マリアンヌはいつも通り:秘密基地の増設
世界のあちこちで異変が噴き出し、王城は緊迫した空気に包まれていた。
魔術師団や騎士団が慌ただしく走り回り、ルネは各地から飛び込んでくる報せに頭を抱えている。
だが――。
その中心人物であるはずのマリアンヌは、
裏庭でトンカチを振り回していた。
「……おい。何だ、この騒音は」
ルネは額を押さえながら裏庭へ向かう。
聞こえてくるのは、木材を切る音、風魔法の爆音、金属が曲がる悲鳴。
そして広がっていたのは――
前王都規模の建築現場だった。
「ふんぬッ! もう一本! そこ支えてー!」
ツリーハウスは三階建てになり、
その横に魔物専用の巨大滑り台(全長100m)が完成しつつあり、
さらに水陸両用バギーが試運転中で泥水を撒き散らしていた。
極めつけは――
ごろごろ並ぶ丸石ゴーレム。
以前作った"ぽよぽよ君"が、量産されて軍団になっていた。
護衛A
「……姫……いったい何を……?」
マリアンヌ
「ん? 見ればわかるでしょ? 秘密基地の増築!」
ルネ
「いや、こんな時に増築してどうするんだ!? 世界が危ないんだぞ!?」
マリアンヌ
「だって遊び仲間が増えたから広くしないと! 狭いとケンカになるし!」
護衛B(小声)
「遊び仲間=魔物たちのことを言っています……」
ルネ
「知ってる!!」
マリアンヌは胸を張り、スコップを掲げる。
「魔物さんたち、最近どんどん来るんだよ?
“あっちが危ないから避難させてくれ”って!」
護衛A
「えっ、それ……異常事態の原因に関わってるのでは……?」
ルネ
「……マリアンヌ。君、本当に何をしているかわかっているのか?」
マリアンヌ
「んー? わかんないけど、みんな困ってるから居場所広げてる!」
ルネ
「(わかってないのは確定だ……!!)」
だが――
この“無自覚な増築”こそ、後に世界を救う奇跡に繋がるのだと、
その場の誰も知る由もなかった。




