未だに興奮冷めやまぬ
ありがとうございました!
ユキが海外へ旅立って5年の歳月がたった。
俺は桐羅を卒業し、仁たちが通う大学へと進学し、バンド活動を本格的に再開。
俺もすでに22歳となった。
「本当にいいのかよ。今日だろ戻ってくんの」
「いいんだよ。今日は私がここまで成長したんだぞって見せつけるんだから」
「お前も本当に女の子に染まったねぇ。……NTRって興味ない?」
「NTRダメ絶対」
俺は舞台袖で静けさに包まれている観客席を眺める。
今か今かと待ち望む観客席。俺らのバンドは大成功を収めていた。
去年に、大人気アニメの主題歌を務めたというのが非常に大きかったようで、そのアニメのファンだったり、アニメから知って、ネオエスケープのファンになってくれた人だったり。
様々な人が応援してくれて、俺らはここまで来れた。
「ユキには私らのライブのチケットはすでに送ってある。一番いい席で、ドカンと焼き付けてもらうんだよ。もうすでに帰ってきているという話は聞いてる」
「ならいいけど。時間だぜ」
俺らは部隊の上へあがっていく。
俺をおいていったユキの席はあそこだ。だが、ユキの姿が見えない。きっとライブ会場へ続く道が渋滞しているんだろう。
ユキは絶対に来る。そして、俺はここで飛び切りの愛をお前にプレゼントしてやる。
「こんにちはーーーーっ! 私らのワンマンライブへようこそ!」
「盛り上がっていこうぜ!」
ワーーーーっと湧きあがる観客席。
すると、息を切らしたスーツ姿のユキの姿が見えた。身なりを整えていないユキ。必死に来たんだろう。俺はユキの姿を視認すると、仁たちのほうを見る。
仁たちも小さくうなずいた。
「じゃあまずは聞いてくれ! 私の好きな人へ送る盛大なラブソングをな! バリッバリの新曲だぜ!」
そういうと、観客席がざわついていた。
「炎上しようがなんだろうが知ったこっちゃねえ! 幸村! 見てるか私の姿を! 焼きつけろ! 忘れられない夜にしてやんぜ!」
仁たちの演奏が始まる。
俺のためだけの曲。周りには悪いが、俺の個人的なラブソング。だいぶ痛々しいし、黒歴史には間違いなく残るだろう。
だが、これでいいんだ。バンドマンはダサいぐらいがちょうどいいんだ。
ラブソングとは名ばかりの激しいメロディ。
俺はひたすらに愛をくべていく。置いてけぼりの観客にしてやったりの俺ら。
そして、演奏が終わる。
背後のモニターには、ボロボロのユキの姿が映し出されていた。
「ユキ、これだけの観衆がいるんだ。ノーとは言えねえよな」
俺は汗をかきながら、ユキを指さす。
「オレと結婚しやがれ! 待たせた責任、きちんと取れよな!」
俺は息を切らしながら、告白を済ませた。
ユキは、目に涙を浮かべ、あぁ、と差し伸べられたマイクに声を入れた。その瞬間、湧きあがる観客。おめでとうという言葉が飛び交っていた。
祝福してくれている。最初はものすごく反感を買うかもと思っていたが杞憂だったようだ。
「情熱的な告白だったろ! ぶちあがったろ! それは私だけか! まぁいいさ。今夜のライブはこんなもんじゃねえ! 熱狂的な夜はこれからだ!」
「俺たちの戦いはこれからだ!」
「いや、仁……。それめっちゃ寒い……。今ここでぶち込むと空気しらけるだろ」
「えっ」
「改めて、よろしくな! 私らこんな風にダサいし、最高にかっこ悪いけど、ユキだけじゃなくお前らも大切に思ってるのは確かだからな! いい年齢になるまで音楽活動はやめないぜっ!」
熱狂的なライブはまだまだ続いていく。
興奮冷めやまぬライブの後に、楽屋にユキがやってきた。俺は仁に先に帰ると告げ、まだ肌寒い4月の夜空を眺めながら、ユキと歩く。
「どうだ、私の成長思い知ったろ」
「あぁ。本当に見違えるくらいだったよ」
「だろ? これでも有名バンドなんだぜ」
「海外でも話題になってた」
「マジぃ?」
そこまでですか。
「……それでさ、結婚の事、なんだが」
「…………」
もしかして気が変わったんです……?
俺が不安そうにしているのが分かったのか、ユキが少し笑う。
「よろしく頼む」
「お、おう。思わせぶりなことやめろ」
「ごめん」
外は寒いのに、まだうちに潜む熱気は冷めないようだ。




