マリアンヌの友人ネットワークが勝手に動く
――そして王太子ルネの「非公式要請」は、
予想をはるかに超える速度と規模で広がった。
まず、森の外れ。
丸石ゴーレムが、地面をドスン、ドスンと踏み鳴らす。
「……マリアンヌ、イナイ」
横でぷよぷよ跳ねる風船スライムが、
ぷるん、と震えながら叫んだ。
「ピィー!!(さらわれたっぽい!)」
その声に、周囲の魔物族が一斉にざわめき出す。
「マリアンヌ危機!?」
「行くぞ!!秘密基地の仲間を助けるのだ!!」
魔物の大群が、街へ向けて大行進を開始した。
***
一方、街の住宅区。
近所の子どもたちが全力で走り回り、
「マリアンヌちゃんが捕まったー!!」
と好き勝手に情報を叫び散らす。
「誰に!?」
「大人に!!」
「なんで!?」
「わかんない!!」
わからないまま全員走り続ける。
結果、町中の子どもが雪崩のように行政院へ向かうこととなった。
***
さらに職人ギルド。
重厚なハンマーを持つ親方が机を叩き割らんばかりに叫ぶ。
「恩人を閉じ込めるだと!?
あの“空飛ぶ水車”の天才発明少女をか!!」
「許せん!!」
「人としてあり得ん!!」
職人たちが怒りの鉄槌を手に、次々と立ち上がる。
「行政院に殴り込みだーー!!」
いや、やめて。
***
そして学者棟。
普段は静かな書斎が珍しくどよめいていた。
「遊び文化こそ創造性の源泉だ!」
「彼女を拘束するなど教育的観点からも重大な損失!」
「国家の未来が危機だぞ!!」
学者らは研究資料を抱えて抗議集団を形成する。
「行政院前でデモだ!!」
いや、だから落ち着いて。
***
そして極めつけ。
国境を越え、敵国・赤鋼帝国。
「……マリアンヌが捕らえられた?」
将軍ザハードはしばらく沈黙し、
ゆっくりと立ち上がった。
「恩返しの時が来たようだ」
部下
「将軍!?まさか……!」
「当然だ。部隊を編成する。
“遊びの英雄”を閉じ込める愚か者どもに、
鉄槌を下す」
敵国軍、堂々と救出に参加。
国家間の線引きとは。
***
そして――王国行政院前。
そこには、想像を絶する光景があった。
魔物族の行進、
走り回る子どもたち、
鍛冶屋の巨漢集団、
白衣の学者隊、
そして赤鋼帝国軍の一団。
露店まで出ており、もはや軽い祭り状態。
「やきそばー! 投票券つきだよー!
“マリアンヌを救えフェス”限定ー!」
兵士
「な、なんだこの状況はぁぁぁ!?」
アレクシオン
「……バカな。
なぜ少女ひとりのために、
世界規模の混乱が起きている……!」
その答えは一つ。
――マリアンヌが、“みんなのヒーロー”だからだ。




