魔法実技を水風船合戦に改造
水属性魔法の実技授業。
校庭の中央で、水の球をつくる練習をしているはずなのに——マリアンヌは、ひとりだけ別の方向に集中していた。
「もっと……ぎゅっとして……よしっ!」
魔力で水を圧縮し、ぷるんと張った透明の“水風船”を生み出す。
教師が眉をひそめるより早く、マリアンヌは腕を振りかぶった。
ぱしゅっ——!
最初の水風船が着弾し、男子生徒が「ひゃっ!?」と叫びながらびしょ濡れになる。
これを皮切りに、校庭は一瞬で戦場へと変貌した。
「きゃー!」「そっち行ったぞ!」「水風船生成、成功っ!」
生徒たちは大歓声で次々に魔力水風船を作り、投げ、避け、笑い転げる。
教師だけが絶望的な顔だ。
「お嬢様ぁぁ! それは授業じゃありません!!」
「だって、いっぱい飛んで面白いんだもん!」
マリアンヌは濡れた髪を揺らしながら満面の笑みで返す。
その様子を、校庭の端から静かに見つめる影があった。
王太子ルネだ。
彼は腕を組みながらも、口元だけわずかに緩んでいる。
(……何をしているんだ、あれは。まったく……しかし……楽しそうだな)
水しぶきが光る校庭の真ん中で、マリアンヌはいつも通り、学園を新たな“遊び場”へと変えようとしていた。




