王都側:何も知らずに戦争回避
王城の作戦会議室には、依然として緊張の色が張りつめていた。
武官も文官も、固唾をのんで国境からの続報を待っている。
「……敵軍の動きは?」
ルネが低く問いかける。
「現在も国境付近に布陣しているとの報告が……」
「三獣将軍が動いているという噂も……」
誰もが最悪の展開を覚悟したそのとき――
ばたんっ!
扉が勢いよく開き、斥候が転がり込むようにして叫んだ。
「敵軍――撤退しました!! 全軍、後退を開始!!」
「な……ぜ……?」
ルネは絶句する。
会議室の全員が同じ顔になった。
誰も状況を飲み込めていない。
斥候は汗を滴らせながら続ける。
「わ、わかりません!
ただ、偵察隊も三将軍も……森で何かに巻き込まれたらしく……」
「森……?」
ルネのこめかみがぴくりと跳ねる。
その時、護衛が遠慮がちに手を上げた。
「その……マリアンヌ様ですが……」
「本日、森で遊んでおられたそうです……」
会議室の空気が一瞬で察した。
ルネは天を仰ぎ――
「……また……か……!!」
彼の嘆きは王城に響き渡り、
しかしその裏で、王国は確かに救われていた。
当の本人は、己の影響を何ひとつ知らぬまま――
今日も森で笑っていた。




