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第4話

 とは言え、そう何もかも急に決められる話ではない。

 それに、肝心の(沼田)小早川家に遺された繁平と永子は、まだまだ幼いという現実がある。

 そうしたことから、田坂全慶は(沼田)小早川家の後見人の立場を最後には振りかざして、取りあえずは繁平と永子様の成長を待ってから、(沼田)小早川家の当主を決めよう、ということで、当面は押し通すことにした。

 とは言え。


 これはこれで、禍根を残した。

 田坂全慶が、(沼田)小早川家の乗っ取りを策している、という噂が流れることになったのだ。

 全慶としては、そんなつもりは全く無いのだが、繁平を京都の盲学校に入れたことまで、繁平を地元から引き離して、お家乗っ取りを容易にするためだ、という噂まで流れては。

 流石に全慶も心外な話だ、と周囲に怒鳴り回らざるを得なかった。


 そんなこんながあって、繁平は京都に赴き、盲学校に入って点字等の勉強をするようになり、永子は三原の地元に残って、小学校へと通い、という生活を1549年からは送るようになった。

 全慶は沼田の市の管理をするという仕事があったが、年に2度、年末年始とお盆の頃には、繁平を京に迎えに行き、また、連れて帰るという生活をこの頃にはした。

 というのも、それなりの背景があったからだ。


「盲学校は全寮制が基本なのですか。お兄様が気の毒です」

「ええ、ですが、それなりの理由はあります。何もかも、周囲が助けていては自立できません。敢えて、寮での共同生活の中で、適宜の支援を行った方が、自立ができるというのが、盲学校の基本方針です」

「だからと言って。実の子どもと暮らせない繁平兄様のお母様が気の毒すぎます」

「だからこそ、年末年始やお盆の頃は、某が繁平様を京まで迎えに行き、母子水入らずの時が過ごせるように努めるのです」

 そんな会話を、この頃の全慶と永子は交わすことになった。


 そして、時は流れて1554年の1月。

 この時、全慶はいよいよ来春に迫った繁平の盲学校の卒業を前に頭を痛めていた。

(この当時、この世界の盲学校は6年制だった。

 様々な問題を抱えていたことから、この世界の盲学校は、4年制の小学校と同程度の教育を6年間ですると共に、他に点字等の教育も併せて行っていたのだ)

 全慶からの様々な働きかけにより、本願寺の方では盲学校を卒業した後、繁平が本願寺の僧侶になるのを受け入れる旨、了解が得られてはいたが。


 繁平が本願寺の僧侶の修業を始めるということは、いよいよ永子の婿を探さねばならない、ということでもあった。

 永子は、小学校を卒業した後、初等女学校へと進学を果たしており、初等女学校を卒業次第、婿取りをすると周囲は皆、考えているのが現実だった。

 そして、永子は早生まれでもある。

 となると1557年春には、永子は結婚せねばならない。


 まだ3年もある、という見方が成り立たないことはないが、そうのんびりも構えてはいられない。

 安芸、備後の国人衆から、我が家の息子を永子の婿に、という圧力は高まる一方で。

 中には、安芸の国司代を務める毛利元就という超大物までいるのだ。


 毛利元就からは、

「この際、竹原小早川家を継いだ三男の隆景と、永子様を娶せて、小早川家を再統一すべきでは」

 という声、圧力が全慶に対して掛かるようになっている。


 全慶はこれに懸命に抗しているが、元就は、小早川家の一族である浦家等に対して、硬軟織り交ぜた対応をすることで、自分の味方につけてしまった。

 こうしたことから、元就は、

「隆景と永子様を娶せることを、小早川一族の大半が支持している。小早川家の再統一をしよう」

 とまで叫ぶようになった。

 全慶は自分が徐々に孤立無援に近づきあると痛感せざるを得ない状況だった。

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