マリアンヌ、全く理解していない
アレクシオンが連行され、行政院の前には安堵と高揚が入り混じった空気が漂っていた。
泥だらけの少女を中心に、魔物も子どもも職人も学者も、まるで戦勝祝いのようにざわついている。
その中心で、当の本人は――。
マリアンヌ
「ねえねえ! あの泥トンネルすごかったでしょ!?
ほら、床がさ、思ったより柔らかくて……!
泥団子も完璧な球体だったんだよ!? 聞いてる!?」
彼女は胸を張って得意気だ。
対して、全身の泥をなんとか払っていた王太子ルネは、深いため息をついた。
ルネ
「……お前、ほんとに何と戦ってたの?」
マリアンヌ
「え? 土と? あと、ちょっと硬い壁?」
周囲の者たちが一斉にズッコケかける。
子どもたち
「マリアンヌちゃん、敵は『壁』じゃないよー!」
学者
「しかし、あの突破力は創造性の極致だ……!」
職人ギルド
「泥団子で兵士を追い払うやつがどこにおるか!」
ザハード将軍は豪快に笑う。
ザハード
「はっはっは! この小娘は、本人が一番無自覚なのが恐ろしいわ!」
丸石ゴーレム
「オォ……(同意)」
カミラ副官も、まだ額に泥をつけたまま微笑む。
カミラ
「……世界を変える人とは、こういう方のことを言うのですね」
ルネは苦笑しながらも、彼女の頭をそっと撫でる。
ルネ
「まあ……お前が無事なら、それでいい」
マリアンヌはぽかんとしながら首をかしげる。
マリアンヌ
「え? なんかみんな疲れてるね?
ちょっと掘っただけなのに?」
その無邪気な一言に、場の全員が――
たまらず笑った。
魔物も、子どもも、職人も、敵国兵ですら腹を抱えて笑う。
この少女の無自覚な行動が、どれだけの人を巻き込み、動かし、救ったのか。
それを誰より理解していないのは、彼女自身だった。
だが、その“分かってなさ”こそが世界を変えていく――
誰もが、改めてそう思わずにはいられなかった。




