果てのない旅へ
バレンタインが終わるともう直に3月……卒業シーズンとなる。
出会いもあれば別れもあるように、3年生の先輩方が卒業していく日。俺はあまり桐羅の3年生とは馴染みがないが、新聞部の部長だったり、少しは面識がある人もいる。
「来年は我が身だなぁ」
「だね」
「ユキと一緒に卒業できるよう頑張らないと」
卒業できず3年生をもう一回遊べるドンっていうことには気を付けないと。
そう思っていると、なんだか千智の顔色が少し怪しかった。なにか意外そうな顔をしている。
「……どったの?」
不思議に思った俺は聞いてみた。
「あー、いや……。ちょっとね……」
「なんだよその反応……。なんかおかしい言動とかあった?」
「いや……」
なんだかおかしい反応をしている。
荷物を持ってくれている伊佐波がきょとんという顔で。
「財前様から何も聞いてないんですの?」
「えっ? ユキから? なにが?」
「財前様は来年から海外に……」
「わーーーーっ!」
「……海外?」
二人の挙動がおかしい。
それに海外ってなんだよ。言い方的に推測してみると、ユキは来年から海外へいく……。旅行で? いや、だとしてもここまで焦ることはない、よな。
となると……。
「……しばらく海外に行ったっきり?」
「口滑らせないでよ! ってかそうだけど何も聞いてないの!?」
「聞いてない……なにそれ……」
どうやら、本当だったようだ。
あまりの唐突な話に、思わずぽかんとしてしまう。
「あのね、財前家の意向でね、跡継ぎは一度海外を旅して見識を広めて来いっていうのがあって」
「財前様は来年度……つまり今年の4月から海外へいくんですわ」
「……本当は高校卒業してからなんだけど、ユキって人間嫌いでしょ? その矯正も兼ねて強引に推し進めたみたいで」
……んだそれ。
ユキはなにも言ってない。俺にそんなこと一言も……。無断で行くつもりだった……? いや、ユキのことだ。俺を悲しませまいとしてくれたんだろう。
……だとしても、教えてほしかったな。
俺はとりあえずユキに今時間いいかと尋ね、ユキの場所に向かうことにした。
「ユキ!」
ユキは、サロンの会議室にいた。
俺はユキに詰め寄る。
「海外へ行くって……なんでだよ」
「……父の意向でな。俺が行くのが早まったんだ」
「なんでっ……」
「俺は大の人間嫌いだから、父も治そうとしてるんだろ。だから財前家の助けもない海外で、自分で人を頼って旅をしろということらしい」
でもいきなりそんな……。
しかも、来月には海外に行くんだろ……?
「俺も行く。俺もついていく」
「だめだ。桐羅は卒業しておいたほうがいい」
「それはユキにも言えることだろ……」
「俺はすでに卒業試験を受けて合格をもらった。俺ももう卒業生ではあるんだ」
「……用意周到な奴」
冷静になれ、俺は大人だ。
今生の別れじゃない。少しの間、会えなくなるだけ。
「……どれくらい海外にいるんだよ」
「3年……か5年くらい……」
「曖昧だな」
「ああ……。最低3年は海外に行かされるんだ。俺が成長したと感じるまで、父には戻ってくるなと厳命されている」
「そっか」
俺は深く息を吐く。
「……わかった。待ってる」
「……いいのか?」
「行かなくちゃいけないんだし、ユキの成長のためなんだろ。俺が止める理由はない」
「……あぁ」
「俺は行ってほしくないとは思ってるよ。でもそれは俺のわがままだ。俺のわがままで、ユキのチャンスを逃させるわけにもいかないだろ」
いやだよ。せっかく好きになったのに、離れ離れになるなんて。
「……少し落ち着いてくる。頑張れ」
「あぁ、頑張る」
俺は会議室を後にした。
俺は3年以上何するべきか。ユキを出迎えて置く準備をするべきだな。ユキが驚くような成長を、ユキよりも成長してやろうか。
「あっと驚かせてやる」
俺は仁たちに電話していたのだった。




