黒幕サイドの過剰反応
アレクシオンは一時の動揺を振り払うように肩を震わせた。
「……連れて行け。最下層の“魔封牢”だ。二度と外へ出られぬようにな」
その言葉と同時に、秩序警備隊の兵士たちがマリアンヌを囲む。
彼女はしかし、連行されながらもきょろきょろと周囲を観察し、
「へえ〜、こんな地下施設あったんだ!」
と興味津々だ。
やがて到着した魔封牢は、重厚な扉と魔力吸収刻印で守られ、
“国で最も危険な存在”を閉じ込めるための施設だった。
兵士たちは震えながら、少女ひとりを中に押し込み、扉を閉じる。
が――。
「よーし! 今日の探検は“地下通路作り”だー!」
次の瞬間、牢内から聞こえてきた声は、まさかの元気いっぱいの宣言だった。
そして、ガリッ……ゴリッ……ッガリィ……と、
とても国家施設とは思えない音が響き始める。
「……おい、今の音は……」
「ま、まさか……掘ってる……のか……?」
兵士たちが扉窓から覗くと、マリアンヌが床をスコップで勢いよく掘り返していた。
どこから出したのか、手慣れた動きで土を処分し、
すでに小さな“ほら穴”のようなものすらできている。
「ちょ、お、お前っ! やめろ!!
掘るな! ここは国家施設だぞ!!」
兵士の叫びに、マリアンヌは振り返り、やたら元気よく答えた。
「だって冒険って穴掘りから始まるでしょ!
脱出通路もできるし! ワクワクするよね!」
「やめてくれぇぇぇ!!」
兵士の悲鳴が虚しく反響する。
魔力を封じる牢に少女ひとり――という想定だったはずの計画は、
“スコップ持った小学生メンタル”という予測不可能な要素にあっさり崩壊し始めていた。
アレクシオンは外の監視室で報告を聞き、
「……なぜ掘れる……? なぜその発想が出る……?」
と頭を抱える。
それは、彼らが最も理解できない“遊びの理不尽さ”そのものだった。




