マリアンヌ、今日もいつも通りに遊ぶ
森の奥は、王都の緊迫などまるで存在しないかのように、
鳥の声と水音がのどかに響いていた。
その中心で──。
「んしょっ……もうちょい右ー! そうそう!」
マリアンヌは木の上を軽やかに駆け回りながら、
秘密基地の“拡張工事”に夢中だった。
巨大な大樹には、すでに家一つ分はある木製デッキが組まれ、
そこに新設されているのは──
巨大水滑り台。
透明な魔法膜でできたチューブは、
木の上から斜面を滑り降り、池へと一直線。
丸石ゴーレムは、滑り台の角度を確かめながらゴロゴロ揺れ、
丸い体を傾けては満足げにうなった。
「スベリダイ……タノシイ……!」
風船スライムは横でぷるぷる震えながら、
内部でちゃぷちゃぷと水を作り出している。
「ぷるる〜♪(水、補給シマス〜)」
つる草ウルフは枝から枝へ飛び移り、
ツルで編んだロープラインの張力を調整していた。
「アメンボミタイニ走レル水上コースモ作ッタ!」
どこからどう見ても、
魔物たちは完全に施工チームだ。
マリアンヌは腰に手を当て、満足げに頷く。
「よし!
敵国が攻めてくる前に完成させなきゃ!」
魔物たち「「「オォォーッ!!」」」
……だが。
マリアンヌは“敵国”という言葉を
「遠くから来るお客さん=新しい遊び仲間」
くらいの感覚でしか認識していなかった。
「だってほら、初めて来る子たちには、
すっごい遊びでおもてなししなきゃでしょ?」
丸石ゴーレム「モテナシ……!」
風船スライム「ぷるっ(任セテ!)」
つる草ウルフ「遊ビ仲間、大歓迎!」
森でだけ、王国は平和そのものだった。




