黒幕の決断
薄闇に沈んだ大広間。天井近くまで届く魔導管が低くうなり、紫の光が壁面を脈打つように走る。
その中心に立つ男――アレクシオンは、報告書を握りしめたまま、静かに息を吐いた。
「……元凶は――少女マリアンヌ」
その声は低く、しかし確かな怒気よりも“確信”の冷たさを帯びていた。
側近たちは息を呑み、互いに視線を交わす。
遊戯文化――いま世界を席巻しつつある、あの不可解で、しかし人々を熱狂させる新しい潮流。
それが、たった一人の少女から始まったというのか。
「アレクシオン様……。しかし、その少女はまだ十にも満たないとか……」
恐る恐る告げる側近の声。
「年齢は関係ない」
アレクシオンの瞳が射抜くように光る。
「秩序を揺るがす火種であるなら、芽のうちに摘む。それが世界を守る者の務めだ」
その言葉は、迷いではなく決断。
世界の流れを変えはじめた、小さな遊戯文化。
それが人々を自由へと誘う一方で、彼のように“制御”を重んじる者には、恐るべき混乱の始まりに映っていた。
「拘束し、遊戯文化の拡散を止める」
アレクシオンは宣告する。
その場の空気が凍りつくほど、冷たく、絶対的な声で。
「……ただの遊びに、ここまでなさるのですか?」
思わず漏れた側近の言葉。
「“ただの遊び”が、最も危険なのだ」
アレクシオンは静かな笑みを浮かべた。
それは慈悲ではなく、支配者の確信に満ちた微笑。
「人は自由を覚えた瞬間、もう二度と檻に戻らない。ならば――その自由が形になる前に、砕くのみ」
光のない大広間で、彼の宣告は不気味なほど響き渡った。
こうして、マリアンヌを巡る運命の歯車が、音もなく動き始めるのであった。




