王太子ルネとの初対面
その日、王妃の計らいで、王太子ルネはマリアンヌと初めて顔を合わせることになった。
案内された裏庭に足を踏み入れた瞬間――視界に飛び込んできたのは、泥まみれ、水浸し、スライムがぷよぷよ漂うカオス空間だった。
「え、ここ……誰が……」
案内役のメイドは顔を青ざめ、手を震わせながら答える。
「……お、お嬢様です……」
ルネは言葉を失った。
脳内の情報処理が追いつかない。
“悪役令嬢=冷酷で気品ある令嬢”という事前情報は、完全に粉々に裏切られていた。
その瞬間、木の枝の上から小さな銀髪の少女がスキップしながら降りてくる。
枝から飛び降りると同時に、泥が弾け、水しぶきが飛び散る。
「ルネ? 遊ぶ?」
無邪気な笑顔で手を差し伸べられた瞬間、ルネの心は完全に処理落ちする。
(な、なぜだ……どうして彼女はあんなに元気なのだ……?)
王太子は立ちすくみ、スライムが足元でぷよぷよ跳ねるのをただ見つめるしかなかった。
マリアンヌにとってはただの“庭で遊ぶ日常”――
だが王太子にとっては、初対面から完全に想定外の悪夢が始まった瞬間だった。




