チョコレートを作ろう
俺はキッチンに立ち、湯せんしてチョコを溶かす。
今日は2月13日。バレンタインデーの前日。俺は明日渡すチョコを千智と共に作っていたのだった。湯せんでチョコを溶かし、アーモンドを砕き交ぜ入れる。
「え、なんでチョコをそのまま鍋に入れないの……?」
「えぇ……」
製菓会社の娘ならそれぐらいは知っておきなさいよ。
なんとなくわかったのだが、千智は料理音痴の傾向がある。
レシピ通り作れと言ったら作るんだろうし、それはいいが、なぜそうするのかを理解してなくて、やっちゃダメなことを楽だからやろうとするかもしれない危険性がある……。
俺の湯せんを見せてなきゃ多分絶対チョコを鍋にそのまま入れてる。
「チョコそのまま入れると焦げちゃうんだよ。湯せんでゆっくり溶かしてね、型に流しいれるの」
「ほえー。そうなんだ」
千智は初心者なのでとりあえず型を使って流しいれる簡単なチョコレートから始めることにした。
千智にバトンタッチして、今度は俺のほうのチョコに移る。レシピを見て、簡単だと思ったので俺は生チョコレートを作ることにした。
俺は片手鍋に生クリームを入れて中火で温める。
「ホットミルク?」
「違う。生チョコ用の生クリーム」
「……生チョコとチョコって何が違うんだろうね?」
「普通のチョコは水分量が3パーセント以下なのに対して生チョコは10パーセント以上……だったかな。仮にも製菓会社のご令嬢なんだから少しは知っておきなさいよ」
「お菓子作りにあまり興味ないし私……」
「製菓会社の娘に生まれた子としてそれはどうなんだ」
この万家。
俺でも聞いたことのあるぐらい有名な製菓会社を運営しているし、なんなら俺もよく食べているブランドっていうかお菓子メーカーだった。
ポテトチップスにチョコレート菓子などのチープでジャンキーなスナック菓子もあれば、ちょっとお高めの羊羹やおまんじゅうなど和菓子のほうも製造販売していてお菓子というお菓子にかかわってんなって最初思った記憶がある。
そんなお菓子メーカーの一人娘はお菓子作りに興味がなさすぎる。せめて少しは知識だけでも身に着けようぜ……。
「ま、こういう時大事なのは想いだよ想い!」
「想いを大切にって言えるのは作れる側の人間なんだよなぁ……。しかもそれ作れない側が言うと味は二の次って言ってるようなものじゃん」
「それはそれ。これはこれ。で、何してんの今は」
「チョコ刻んでる」
「溶かすんだから刻む意味なくない?」
「刻んで均一に溶けるようにするんだよ。ブロック状だとムラができてチョコの風味とか飛ぶから」
と、ネットに書いてあった。
俺自身、チョコを作った経験がないから……。まずは基本レシピ通り作って、作りまくって慣れたらいろいろと改良とかしていく予定。
最初は基本に忠実なのが一番無難なのだ。
「……音子ってマジで料理できるよねぇ。ムカつく。男だったくせに」
「やってりゃ誰でもうまくなるんだっての。男とか関係ないっての……」
「そーいうもんなの?」
「そーいうもんなの」
ようするに何事も慣れなのだ。
まぁ今のご時世、出来合いのものでも美味しいし、香織さんの料理は絶品だし千智がわざわざやる理由が今ないからな。
俺は単にバイト代とかでやりくりして余った分を料理とかに当てたらちょっと料理が面白くなってやり始めただけだし。一人暮らしなら自炊より買って食べるほうが安上がりで済むから割と料理って一人暮らしだとする意味がないんだよね。
「全部溶けた?」
「溶けた!」
「じゃ、溶けたやつを型に流し込んでな。流し込んだら冷蔵庫で1時間……かそこら冷やす」
「そこだけはわかる! 冷やさないと固まらないもんね」
「そこだけはわかるようで何よりだよ……」
俺のほうも生クリームが沸騰直前までいったので火を止めて刻んだチョコレートが入ったボウルに流しいれる。
泡だて器を持ち、ひたすらかき混ぜる。湯気が出なくなるまで、チョコレートと生クリームが完全に溶けてクリーム状になるまで。ひたすらかき混ぜかき混ぜ……。
混ぜ続け、やっとそれっぽくなってきたのであらかじめオーブンシートを敷いたバットにそのクリーム状になったチョコレートを注ぎ込む。
1時間冷やして、ココアパウダーをかければ完成。手首が痛いです。




