世界が救われる
空を覆っていた黒い雲が、春先の雪のようにすうっと溶けていった。大地を包んでいた不吉な気配も、いつのまにか消え失せている。
静寂。
そして――爆発する歓声。
「マリアンヌすげーーー!!」
真っ先に声を上げたのは子どもたちだった。両手を振り回し、跳びはね、互いに抱き合って、ただただ彼女の名を叫ぶ。
「オォォォォ!!」
魔物たちまでが、どこか誇らしげに胸を張って吠えた。
普段は凶暴な彼らでさえ、今日は妙に礼儀正しい。大地を覆っていた巨大パズル――マリアンヌが組み立てた光の模様が、彼らの心まで穏やかにしているのだ。
「遊びが……世界を救った……!」
大人たちは呆然と呟いた。ありえない、そんなはずがないと頭では思っている。しかし、目の前で広がる光景は、その常識を簡単に塗り替えてしまう。
ルネは震える指で額を押さえた。
(この子を“危険だから”と閉じ込めようとしていた?
……正気じゃない。どう考えても、マリアンヌはこの世界の宝だろうが!)
振り返ると、マリアンヌは満面の笑みで大地を指さしている。
世界を救った本人が、一番楽しそうだった。
「ねえ、次はもっと大きいの作ろ?」
「世界が保たなくなるからやめてぇ!!」
ルネは思わず悲鳴を上げた。
だがマリアンヌは、まるで「次はどんな遊びにしようか」とワクワクしている子供そのものだった。
空には光が満ち、街には笑い声が戻る。
人々が抱いた恐怖も偏見も、全部、彼女の遊び心ひとつで溶けていった。
――こうして、世界は救われた。
しかも、誰も予想しなかった方法で。




