戦意喪失、そして撤退
ヴァルザード帝国の皇帝執務室。
三獣将軍は、泥と傷と湿気をまとった哀れな姿で帰還していた。
「……で? 偵察隊に続き、お前たちまで何があった」
皇帝は眉をひそめる。
沈黙。
三人の間に、言葉にできない恐怖が漂う。
最初に口を開いたのは“断罪の虎”ラグナだった。
「陛下……敵国は……
異常なまでに……陽気でした……」
「……陽気?」
皇帝は理解できないといった顔をする。
続いてフェルミナが震える声で言った。
「兵の士気が……戦場ではなく……
遊園地で崩壊しました……」
「なに……?」
最後に、熊将軍グラドが膝を押さえながら叫ぶ。
「す、水滑り台ッ……!!
もう一回……いや違う! 今のは忘れてください!!」
皇帝は目を細めた。
「……説明しろ」
三人はそろって絶望した顔になり、
目を合わせ、深呼吸して――
「「「あれは……戦場ではありませんでした!!」」」
ラグナ
「丸石ゴーレムが追いかけてくるんです……!笑顔で!」
フェルミナ
「つる草ウルフが……木の上へ連行してくるんです……!」
グラド
「水風船が……!高速で……!何故か爽快で……!!」
皇帝
「……お前ら、正気か?」
三将軍は震えるほど真剣だった。
「「「攻め込めば、こちらが精神的に死にます!!」」」
数秒の沈黙ののち――
皇帝は立ち上がり、叫んだ。
「じゃあ撤退ッ!!」
「「「撤退ーーッ!!」」」
その日のうちに、ヴァルザード帝国軍は全軍撤退。
国内記録に残る“史上もっとも早い戦争終結”であった。
※ただし理由は「精神的危険度:極高」。




