意志薄弱
俺は万家のキッチンを借りて明日の弁当を作ることにした。
隣では千智ちゃんが物珍しそうに見ている。
「誰に弁当作るの?」
「……ユキ」
「え、幸村って人の料理食べんの?」
「え、食べないの?」
ユキはどうやらほかの人が手作りの料理を作ってきても押し返してるらしい。何が入ってるかわからないし、美味しいのかどうかも不安だって言ってる。
ユキは顔に関しては整いすぎてるため、そういう風にモテるようだけどどの女の子もアタックしては撃沈してるようだ。今では桐羅を統べる帝王なんて言われてユキと話せる女性は昔から家同士で付き合いもある千智ちゃんぐらいらしい。
「あれは気難しいし人を信用してないからねぇ。いくら昔の馴染みでも私の料理なんて食べなかったくせに。側は私なのに何が違うのかね?」
「……わからん」
女性が作ったって言うことより俺が作ったって方が大事なのか? 愛が重すぎる。
「で、音子は料理できるの?」
「人並みには」
俺はとりあえず弁当の定番である卵焼きから作っていく。
まずは卵焼きだろう。俺は砂糖入れた甘い卵焼きが好きなんだけどとりあえずユキの好みがわからないからだし巻きにでもしておくか。
幸いこの家にはお金はあるので出汁をまずとるか。
鍋に鰹節を入れてだしをとる。ざるにはあらかじめクッキングペーパーを引いておき、出汁が取れたらざるにあげてかつおだしだけを抽出する。
鰹節も本格的なものだからマジですげえよ。使う食材は全部高そう。
「手際いいねー」
「飲食店でこういうバイトもやってた」
「へぇ」
プロには及ばないけどな。
出汁の粗熱が取れたら卵の中に出汁を目分量で入れていく。そしてフライパンに油を引いてだし巻き卵を作っていく。
ちゃちゃっと作ってチャチャっと終わらせよう。手料理を期待してくれてんなら冷凍食品はあまり使わないほうがよさそうだしな……。
「端っこちょーだい」
「おう」
千智ちゃんはだし巻き卵の端っこを手でつまんで食べる。
「おー、うまっ。出汁の味がいいね。美味い」
「あと何入れるかなー……。きんぴらでも入れておくか」
ごぼうをささがき、俺独自の味付けできんぴらごぼうを作る。
「ちょっと辛いね!?」
「ちょっと唐辛子多めに入れたからな。俺は辛いほうが好きなんだ」
「でもいーかも。濃い味付けでご飯ともあいそう」
「俺のモットーはご飯に合う味付けだから」
ご飯が主役で、おかずはその引き立て役。引き立て役が主役を奪ってはならない。
弁当箱に詰めていく。あとは……。
「竹輪の磯部上げ、たこさんウインナー、ピーマンとツナのサラダ」
「どれも美味しいねー」
「味見役になってんな千智ちゃん……」
「だってぇ、本当においしいから箸が止まんなくてぇ。これならいつお嫁さんに行ってもおかしくないね」
「嫁って……俺はもともと男だから誰かに嫁ぐなんて考えないけど」
「だよねぇ」
男性と恋愛なんて考えられない……。
俺はそう考えながらも弁当におかずを詰めていく。そして、出来上がり、おかずの入った弁当箱を冷蔵庫に入れた。
そして翌日。
「はい」
「あ、ちょっと駄目だよ音子ちゃん」
と、一緒にいたユキの友人の八重津 剣って人に止められた。
「音子ちゃん。幸村は他人の女性の料理を食べないんだよ。だから傷つく前に……」
「ありがとう」
「え゛っ」
俺の手から弁当を受け取り、さっそく食べ始めた。
「美味い。カツオ出汁だけかこの卵焼き。シンプルながらも味に深みがあっておいしい。出汁にえぐみもなく完璧に抽出されている」
「ゆ、幸村……?」
「ピーマンとツナのサラダも美味い。シンプルな味付けなおかずが多いが、俺の好みをばっちり把握してるとはさすがだ」
「いや、純粋に私が食べたいものを詰め込んだだけ」
「そうなのか。好みが一緒なのかもしれないな」
嬉しそうに美味しいと食べてくれると作り手としてはちょっと嬉しい。
「幸村が人の手料理を食べた……」
「……音子は特別だ」
「えぇ……」
「それよりどうだ? 食べてみるか?」
「ん、じゃあお言葉に甘えて……。あ、本当においしい」
「だろ?」
「きんぴらもちょっと辛いけどこれはこれでご飯に合うね」
「私のモットーはご飯に合う味付けです」
「ごはん好きなの?」
「お米美味しいですからねー」
「だな。日本人は米だ」
俺の料理が好評なようでよかったです。
小さいころの夢は料理人だったからね。俺。
「小さいときに料理人になりたいなぁって思って一時期料理を作ってた時期がありました」
「その経験が活きてるんだな。初めて知ったが」
「そのあとに食べた高級レストランの味付けで敗北を知り挫折しやめました」
「意思よわ……」




