素直じゃないんだから
「ってことは途中からその百花っていう人格が出てきたのか?」
「そう。あ、上がり」
トランプをしながら、百花ちゃんのことを詳しく話していた。
ところどころ嘘を交えながらも百花ちゃんという存在を認知させることには成功したようで、そんな不思議なことがと呟いている。
すると、俺の携帯に着信が来たのだった。
電話の主は千智ちゃん。
「はい」
『もしもし、今日は帰らない感じ?』
「そうだね。大吹雪だし外に出るのも危険だから」
『そっか……。あ、あのさ。無理も承知で言うんだけどさ』
「うん?」
『こっち来れたりしない、かなって』
千智ちゃんが珍しく弱音を吐いていた。
この吹雪の中来いというのはなかなか鬼畜じゃないですか? とはいっても、原因は百花ちゃんにあるわけだし、俺だって代わってしまったっていう罪もある。そこはちょっと後ろめたい。
『ごめん、こんな吹雪なのにそんなこと言っちゃって。忘れて』
「……いや、いくよ」
『危ないって!』
「危ないことは何度もしてきたから大丈夫」
俺は電話を切り、私服に着替えることにした。
旅行鞄から分厚い生地で出来ている服を、少しでも暖かそうな服を選び、コートを羽織り、帽子をかぶってスキー用のゴーグルを装備する。
「どこいくつもりだ」
「千智ちゃんのところ」
「危ないぞこんな天気じゃ」
「知ってる」
でも、千智ちゃんはせっかくの旅行なのに病院で一人きり。本来は今日帰る予定だったのだ。
せっかくの旅行を一人で過ごさせるというのは俺自身もものすごくさせたくない。少しでも無理をして千智ちゃんにも楽しんでもらいたいじゃん。
「……どうしても行くのか?」
「いく」
「はぁ……。俺もついていく。少し待ってろ」
と、ユキもついてくるようだった。
俵さんたちは必死に止めてくる。この天気じゃ歩いていくのも難しい。
「心配しないで。死ぬことにはならないから」
「死ぬかもしれないっていうんだぜ!? こんな吹雪俺ら慣れてねぇし無理だって!」
「死ぬのは慣れてる。気にすんな」
俺は耳をふさいで、ラウンジへと向かうのだった。
重装備のユキが現れ、どうしても外へ出ていきたいところがあると告げると、旅館の人が無理はしないでといって扉を開けてくれた。
冷たい雪風が俺らを吹き付ける。
「さっきよりは明るくなったな」
「そうだね」
「手を放すなよ」
「わかってるよ」
ユキと手をつなぎ、千智ちゃんが入院している病院へと向かっていく。
千智ちゃんが入院しているのは小さなクリニック。ここからそれほど遠い距離ではない。徒歩でも行けなくはない距離だけれど、この吹雪の中、そこまで歩くのはものすごく遠くなような気がした。
ゆっくりと、風にあおられながら歩いていく。
足が埋まるくらい深い雪。とても歩きづらい。
「こんな吹雪も東京にいたら体験できないしいい機会だな」
「そうだね!」
「寒くないか?」
「大丈夫。今どこらへんかな」
「コンビニが見えたし、コンビニを曲がったらすぐだ」
「そこまで来てるんだ。千智ちゃん、小さなクリニックのほうに連れてきてよかった。大病院とかだったらもっと遠かったね」
「そうだな。この町の大きな病院には距離が離れてるし、移しておいて正解だった」
吹雪の中、歩いていく。
コンビニの明かりが見える。こんな吹雪の中でもコンビニは営業しているようだった。
「昼食とか諸々買って行こう。しばらくあっちにいることになるかもしれないからな」
「わかった」
コンビニに立ち寄り、昼食とかを購入したのだった。
おにぎりとお茶を数本。外に出て、クリニックへと向かっていく。
クリニックにやっと到着し、雪を払い、中へと入っていった。
「どうなされましたか?」
「万 千智のお見舞いです!」
そういって、俺らは千智ちゃんが入院している病室へと向かう。
息を切らし、千智ちゃんの病室を開けると、千智ちゃんはあんぐりと驚いた顔をしていた。
「本当に来ちゃった……」
「来いっていったのは千智ちゃんでしょうが」
「そうだけど……。こんな吹雪の中無理してこなくてもいいのに」
「寂しいんでしょ。千智ちゃんだってもっといい気分になってほしいからね」
「……音子ってそういうところある」
「嫌いじゃないでしょ?」
「まぁ……」
素直じゃないんだから。




