世界が落ち着きつつある
魔王級モンスターの暴走が鎮まり、世界にはようやく穏やかな風が戻ってきた。
各地の街では復興作業が進み、壊れた建物には新しい柱が立ち、瓦礫だった場所には子どもたちの笑い声が戻りつつある。
――しかし。
「……なんだ、あれは」
王都の大通りを視察していたルネが、額に手を当てて呆れとも困惑ともつかない声を漏らした。
街道沿いに並ぶのは、復興施設ではなく――
巨大跳ね橋スライダー、回転式魔力コーヒーカップ、さらには“魔物と握手できるふれあい広場”。
復興よりも遊び場のほうが圧倒的速度で増殖していた。
「すごくない?あそこなんか、昨日まで更地だったんだよ?」
となりで、マリアンヌが胸を張って説明する。
彼女の足元には、丸石ゴーレムの子どもがちょこんと座っており、風船スライムがぽよぽよと跳ねていた。
通りの向こうでは、職人たちが叫んでいる。
「マリアンヌ様の“スリングショット技術”を応用した絶叫コースター、完成間近だー!」
「風船スライムとの共同研究で“衝撃吸収ドーム”が発明されたぞ!」
「魔術師団にも新しい遊戯魔法が広まりましたー!」
王都は、完全にテーマパークと化していた。
「……いや、平和なのはいいんだけど、これはこれでどうなの……?」
ルネは限界のため息をついた。
「いいじゃん!楽しそう!」
マリアンヌは満面の笑顔で答える。
まるで、この光景が『世界があるべき姿』であるかのように。
ルネは天を仰いだ。
(……いや、これはこれで別の意味で世界の危機だろ……)
しかし、彼女の笑顔がもたらす“平和”を否定できる者は、どこにもいなかった。




