ヒロインの告発
壇上に立つエリスは、胸の前で握った両手に力をこめ、
張り詰めた声で叫んだ。
「マリアンヌ様は……っ!」
その声は大広間に響き、観客席が静まり返る。
彼女は涙をため、震える指でマリアンヌを指さす。
「まず……授業中に紙飛行機を飛び回らせ、教室を大混乱にしました!」
観客席の誰かが小声でつぶやく。
「……いや、あれは正直ちょっと面白かった……」
「しっ、黙れ!」
エリスは続ける。
声は必死で、泣き崩れる寸前だ。
「校庭を……水風船の戦場に変えました!
魔法の授業を勝手に……勝手に遊びにして……!」
別の生徒がひそひそ声で。
「あれで友達増えたんだよなぁ……」
「お前も参戦してただろ。」
エリスはさらに訴える。
「そして……そして校庭の大樹に!
危険な秘密基地を勝手に作ったんです!!
教師の警告も無視してっ……!!」
教師席から視線が泳ぐ。
「(まあ…確かに危なかったが……あの場所、妙に落ち着くんだよな……)」
「(お前も行ってたのかよ)」
エリスは完全に涙目だ。
「ルネ殿下のことも勝手に振り回し……!
学園の秩序を! 破壊し続けたのです!!」
観客席の空気が、妙。
「(うん、まあ……そうなんだけど)」
「(事実だけど……なんか……悪いことって感じがしないんだよな……)」
大広間全体に、断罪イベントらしからぬ“しっくりこなさ”が充満していた。
訴えているエリスだけが必死で、
周りの反応はどこか、微妙にズレている。
その目の前で、告発されている当のマリアンヌは——
椅子の背にもたれ、足を揺らしながらニコニコしていた。
「え〜?そんなに色々やってたっけ?楽しかったから覚えてない〜♪」
観客席のざわめきがさらに増す。
(この人……本当に断罪される気ゼロだ……)
エリスの訴えは正しい。
でも“悪事”として成立する空気が、まったくない。
断罪イベントは、形だけ整えられているのに……
どこか致命的に噛み合っていなかった。




