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パニック

 百花ちゃんは軽快に滑っていく。


「ひゃっほぉおおおう!」


 と、雄たけびまで上げ、悠々と銀太郎を抜かしていったのだった。

 銀太郎は「うそぉ!?」と驚きの声を上げていた。


「うははっ! たのしーねこれー!」

『あまり無茶するなよ……』

「わかってるよー!」


 下までつくと、もっかい乗ろうと行こうとして、誰かに肩をつかまれたのだった。

 肩をつかんだのはユキで、ユキは俺の目をまじまじと見る。


「お前……百花、か?」

「せいかーい! さっすが彼氏! わかってるぅ!」

「……なんで交代してるんだ?」

「やりたかったから代わってもらった!」


 ユキはため息をついた。


「俺らだけならまだしも、銀太郎、城前、俵と百花の事情を知らないやつもいるからあまり目立った行動はするなよ。説明が面倒だから」

「わかってるって! 幸村! もっかい滑ろ!」

「ユキって呼べ! じゃないと不自然だろうが!」


 百花ちゃんはユキをひっぱりゴンドラへと連れていく。

 ゴンドラの中で二人きりとなったのだった。普段ならいいシチュエーションなのだが、表に出てるのは百花ちゃん。俺が表に出てたらいいシチュエーションだったのになぁ。


『百花ちゃんって演技そこまでうまくないでしょ……。俺が意識失ってた一か月間どう乗り切ったのさ』

「基本的にしゃべらずにいった!」

『あー、まぁ、喋らなきゃボロでないか』


 行動面がちょっと違和感あるけど。俺と違ってだいぶアグレッシブだから……。


「音子と喋ってるのか?」

「そーだよ! あ、そういえばこのシチュって恋人といい関係になりそうなシチュエーションだね! ゴンドラの中で二人きり……何も起きないはずがなく……」


 わかってるなら代わってほしい。

 が、代わるつもりはないようだった。それを察したのかユキも窓枠に手をついて窓の外の景色を眺めはじめたのだった。 

 か、肝心なところでムードをブレイクするなぁ百花ちゃん……。


「さー! また滑るぞー!」

「あ、コラ! 勝手に行くな!」


 百花ちゃんはユキをおいて滑り出したのだった。

 百花ちゃんはだいぶ慣れてきたのか、かなり速度を上げて斜面を滑っていく。ユキがどんどん突き放されて行っていた。

 スキーウェアの上からでも風を感じる。


 速度も最高速に達してきたであろうとき、突如目の前に千智ちゃんが出てきたのだった。


「えっ」

「危ないっ!」


 百花ちゃんはそのまま千智ちゃんにぶつかったのだった。

 千智ちゃんを巻き込んで、そのままもつれて大きく雪煙を上げる。百花ちゃんはいてて……と頭を抱えていたが。


「大丈夫か!?」

「ごめん、お姉ちゃ……」


 雪煙がなくなる。

 それと同時に、見たくもない現実が目の前に入ってきたのだった。


 真っ赤な鮮血が、純白の雪を紅く染めていた。

 千智ちゃんは額から血を流し動かない。百花ちゃんはその千智ちゃんを見て、どうしようもないことをしてしまったのだと理解する。

 理解し、硬直する。


「音子! お前何やってるんだ!」

「ち、ちが……そんなつもりじゃ……!」

「生きてるか!? とりあえず手当てが先だな……! 血をまず止めないと……!」

「どうしたの!?」

「どうしたんですの!?」


 銀太郎と、俵さんが血を流して倒れている千智ちゃんを見る。


「音子様……!」

「音子……! お前……!」

「ち、ちが……」


 百花ちゃんはパニックになってしまっているのか、言葉が詰まっていた。


「とりあえず救急車呼べ俵!」

「りょ、了解ですわ!」

「財前はどうした! 音子!」

「お、置いて……」

「なにがあった」


 ユキがやっと追いついたのか、目の前の光景を見て言葉を失った。

 百花ちゃんはパニックになってしまい、目を閉じる。そして、俺に体の主導権が戻ってきたのだった。その瞬間、ユキが俺を平手打ちしたのだった。


「……ユキ、あの、その」

「……戻ってたのか!?」

「今さっき……」

「わ、悪い!」


 ユキは平手打ちしてきたことを謝ってきたのだった。


「……とりあえずそれはあと。ユキ、俺のことを説明しよう。じゃないと俺に飛び火するし」

「そうだな。百花のことを説明しておいたほうがいいだろ」


 ユキはため息をついていた。











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