巨大水滑り台に強制参加させられる偵察隊
泥にまみれた偵察隊が、なんとか立ち上がった瞬間だった。
「……っぐ!? な、何だ貴様はッ!」
草陰から飛び出した影が、隊長の腰をがっしりとつかんだ。長く伸びた蔦――いや、蔦でできた狼のような魔物が、器用に身体を巻きつけ、隊長以下数名を軽々と持ち上げる。
「に、逃げ――!!」
「ムリ。」
つる草ウルフが涼しい声で言い放ったかと思うと、そのまま彼らを荷物のように抱え、森の奥へと疾走する。
連れて来られた先は、巨大な木の上に設置された、異様に滑らかで長い“何か”だった。妙にキラキラしていて、凶悪な角度で地上へ伸びている。
「す、滑り……台……?」
隊長は震えた声で呟いた。
その視界に、ふわっと現れる少女。
「はい!準備オッケー!? じゃあいっくよーーーっ!!」
「ま、待て!我々は敵国の者で――」
少女――マリアンヌは返事を聞く気などさらさら無い。手をブンと振った。
どぉおおおおおおん!!!
轟音とともに、偵察隊は水飛沫の嵐に包まれ、高速で滑り落ちる。背中が吸い込まれるように加速し、風が顔を叩き、叫び声が森中に響く。
「ぎゃああああああああ!!?」
「無理無理無理無理無理!!!」
「速度が……!馬より速い!!」
そして――盛大に池へドボン。
派手な水柱が上がり、池のほとりで丸石ゴーレムが、石の大きな両手をぱちぱちと叩いていた。表情は無いが、明らかに満足そうである。
「……かっ……げほっ……!」
水面から隊長が顔を出した。全身びしょ濡れで、心は完全に折れかけている。
そこへ、マリアンヌが池の縁からひょこっと覗き込んだ。
「私はマリアンヌ!ねっ、楽しいでしょ?」
にっこり笑う少女。天使のような笑顔。
だが――偵察隊の心境は地獄そのもの。
(楽しいとかじゃない……命の危機……)
(これ、処刑具とかじゃなくて遊具なのか……?)
(敵国……なんて恐ろしい……)
偵察隊は震えながら、ただ池に漂うしかなかった。




