○小噺8・召喚聖女は女子会を開きたい(後編)
~前編のあらすじ~
サルサと一緒に火の王獣フィッサマイヤの家に泊まり、女子会を開くのだと意気込んでいたマユ。
女の子、つまり魔の者のメスは他に二体いると魔王セルフィスに言われ、たいそう驚いた。
どの魔獣か当ててみろと言われ、考え込んだマユだったが……?
さて、正解発表です。
「うーん……実はユーケルンってメスなの?」
しばし考え込んでいたマユが、ふと思い出したように口に出す。
「どうしてそう思うんです?」
「声がぶっといからオスだと思ってたんだけど、思えば魔物や動物は声が低いからオス、とは限らないものね。それに処女好きだからオス、というのも言えないわ。何しろ世間には百合というのが一大ジャンルとしてあるんだから」
両手を広げ力説するマユに、セルフィスは
「残念ながら不正解です」
と答え、くすりと笑った。
「ケルンはある意味もっともオスらしいオスですよ。生殖機能も残ってますしね。人間との間では受精が不可能なだけで」
「じゃあ、あの喋りは何なの?」
「ケルンは処女を好んで食し進化していったので、先に覚えたのが女性の言葉だったのです。魔獣となってからは自分の獰猛な本性を抑えるために縛りとして使用しています。……まぁ、今ではそちらの方が楽なのでしょうが。女性の警戒心も薄れますしね」
「……ふうん」
セルフィスの説明を聞いたマユが、やや半目になりながら相槌を打つ。
本当にブレないわね、ユーケルン……と思いながら。
「で、もう一体は誰だと思ったんです?」
「サーペンダーかなって。何となく物腰がしとやかな女性を連想させるのよ。言葉遣いのせいかもしれないけど」
「そちらは正解ですね。アメトリアンパイソンの数少ないメスの頂点です」
「メスの頂点?」
何気なく聞き返してから、マユはふと思い出した。
土の王獣マデラギガンダは「アメトリアンパイソンは繁殖性が低く、繊細な生物だ」と言っていたことを。
「アメトリアンパイソンはオスとメスの比が10対1と非常に極端で、またメスがオスを喰らう習性があるんですね」
「えっ」
「メスと同時に生まれたアメトリアンパイソンのオスは、メスのための食糧も兼ねているのです。その中の一体だけがメスの相手に選ばれる。そのため繁殖性に乏しく、地上では絶滅してしまったのですが」
「えっ!? 匣迷宮では平和に暮らしてるけど!?」
「恐らくオスとメスを番にして区画に分けているのではないでしょうか。さらに生まれた卵なども別にして」
「そうなんだ……。今度カバロンにちゃんと話を聞いてみるわ」
マデラギガンダが地上に戻すのは無理だ、と言った意味もわかり、マユはやや反省したように頷いた。
匣迷宮のアメトリアンパイソンはとても貴重なのに、全くわかっていなかった。もっと慎重に扱わなくては、と。
「じゃあ、もう一体は誰? フェルワンドは絶対に違うし、他の魔獣も、何というかオスっぽかったんだけどなあ……。あ、リプレかしら? あまり喋らないけど」
「違います。正解は、フェデンです」
「……えっ!? フェデンって……風の王獣ブレフェデラ!?」
「はい。ですので、魔の者のメスが女の子と言い張るのなら、フェデンとペントも誘わないと」
セルフィスの台詞に、マユは感情が抜けたような表情になる。
「……いや、無理でしょ」
「ですね。フェデンはあの場所を動きませんし喋りませんし、ペントは水脈さえあれば大丈夫ですがあの通り広大な湖に一人きりの静かな暮らしを好んでいますので」
「そうよね。……とりあえず、『人間および人間の女性に擬態できる』女子会、ということにするわ……」
やや項垂れたマユを見つつも、セルフィスは「そうですか」とさらっと流した。
「まぁ、そのメンツならいいでしょう。泊まる必要性がどこにあるのかは全く理解できませんが」
「リラックスして時間を気にせず夜通しお喋りするところに意味があるのよ!」
「……そんなものですか」
なぜそんなに力が入っているのか理解できない、と思いながらセルフィスが適当に相槌を打つ。
「そんなものなのよ」
と力強く答えたマユは、ふと思い出したように再び両腕を組んだ。
「さて、それはそれで置いといて……うーん、『魔の者女子会』、やってみたいわねぇ。ブレフェデラの丘を開催地にすればどうにかなるかしら? 木が生えて植物も育っている以上、水脈はあるはずだし……ちょっと企画してみようかな」
「嫌な予感しかしないので絶対にやめてください!」
どこをどうしたらそのメンツで集まってお喋りをする気になるのか、マユの考えることはやっぱりとんでもない、と恐れおののく魔王セルフィスだった。
思いついた以上、マユはいつか絶対に女子会を開くと思う……。( ̄▽ ̄;)




