三将軍、マリアンヌの“遊びの世界”に巻き込まれる
三獣将軍は、森の奥でようやく“その存在”を目にした。
木々の間を抜けると、そこには――
巨大な水滑り台。
ロープライン。
ネットハンモック。
そしてその中心で、足をぱたぱたさせながら何かを調整している少女。
マリアンヌ。
彼女は三人に気づくと、ぱっと顔を輝かせた。
「わあっ!新しい人たち来た!
ねぇ、遊ぶ!? 遊ぶでしょ!?
はいっ、まずこれ!」
――ぽす。
無邪気すぎる動作で、マリアンヌは水風船を三人に押しつけるように投げた。
「「「!?!?!???」」」
戦場で修羅を見てきた猛将たちでさえ、
この“想定外すぎる攻撃”には反応が遅れた。
「な、何を――」
ラグナが言いかけた瞬間、
――ぱしゃあん!!
水風船がグラドの胸に直撃。
「……っ!? き、気持ちいい……だと……?」
熊の巨漢が、まさかの爽快感に目を見開いた。
「ほらほら、投げ返していいよ!!」
マリアンヌが満面の笑みで促す。
「なっ……!」
ラグナとフェルミナが制止する間もなく、
グラドは本能のまま水風船を投げ返していた。
――ぼふん!
「良いぞぉ!!もっとだァ!!」
完全に遊びにハマってしまった猛将・グラド。
「グラド!正気に――」
フェルミナが割って入ろうとした瞬間、
「とれた! フェルミナつかまえたっ!」
つる草ウルフが足元からツタを巻きつけ、
軽々と木の上へ連行していった。
「な、離せ! 私を木の上に――やめっ……!」
フェルミナは枝の上でバランスを取るのに必死だ。
一方ラグナは――
「……なんだこいつは……!」
丸石ゴーレムが両腕を広げ、
ずしん、ずしんと足音を響かせながら迫ってくる。
ラグナは全速力で逃げる羽目になった。
「待てぇ……!ま、待てこら石ぃいい!!」
「ゴロゴロ〜!!」
石の巨体なのに、やたら速い。
森はもう、戦場ではなく完全な遊園地と化していた。
「すごいね!!
三人とも運動神経いいよ!!」
無邪気に拍手するマリアンヌ。
三将軍はそれぞれ別の方向で追われ、絡まり、投げられ、転がり――
(こ……こんな命の使い方……)
(戦場で見たことがない……!!)
(この国……まともじゃない……!!)
三人の心は、もはや戦意どころか、思考すら崩壊しかけていた。




