王国評議会、ついに決断する
王都中央宮殿――玉座の間に設けられた評議会室は、いつになく重たい空気に包まれていた。
庶務官が震える手で議題を読み上げる。
「本日の議題……『遊び文化の国家的推進について』」
広間がざわつく。そんな中、国王は額に手を当てながら、ぽつりと漏らした。
「……遊び文化……これを国として――本当に推進すべき……なのか?」
重鎮たちが次々と立ち上がる。
■財務大臣の報告
「陛下。
観光収入、前年比三百%増でございます」
ドサッ、と大臣が積み上げた資料の束。
表紙には『魔物アスレチック迷宮 来場者統計』と金文字が踊る。
「地方にも“遊戯宿”が増え、宿泊税も右肩上がり。国庫は、歴史上稀に見る黒字でございます!」
廷臣たちがざわりと色めき立つ。
■軍務卿の報告
「魔法ドッジの普及により、兵士の反応速度・回避能力が飛躍的に向上。
演習中の事故率も三割減です」
「軍が……遊びで強く……?」
「強くなるのですよ、陛下」
■文官の報告
「迷宮型謎解きイベントの全国開催により、研究志望者が増加しております。
“遊戯を研究する学問”なるものまで生まれまして……」
「遊びが学問に……?」
「はい、陛下。もう講座も満席でして」
■教育長の報告
教育長は鼻をすすり、目を真っ赤にしていた。
「子どもの……子どもの笑顔が……まぶしいのです……!
登校率も上がり、授業態度も改善し……“遊んで学ぶ”が、新時代の教育に!」
「いや、そんな泣くほど……?」
「嬉しくて……!!」
報告が出そろい、再び静寂が降りた。
国王は深く息を吸い、玉座からゆっくりと立ち上がる。
「……うむ。ならば――」
重臣たちが固唾を飲む。
「“国家遊戯庁”を設立する!
遊びの力を国の礎とするのだ!」
「「「新機関!?!?」」」
広間が爆発したようにどよめいた。
■ルネ(内心)
その隅で、侍従長ルネはそっと顔を覆った。
(……もう完全に“あの子”の国だ……
王国は今日、正式にマリアンヌ王国へ変わった……)
しかし、口元にはどこか誇らしげな笑みが浮かぶ。
(……まあ、楽しそうだからいいか)
こうして王国評議会は、歴史的な決断を下した。
遊びが、ついに国家事業となったのである。




