最高位と妄想力と
本日、第七十四話を投稿します!
『デュミナス』との決着が着きましたので、いわゆる事後処理です。
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『マスター、お見事でした』
昇級試験と言う名の戦闘を無事に終え、『デュミナス』の面々が治癒師の治療を受けているのをぼんやり眺めていたら、コーゼスト先生からそんな賛辞を送られた。ファウストやデューク、そしてヤトは余力を残しているみたいだが俺やアンは結構ギリギリだった。ルアンジェは──
「ん、今のは色々と参考になった」
飽くまで前向きである。ある意味、うちのパーティでは一番ブレていないのは羨ましい限りだ。
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やがて治療を終えると漸くオルティースが立ち上がり俺達の方に近付いてくる。
「いや〜、参った参った! 本当に想像以上だったな!」
何時も通りの暑苦しい笑顔である。こいつもある意味ブレないな! そして俺にガッチリ握手をしながら
「だがなウィル、ひとつだけ聞きたいんだが──最後に俺を吹き飛ばしたアレは何だったんだ?!」
と突っ込んで聞いて来た。そらまぁ質問されるよな…… 。
『私もそれに関して質問したいと思っていました。あれは一体何だったのです?』
コーゼストからも当然聞かれて、俺はネタばらしをする事にした。
「あれは皇竜砕牙と言う武技だ。俺の剣の師匠から叩き込まれた武技で、本来は槍術のひとつらしい。武闘士が使う寸勁やら発勁やらと同じのだと思ってくれ。詳しくは言葉に表しずらいが、身体のバネを酷使するから連発は出来ないがな」
……本当にあの人は色々と容赦無かったからな。剣技以外も散々叩き込まれた………… 。
『────・・──成程、そうした理論の上に立った武技なのですね』
俺が遠い目をしているとコーゼストが何やら納得している。どうでも良いが人の思考を覗くのは止めろ。
「ほぅ?! そんな武技が有るのか! 是非とも会得したいものだ! ウィル、俺にその武技を教えてくれないか?」
オルティースは一頻り感心すると、今度は教えて欲しいと言ってきた。
「まぁ、機会が有れば……な」
何となくだが、オルティースなら簡単に会得出来そうなのが怖い。ふと辺りを見るとアンとベルナデット、ルアンジェとバルド、そしてヤトと何故かゼラフィーネがそれぞれ何やら歓談していた──何だ、これ?
「おー、皆んな随分仲が良いじゃないか! 狡いぞ、俺も混ぜてくれ!」
一方のオルティースは相変わらず呑気な事を言っている。本当にお前は子供かよ?!
「あら? リーダーだってウィルさんと仲良くされているじゃないですか?」
ベルナデットが意味ありげな顔でこちらに話を振ってくる……ちょっと待て。何だか既視感を感じるんだが?
「おぉ! そうか!? よし、ウィル! 今度から俺の事はオルトと呼んでくれ!」
「お、おぅ」
だからその暑苦しい笑顔で迫るな、鬱陶しい!
『只でさえマスターは友人が少ないのですから良かったじゃないですか』
コーゼスト…………俺は泣くよ?
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結局壮大な不殺戦闘の末、より一層オルティース──オルト達『デュミナス』と親密になった。まぁ一応アレでも先輩のSクラス冒険者だからな。頼りにする事にしよう。
何はともあれ無事に(?)昇級して、グラマスの手からSクラス冒険者の証である星銀の認識札を俺達3人受け取る事が出来た。
「これで君達は名実ともに最高位冒険者の仲間入りだ。これからもよろしく頼むよ」
グラマスは相変わらずの笑顔で俺達に祝福の言葉を掛けてくれる。
「何かあったら何でも聞いてくれ! そしてまた仕合おう!」
オルトが物騒な事を言い、ベルナデットが額に手を当てている。こいつ、本当に当てにしても大丈夫なのか? とりあえずラーナルー市に帰るとするか……何か色々疲れた…………はァ。
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ラーナルー市に非常用転移陣で戻ると、その足でギルマスの居る執務室に向かいSクラスになった事を報告する。ギルマスはとりあえず「おめでとう」とは言ってくれた。尤も続けて「発毛薬の件は引き続き宜しくな!」と言わなければ良かったのだが……全く、俺のささやかな感謝の気持ちを返して欲しいものである。
気を取り直してルピィからまた、Sクラス冒険者の心得等の話を聞かせてもらう。本当ならセルギウス殿から聞こうとしたのだが、「ギルド職員の仕事を奪う訳にもいかないからね」と笑顔で固辞されたのだ──結構グラマスも気を使っているんだな。
「ウィルさん! Sクラス昇級、本当におめでとうございます!! あなたなら必ずなれると私信じてました!」
一方のルピィはやたら瞳をキラキラ輝かせ、グイグイ迫って来る。何だなんだ?!
「これでウィルさんも貴族様ですねぇ〜。叙爵は何時なんですか?!」
「いや……まだ聞いていないんだが」
そういや聞いて来るのを忘れていたなぁ…… 。
「じゃあじゃあ決まったら、是・非・と・も・声を掛けてくださいね! 私も準備がありますので!」
いや待て、何でルピィが準備せにゃならんのだ?
「やっぱりドレスとか新調しないといけませんねぇ〜見窄らしい格好は出来ませんからね、第二夫人としては! あ、勿論アンさんが第一夫人なのは確定してますから安心してくださいね♡」
ちょっと待て! 誰が第二夫人だ?! と言うかそもそも何でアンさんが第一夫人になるんだ?! まだ結婚は疎か同衾すらしてないのに?!
『ルピィさん、凄い想像力豊かですね』
コーゼストが感心したみたいに宣うが、それは寧ろ妄想力って言うんじゃね?
「ルピィお姉さん、しっかりして」
俺の目の前で全開で妄想力を発揮しているルピィにルアンジェが真っ当な突っ込みを入れた──ナイスである。そしてアン、何故に頬を赤らめている?
「はっ?! 広い庭のお屋敷は? 私とウィルさんの赤ちゃんは何処に?」
……ルピィの妄想は何処に向かっていたのか? 一方のルアンジェは「早く説明して」 と飽くまで冷静である。思考を叩き切られたルピィはわざとらしく咳払いをすると説明を始める。
「えっと〜大変失礼しました。それじゃあ改めて…………」
漸く真面目モードになったルピィから聞かされた話は……先ずSクラス冒険者はAクラスより更に制限が緩和され、機密情報以外は簡単に接する事が出来るのだそうだ。当然他の冒険者より真っ先に有用な情報を得る事になる。
また下位貴族扱いになるので王宮から給金が支払われるとの事である。尤もそれは飽くまで最低限であり、冒険者として活動した方が実入りが良いのは間違い無い。
それとギルドからの支援要請は自由意志で選べるが、ギルマスやグラマスからの勅命には必ず従わなくてはならないのだそうだ。まぁその辺は立場と言うのもあるし仕方ないと言えば仕方ない──面倒ではあるが。
あと──これが俺には更に億劫なのだが、今後は他の冒険者パーティーの昇級試験の試験官を熟さなければならないのだ。全く……人を試して裁定するなど俺なんかがしても良いのだろうか? まぁ、どっちにしてもやらざるを得ないが…… 。
「……とまぁ、こう言ったところですねぇ。あとは先輩のSクラス冒険者さんに聞いてみるのも良いかなと思いますよ」
ルピィはそう言って締め括るが──その先輩が一番不安なんだよな〜はァ。
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「んん? あ、あぁぁ〜〜〜〜〜!!?」
何かを思い出したらしく、いきなり素っ頓狂な声を上げるルピィさん。
「?! な、何だなんだ?!」
「ウィルさん、ちょっと待っててくださいね!」
そう言うと慌ただしく執務室を出て行くルピィ。何なんだいったい……?
程なくして戻ってきたルピィの手には何やら皮紙の束が握られていた。
「はいウィルさん、これをどうぞ!」
そう言うと持って来た皮紙の束を俺に手渡す。手渡されたのを良く見ると、10枚程の厚みのある小冊子であった。
「ルピィ、コレは何なんだ?」
「えっとですねぇ〜ソレはSクラスに昇級された冒険者さんにお渡しする事になっている『心得書』です。今の今まですっかり忘れてました! 何せこのラーナルー市冒険者ギルドからSクラスの方が現れるのは初めてでしたので〜てへっ♡」
それを聞いた俺は文字通り本当に盛大に転けたのである! さっき散々色々聞かされたのは一体何だったんだ?! せめてもう少し早く気付いて欲しかった物である──全く!
俺は片目を瞑って戯けるルピィをジト目で睨んでやった。全く、「てへっ」じゃあない…… 。
その一方でギルマスはなにをしていたかと言うと、執務机の上に鏡を置き、鏡に写る自身の髪の毛フサフサの模様を眺めては悦に浸っていたのであった。きちんと仕事をしろ。
なんだかんだで何とか報告を終えた俺とアンは、何とも言えぬ疲労感でぐったりしながらギルドを後にしたのである。
「はぁ……とりあえず終わったな」
「流石に少し休みたいわね……」
奇遇だなアン、俺もそう思っていた。
「暫く休むとするか……」
「その方がいいわね……」
「ん、賛成。休息は大切」
アンとルアンジェの賛同を得られたので、何日かのんびり過ごす事にしよう。
『まぁ、マスター達がそんなに休めるとも思えませんが』
コーゼスト──そんなに不吉な事言うなよな!?
無事にSクラスに昇級したウィル達『黒の軌跡』。まぁこれから気苦労するとは思いますが──主にオルティース絡みで(笑)
そしてルピィの果てない妄想はいずこへ?!
皇竜砕牙…………ウィルが使用した武技。本来は槍使いが使う武技であり、身体全身の筋肉のバネと捻りを使い瞬間的に爆発的な衝撃波を生み出し、槍に伝えて対象の内部からダメージを与える技。生物なら内臓や筋肉、骨格を破壊される場合がある。槍が接触していないと効果が無い。
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