バレンタイン一色
桐羅もバレンタイン一色に染まっていた。
放課後ともなると、好きな男性にチョコを渡そうとする女子の姿が見受けられる。ユキほどではないが、顔が整っている人もちらほらいて、チョコを渡すついでに告白する子も見られた。
青春だねぇ。
「あの、財前様! これ受け取ってください……!」
「いらない」
「えっ……頑張って作ったんです!」
「俺とお前とはかかわりないし、俺が音子と付き合ってることは学校全体が知ってることだろう。それを知ってなお渡そうとする理由はなんだ?」
「それは……」
「あわよくば、を狙っているのかもしれないがそれはありえないな。それに、頑張って作ったというのはお前だけに当てはまる言葉か?」
ユキが冷たい視線を向けると、女の子は耐えきれず泣きながら走り去っていく。
容赦ないっていうかなんというか。
「もうちょい言葉考えてあげなよ」
「考えたところでどうなるというんだ。それに、受け取ってももやもやしないのか?」
「ユキがそれぐらいでなびかないほど頑固だってことは知ってますし」
「信頼されているな」
「当たり前でしょ。むしろこれぐらいでなびくようならこっちが願い下げてるっての」
正妻の余裕という奴ですよ。
この後もユキにチョコを渡そうとする子もいたが、先ほどの子のように等しく受け取ってもらえずに泣いて去るのだった。
なんつーか、彼女もちと知ってなお渡そうとする理由って友チョコ以外ないよな。
「あ、あの!」
と、今度はおとなしそうな女の子が俺たちを呼び止める。
ユキはため息を吐き、振り返る。
「あのな……」
「万さん!」
と、用事があるのは意外にも私のようだった。
「万さん! 私のチョコを受け取ってください!」
「えっ、私?」
「はい!」
「ユキじゃなくて?」
「財前様はどうでもいいんです!」
「ぶほっ」
本人を目の前にして言いやがった!
ユキも思わずちょっと笑っていた。
「本命チョコです! 受け取ってください!」
「本命……?」
「す、好きです!」
と、渡しながら告白してきたのだった。
まさか女子から本命チョコをもらえるとは。音助だったときはともかく今は音子なわけで。本命ってことはこの顔に惚れてるとかそういう感じだよな……。
「ごめんね。私彼氏いるから」
「知ってます。でも、浮気って彼女が別の男にだったり、彼氏が別の女性にだったりとかです! 同性なら何も問題はないです!」
「えぇ……。どんな理論だそれは」
訳が分からないよ。
どうしようとユキを見ると、ユキは顔を逸らして笑っていた。
「ごめんね。私恋愛対象は男性だから……」
「そんな……! 第二婦人でもいいんです!」
「この国は一夫多妻制を採用してないから……」
「一妻多夫制です!」
「何言ってるんだお前は」
むしろ一妻多夫制っていう国があるのか?ねえだろ……。少なくとも俺は聞いたことがないぞ……。
「とにかくごめんね。無理」
「そんな……」
「ユキ、逃げるよ」
ユキの手を引っ張り、俺は玄関まで引っ張っていく。
まさかの俺のほうに告白する女子がいるとは。そういう人もいるとは知っているし、今は多様性の時代なのであまりとやかくは言えないけど……。
「……惚れて付き合うなよ?」
「付き合いません……」
「元男だからそっちの心配がな……」
「俺の場合どっちでも同性愛にならないかこれは」
ユキを愛せば精神が男だから同性愛って言われるし、女の子を愛せば側が女の子だからそれも同性愛だし俺はどうしたらいいんですか?
しばらく不定期更新になります! 書く時間がないので!




