妬は怖いって聞くからな……。俺は彼女いない歴=年齢の童貞だったから知らないけど。


「幸村様に金輪際近づかないで!」

「といわれましても」


 あっちから近づいてくるんだよね。


「それに、金輪際近づかないったってあんたに決める権利はないでしょ」

「はぁ!? 口答えすんの?」

「してやんよ」


 俺は立ち上がる。

 今にでも凍らせてしまいそうな凍てつく視線。俺はそれに負けじと睨み返した。


「ほんっと生意気……! 万家のやつってこうもひねくれてるのかしら!」

「わざわざ幸村様がいらっしゃらないところで人気のないところに呼び出しこうして詰め寄る陰湿さに比べたらマシじゃないですか?」

「……ッ!」


 なんかめちゃくちゃキレる音が聞こえた。

 相手が掴みかかってきた。そして、私の髪をつかんだかと思うと思い切り引っ張ってくる。癇癪を起して周りが見えていないようだった。

 俺は必死に抵抗するがこの体ではあまり力が出ず、力負けしてしまっている。自信なくすんですけども……。


 さて、どうしたものか。これ以上暴力を振るわれたくない。今、実際髪の毛を引っ張られて超痛い。


「ふざけんな! 死ねッ! 死ねッ!」

「と、東子……その辺にしておきなさいよ……」

「そこまで暴力をふるったらさすがに庇いきれないよ……」

「うるさい! この女が悪いのよ! 馬鹿にしやがって!」


 仕方がない。

 私は近くに置いてあった自分のカバンからばれないようにハサミを取り出した。そして、俺の髪をばっさりと断ち切る。

 つかんでいた髪が私から離れて、勢いよく尻もちをついた。


「ったく、千智ちゃんのほうが短くするって言ったのに私のほうが短くしちゃったじゃんか」

「あんた……!」

「ま、ショートの私もイケてるな。さすが千智ちゃん」

「…………」

「どうしたよ。さすがにもうやられたくないから逃げるけど」

「……な、なんで髪を自ら」

「だってつかんで離さないだろ。だったら切るよ」

「お、女の命じゃない……! どうしてそんな簡単に切れるの!?」

「痛い思いまでして守るもんじゃない。それにどうせまた伸びて来るし。じゃ、ばいばい」


 俺は自分のカバンを拾い上げ、ダッシュで逃げ帰っていった。

 それにしてもどう説明したもんかなこの髪の毛。千智ちゃんはともかくとしてユキに見つかったら相当問い詰められそう。


 ま、なるようになるか。


 なんてのほほんと考えながら玄関で靴を履き替える。

 すると、千智ちゃんが外で待っていたらしく、俺の髪の毛を見てぎょっとしていた。


「どうしたの!?」

「ユキとの嫉妬に狂った女が引っ張ってきたから切った」

「……もしかして赤家あかいえ?」

「名前までは知らないけど東子って呼ばれてた」

「赤家か……。面倒な奴に目を付けられたね。あーあ。私がイメチェンする予定だったのに短くしたらまたわからなくなるじゃん」

「ごめんよ」

「いいよ。音子は何も悪くないでしょ。謝る必要ないって。それより……幸村に見つかったら相当面倒そうだから、今日美容院いって整えてもらおっか」

「ああ……」


 千智ちゃんの髪の毛に傷をつけてしまったかと思ったらちょっとさすがに申し訳ないな。

 必死で逃げてきて落ち着いたらやっぱ髪切ったのは悪手なんじゃねと思い始めてしまった。後悔が押し寄せてくる。ごめんなさい。


「でもショートでもだいぶイケてるね。さすが私。可愛い」

「千智ちゃんは可愛い系じゃなくて美人よりだろ」

「そ、そお? そういわれると照れるなぁ」

「可愛いっていうより美しいっていう言葉のほうが似合う」

「……音子って女たらしだった?」

「純粋な感想なんですけど」









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