子どもたちの作った“秘密通路”が奇跡を起こす
遺跡内部は、機神オルド・ガイアの唸り声のような低音で満ちていた。
赤い光が壁を走り、まるで侵入者を監視する血管のように脈打つ。
その中を、マリアンヌを先頭に一行が駆けていく。
「中央部まであと少し……だけど、この先は敵のセンサー網が濃いな」
ルネが険しい表情で地図を確認した瞬間、横から小さな声が上がった。
「あるよ、近道!」
振り向くと、遺跡に詳しい子どもたちが胸を張っていた。
「ここをくぐれば中央部にすぐ行けるよ!」
指さす先には――壁の下部にぽっかり開いた、猫一匹が通れそうな小さな穴。
大人たちは同時に固まった。
「……狭い! 通れん!」
「無理だ無理だ、肩幅が……!」
だがマリアンヌは迷わなかった。
「じゃあ匍匐前進だ!!」
「なんで戦場でほふくぅ!?(泣)」
「ここ戦場だよね!? 運動会じゃないよね!?!?」
悲鳴を上げる大人たちを尻目に、マリアンヌと子どもたちは慣れた動作で穴に潜り込んでいく。
この“秘密通路”は、かつて彼女たちが「宝探しごっこ」のために自分たちで掘り、隠し、磨き、飾りつけまでしたもの。
子ども特有の柔軟な身体と遊び心がなければ絶対に見つからない。
そして何より――大人では絶対に思いつかない。
「ほらほら、早く来てー! まだ最短ルートが残ってるよ!」
「う、動けん……肩が……詰まる……!」
隊長格の兵士が半泣きになりながら必死に匍匐前進していると、後ろからザハードが肩を押した。
「覚悟を決めろ。戦場で生きるには……柔軟性だ!」
「言ってる意味がわからん!!」
穴の中は曲がりくねり、子どもサイズの落とし穴や、小さな橋、さらには“宝箱(中身は石ころ)”まで残っていた。
だが――この狭すぎる通路には、機神のセンサーは一切入れない。
完全な盲点だった。
やがて、最後の狭穴を抜けたとき。
視界がぱっと開け、中央制御室へ続く巨大ホールへと出た。
ルネが息を呑む。
「……まさか……本当に敵の防衛網を……完全突破した……?」
マリアンヌは汗をぬぐいながらニッと笑った。
「ふっふーん! “遊び専用ルート”は大人泣かせなんだよ!」
後ろを見ると、兵士たちが全員、泥まみれ・涙目・肩の皮が擦り切れていた。
「ぜ、絶対……二度と……入りたくない……!」
「子どもって……恐ろしい……」
しかし――その苦労は大勝利へと直結する。
“遊び心で作られた秘密通路”が、
国家級兵器を突破する唯一のルートとなったのだ。




