気弱な風精霊の登場
庭の隅、古い噴水のそばで、かすかな風の渦が小さく揺れていた。
その中に、身長わずか手のひらほどの小柄な風精霊が潜んでいる。淡い青緑の体を光らせ、微かに震えている。
「……あぁ……またお嬢様が……」
風精霊は、普段は王城の庭の風を管理しているだけ。ところが、今日の庭はいつもと違う。
マリアンヌが風船スライムの上で跳ねるたび、つる草ウルフで駆け回るたび、庭の空気がざわつき、風がぐるぐると巻き上がる。小屋の屋根や花壇の植え込みまで、無秩序に舞い上がる始末。
「こ、こんな……こんなことになるなんて……!」
風精霊は必死に抵抗する。だが、マリアンヌが天真爛漫な笑顔で声をかけた。
「ねぇ、手伝ってくれたらもっと楽しいよ! 一緒に遊ぼう!」
小さな体で風を操る精霊の胸は、戸惑いと恐怖でいっぱいだった。しかし、マリアンヌの輝く瞳に押され、仕方なく協力することに。
「……ええと……わ、わかりました……」
風精霊が微かに手をかざすと、風が庭全体に柔らかく流れ始める。スライムやつる草ウルフの動きをサポートし、マリアンヌの空中アスレチックをよりスリリングに演出。
しかし、制御が完全ではないため、時折風が暴走。花壇が宙に舞い、小屋の屋根がひっくり返る。騎士や侍女は慌てふためき、修繕職人は泣きながら駆けつける。
「す、すみません……ちょっと……手が……!」
それでも、風精霊の心の奥には小さな喜びが芽生えていた。
「……この子たちと一緒に……遊んでいる……?」
こうして、気弱な風精霊はマリアンヌたちの仲間となり、以降の協力プレイの伏線として、王城の小さな混乱を影から支える存在となるのだった。




