第7話
田坂全慶が三原を旅立って10日程後、田坂全慶は意気揚々と帰ってきた。
そして、開口一番に、
「喜べ、(沼田)小早川家の婿養子として、上里正道殿を迎えることが決まったぞ。正式に結婚した後、小早川家当主として、通名である平の字を受け継ぎ、道平にも改名するとのことだ。但し、道平ではなかった正道殿は未だ12歳なので、現段階では婚約ということになるがな。14歳になり次第、永子様と正道殿は速やかに正式に結婚される」
「「ええっ」」
田坂全慶が言い放った言葉に、周囲は腰を抜かした。
「ふっ、上手く行ったわ」
田坂全慶は自分の考えが間違っていなかったことに内心で満足していた。
いきなり、上里松一に面会を求めても上手くはいくまい、そう考えた田坂全慶は、まずは本願寺に赴いて、仏道修行中の小早川繁平を介して紹介状を書いてもらった。
更にその際に合間を縫って、自分と永賢尼と会う時間を作ってもらい、永賢尼の袖にすがって、永賢尼がこの縁談に反対しない、という言葉を貰ったのだ。
そして、紹介状の伝手で上里松一と会ってすぐに。
「この縁談、インド株式会社に利益を産むためにも持ち込みました」
「ほう。お互いに利益があると言うのですか」
「ええ」
田坂全慶は懸命に上里松一に弁じた。
この縁談が調えば、安芸、備後、伊予の瀬戸内海沿岸部において、小早川家の勢力がインド株式会社と提携するのが見えるものになる。
既に宇喜多家との縁談により、インド株式会社は備前、備中、讃岐の瀬戸内海沿岸部に伝手を得た。
そして、小早川家とも手を組めば、瀬戸内海沿岸主要部にインド株式会社は伝手を得られるのだ。
「宇喜多家は、そもそもを言えば、地頭とかの上がりではなく商人上がり、未だに備前、備中、讃岐の商圏に一定の影響力を持っています。それもあって、上里家は宇喜多家との縁談に応じた、と私は見ましたが、如何なものでしょうか。この際、安芸や備後、伊予にも力を伸ばしませんか」
「ふむ。確かに上里家にとって悪い話ではありませんが。小早川家の利益はどこに」
上里松一は、小早川家の利益がある筈だ、それを明確に示せ、と田坂全慶の言葉に対して言った。
「小早川家を守るためです。今、安芸の国司代、毛利元就からの圧力が小早川家に対してあり、今の小早川家にはそれをはね返す力がありません。この際、インド株式会社の重役である上里家と縁を結べば、毛利元就と言えど、小早川家に圧力を掛けられることは無いでしょう」
「更に言えば、小早川家は、永賢尼を通じて本願寺からも庇護が得られるでしょうね」
「仰せの通りです」
上里松一とのやり取りで、田坂全慶は背中に汗が浮かぶのを覚えた。
「よろしいでしょう。家族と相談しての話になりますが、この縁談を受ける方向で考えましょう。ですが、小早川家の看板が残るだけになる覚悟はしておいてください。外部からの援けというのは、結局はそういうものですよ」
「分かっております」
上里松一の言葉は厳しかったが、裏に何故か温もりを田坂全慶に感じさせた。
その言葉に、田坂全慶は全てを賭けることにした。
そして。
「正道本人も、妻の愛子も賛同しました。正道を小早川家の婿養子に差し出しましょう。それでは、例の件については、良しなにお願いします」
「無論、全力を尽くします」
その翌日、上里松一の承諾の返答を貰った田坂全慶は、三原に速やかに帰還したという次第だった。
「従五位下の官位を持ち、インド株式会社の代表取締役の上里松一の側室腹とはいえ、息子が小早川家の婿養子になられるのだ。文句があるのか」
部下のどよめきに対し、田坂全慶は意気揚々と言い放った。
思えば、田坂全慶にとって人生最高の時だった。
次話がエピローグで完結になります。
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