しかし行政院の廊下で黒幕と遭遇
泥まみれトンネルを突破し、
マリアンヌは行政院の廊下へと飛び出した。
「たのしかったぁぁ!!次はどこ掘ろっ――」
そのとき。
「……脱出……だと?」
低く押し殺した声が響いた。
廊下の奥、冷たい石造りの柱の陰から、
黒幕アレクシオンが姿を現す。
彼の表情は怒りとも驚愕ともつかぬ、
何とも言えない“理解不能”の色に染まっていた。
泥まみれの少女が、ぽふっと立ち上がり、にこっと笑う。
「おじさん、なんでこんな固いとこで遊んでるの?」
「遊んでない!!!!」
アレクシオンの怒号が廊下に響く。
「これは国家の中枢だぞ!?
遊ぶ場所などでは――」
「え、じゃあどうしてこんな狭い廊下で棒振り回してるの?」
「棒!? これは剣だ!!」
怒りで顔が真っ赤になったアレクシオンは剣を抜いた。
鋭い音が金属を震わせる。
だが。
「わっ、危ないよ? せめて泥団子の盾作ろうか?」
「いらん!!近寄るな!!」
「えっ、なんで!? 遊びたいんじゃないの!?」
「ちが――っ!?」
アレクシオンの言葉は最後まで続かなかった。
マリアンヌが泥のついた足で一歩踏み出すたびに、
床に泥が飛び散り、滑る。
それを避けようとアレクシオンが下がれば、
マリアンヌは逆に追ってしまう。
結果――
「やめろぉぉぉ!近づくな!!私は泥が――おおっ!?滑る!!」
「わぁ!おじさん速い!」
「速くない!逃げてるだけだ!!」
行政院の廊下を、
泥まみれ少女に追われる高官という地獄絵図が誕生する。
そこへ副官カミラが剣を構え、アレクシオンを庇うように前へ飛び出した。
「アレクシオン様!お下がりを――きゃっ!?」
しかし。
彼女の足が、廊下に落ちていた泥団子の破片を踏んだ。
ツルッ。
「きゃああああ!!?」
優秀な副官カミラ、
泥に足を取られ、そのまま一直線に滑っていく。
スーッ……ゴン!!
「ぐはっ……!?」
「あああ!?副官さん平気!?」
「だ、大丈夫です……!!(大丈夫じゃない)」
アレクシオンは剣を構えたまま、
目の前で繰り広げられるカオスな惨状に口をぱくぱくさせていた。
「な、なんなんだ……この状況は……
私は、私は国家の秩序を守ろうとして……」
だが泥まみれのマリアンヌが、じりじりと近づいてくる。
「ねぇ、おじさん。外でみんな待ってるよ?
なんかお祭りみたいになってた!」
「祭り!? なぜ私を追い詰める側が祭りを――!?」
アレクシオンの常識は、もはや限界に達しつつあった。




