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よせ鍋

 鍋がぐつぐつと煮える。

 箸をつっこみ、しいたけを拾い上げて口に運ぶ。


「うーん、やっぱ俺はこっちのほうがいいわ……」

「お前、家でいいもん食えんのになんで俺らと鍋してんの?」

「庶民のお前らと居るほうが気楽」

「庶民で悪かったね」


 直虎たちと同じ鍋を突っつく。

 

「まぁ、見ようによれば女子との鍋パと捉えることも可能でありますな」

「まぁ、たしかにねぇ。僕たち女性と無縁だから」

「彼女、全員いたことない童貞グループでありますからな。音楽はモテると直虎がいっておりましたのに」

「うるせえ。人間はしょせん顔なんだよ」


 ざっくり切られた野菜と、適当につっこまれ、塊になっている豚バラ肉。これこそが雑な大学男子飯といっても過言じゃない。

 直虎たちと一緒に夏場にたこ焼きパーティとか若者がやるようなことをひたすらやった記憶が残っている。


「それで? 直虎はそれでもお隣さんといい関係になりそうだったのでありましょう?」

「そーなの?」

「……引っ越したんだよ。お隣さんが」

「……お隣さんって女性だったの?」

「ここ、家賃安いし女子大が近いから女子大の子が来たんだよ。その子といい関係になりそうだったのであります」

「引っ越しちゃったかぁ。なんでだろーね?」

「……彼氏ができたって報告を受けた。彼氏んとこに越した」

「ぶふっ」


 あっちは直虎のこと眼中になかったんだな。哀れっつーかなんつーか。

 ちょっと笑うと、直虎は不機嫌そうにこっちを見る。


「そういうお前は浮ついた話とかねーのかよ? 女の子になったけど心は男だから彼氏作れませんとか言うんだろどうせ」

「ん? 彼氏はできてるけど」

「……マジぃ?」


 ぽかんと情けない顔をしていた。


「はあああああ!? お前マジで男と付き合ってんの!? 男なのに!?」

「今性別上は女だよ。それに俺もちょっと女の子っぽく精神が引っ張られてんだよ。お前らにときめかねえのはお前らの性格をよく知ってるのと顔だ」

「ほほう? 結婚式には呼んでくれるでありますか?」

「おう呼ぶ呼ぶ」

「おほーっ、すごいことだねぇ」

「お前らは受け入れてんのかよ!」

「だって女性でありましょう?」

「ま、女の子だし」


 直虎だけは俺が男と付き合ってることを受け入れないようだ。

 いや、まぁ、わかる。俺が男だったという前提があるからな……。直虎も絶対いないだろということで茶化そうとしたのにそう来たから混乱してるんだな。


「それに、今の時代はそういうことも古いのでありますよ」

「まぁ、BLとかは僕たちはあまり好まないけどそういうの好きな人もいるし、音助……音子の場合はちょっと性的な話になるけど出産もできる元男なわけだし問題ないでしょ?」

「それは……そうだけど……。くそっ、たしかに盲点だった! 彼女欲しいなら最初に音助にアプローチすべきだった!」

「いや、お前らとは正直ない」


 普段の生活を知ってるし、なんつーか仁たちはまだしも直虎はぐうたらな面があるから絶対家のことはちゃんとしないという不安がある。

 だから多分アプローチされても無理。


「で、今日はなんで鍋しようって言ってきたの?」

「ん? あぁ、そうそう。俺、お前らと同じ大学にまた行くから」

「……えー来るの?」

「そのほうがバンドやる時便利だろ。同じ大学にいるんなら連絡もしやすいし時間の調節もしやすい」

「そらそうだね」

「っつーことは」

「音子はネオエスケープを抜けるつもりはないのでありますな?」

「ないよ。大学にいったら本格的にバンドまた入る。あと1年ちょい待っててくれ」

「わかった」


 直虎は何の確認もせずわかったとだけ告げる。

 ほかの二人も異論はないようだ。


「で、お前らは進展ねえの? バンドつっても今なにもできてねえんだろ?」

「ボーカルがいないからなー。お前以上のボーカルがいるとは思えんし」

「お、おぉう……」


 そう言い切られるとは思ってなかった。








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