まず王太子ルネが激怒
マリアンヌ拘束の報が王宮に届いた瞬間、
執務室の扉が衝撃で震えるほどの勢いで開かれた。
「アレクシオンッ!! なぜマリアンヌを捕らえたんですか!」
普段は温厚な王太子ルネが、机を叩かんばかりの勢いで詰め寄る。
しかし当のアレクシオンは、微動だにしなかった。
「国の秩序を保つためだ、殿下」
「あれのどこが秩序だ!!?」
吠えるように返すルネ。
だがアレクシオンは淡々と言う。
「少女ひとりの“遊戯”で国政が乱れ、民が浮かれ、
各国が我が国を侮る。
ならば、根から断つだけのこと」
「あなたは……!」
ルネの拳が震える。
怒りで理性が吹き飛びそうになる。
目の前の男を殴り飛ばしたい。
王太子の権限を使ってでも直ちにマリアンヌを取り戻したい。
だが――王族としての立場が、足を縛る。
(僕が力づくで動けば……それこそ彼らの思うつぼだ。
“王太子は遊び文化に毒されている”と断じられる……)
奥歯を噛みしめ、ルネはわずかに俯く。
呼吸が荒れ、感情だけが燃え上がる。
そして――決意した。
(正式な命令が出せないなら……“非公式”に動くしかない)
ルネは執務室を出ると、
廊下を歩きながら懐から小さな魔導通信石をいくつも取り出した。
それぞれに短く言葉を込める。
「――マリアンヌが捕らえられた。
助けてくれ。すぐに」
子どもたちへ。
職人ギルドへ。
魔物の代表者へ。
冒険者チームへ。
そして、なぜか敵国の将軍の番号まである。
(彼女を救えるのは……彼女を“理解している”人たちだ)
魔導石が光り、無数のネットワークに情報が広がっていく。
ルネは大きく息を吸い、目を閉じた。
「絶対に……取り戻す」
震える拳を胸元で握りしめ、
王太子は静かに、しかし確固たる意志で動き始めた。




