ヒロインの焦りと空回り
ヒロイン・エリスは、ついに耐えきれず壇上で叫んだ。
エリス
「ちょ、ちょっと待ってください!!
なんで誰も怒らないんですか!?
本来ここ、断罪する場面でしょう!?
悪役令嬢が支持されるなんておかしいでしょう!?
台本どこ行ったのよ!!!」
必死の形相。
ほぼ泣き叫ぶような声が大広間に響く。
しかし——
会場は、すでに全く別の空気に包まれていた。
平民の子どもたちはマリアンヌの周りに群がり、
風船スライムは浮かびながら「ぷる~♪」と回転し、
つる草ウルフは落ち着かず尻尾をバタバタさせ、
丸石ゴーレムは会場の柱に新たにラクガキを始めていた。
教師たちは「そろそろ授業に活かせるか…?」と真剣に議論し始め、
修繕職人たちは「この大広間も強度上げよう!」と勝手に計測している。
ルネ王太子でさえ、腕を組んだまま考え込んでいた。
ルネ(心の声)
「……楽しそうだな……」
エリス
「だから! 聞いてくださいってばぁぁぁ!!
あなたたち、悪役令嬢に味方するの反則でしょ!?
私、正ヒロインなのよ!?
なんでイベントが崩壊してるのよぉ!!」
だが、誰も振り向かない。
観客席の生徒たちは——
「ねぇ、次マリアンヌ様どんな遊びするんだろ?」
「ウルフに乗ってみたいな〜!」
「スライム可愛い〜!」
完全にマリアンヌ応援ムードである。
エリス
「うそ……私の断罪イベント……
どうして……どうして誰もセリフ通りに動かないの……?」
視線をさまよわせるエリスの横で、マリアンヌはぺこりと微笑む。
マリアンヌ
「なんかごめんね?
わたし、みんなと遊んだだけなんだけど……」
エリス
「そういうとこが一番おかしいのよーーーー!!」
その叫びは、大広間の天井に虚しく響き渡った。




