マリアンヌ、何もわかってない
夕暮れの王都。戦の気配はすでにどこにもなく、
ただいつも通りの静けさが戻っていた。
そんな中、ルネは急ぎ足で森へ向かった。
敵軍撤退の謎を確かめるため……という名目ではあるが、
胸の奥では「また彼女が何かしたのでは」と確信していた。
「ルネー!!」
木々の間から、元気な声が跳ねるように飛んできた。
泥と水にまみれ、髪を無造作にまとめ、
目をきらっきらに輝かせたマリアンヌが駆け寄ってくる。
「見て見て!今日ね、新作の水滑り台が完成したの!
すっごかったよ!敵の人たちもいっぱい遊んでくれて――」
「敵の……?」
ルネの目が細くなる。
「うん!すごく楽しそうに滑ってたよ!
帰るときみんなヘロヘロだったけど……満足してくれたと思う!」
(……それは“楽しさ”のヘロヘロじゃない)
心の中で突っ込みつつも、ルネはもう言葉を失っていた。
マリアンヌは無邪気に胸を張る。
「ねぇルネ!明日はもっと大きいの作るから!
一緒に手伝ってね!」
「えっ……あ、ああ……」
ルネは思わず頷いてしまう。
マリアンヌはぱぁっと笑い、
丸石ゴーレムやスライムたちとまた森の奥へ走っていった。
彼女の背を見送りながら、ルネは深く息を吐く。
(遊んでいただけで、戦争を止めるなんて……
本当に、底知れない人だ)
その呆れと尊敬と少しの愛しさが混ざった吐息を、
夕風が優しくさらっていく。
――こうして、“遊び”による戦争回避という前代未聞の快挙は、
当の本人がまったく気づくこともなく幕を閉じた。
だが、これはまだ序章にすぎない。
マリアンヌの自由奔放さは、
この先も世界を振り回し――
そして救い続けていくのだった。




