閑話〈5〉自動人形の見る夢
令和第一回目は閑話をお送り致します。
美少女自動人形ルアンジェの話です。
閑話〈5〉
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──────『《血の契約》締結』
──『Ω1000ーZ99機能制限解除』
──『起動確認』
──『封印解除』
────ワタシハ、目ヲ覚マす。
ワタシ──私はΩ1000ーZ99。自動人形だ。
覚醒したワタシの視覚が私の前に立つニンゲンとマモノを捕捉した──視覚認識機能には異常無し。
「この娘が自動人形だってぇのか?!」
──聴覚認識機能にも異常無し。極めて明瞭に感知。
「──ハ・ジ・メま・シて」
──会話機能に異常。発音機能に重大な不具合を確認。直ちに修正処置。辞書検索機能には異常無し。古代大陸語を基礎に変換。付与知識に基ずく行動命令群を確認。直ちに実行。
「初め・ましてマス・ター」
言語変換率61%──言語中枢の処理機能に若干の誤差確認。最初の言葉としては問題無し。
私──Ω1000ーZ99は付与知識でこのヒトを《血の契約》で締結されたマスターと認知する。
────マスター、末永くよろしく。
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目覚めて早速マスター達に連れられて地上に出た。私を管理していた魔導人工頭脳「アルカ」から与えられた情報だと、実に990年振りになる地上だ。
その途中、マスター達から情報提供を受けた。マスター達は冒険者と言う職業なのだそうだ。私が創られた時には無かった職業だ。それだけではなくマスターは古代魔導文明人ではない人間だ。何でも今はマスターみたいな人間が地上には多く住んでいるのだそうだ。
何百年経っていようと、人間が変わっていようと、私は私の製作者に与えられた《原初の命令》に従い行動するだけである。
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私のマスターになったヒトは「ウィルフレド・ハーヴィー」と言う名前の男性なのだそうだ。その横に並び立つヒトはマスターとは違い、エルフと呼ばれる種の「アンヘリカ・アルヴォデュモンド」と言う女性。「ラファエル・アディソン」と言う男性はちょっと変わっていて、「ノーリーン」と言う女性に従っているみたい。
あとはヘルハウンドの「ファウスト」とゴーレムの「デューク」。そして知性ある魔導機のコーゼスト。何でもコーゼストは古代魔族が創り出したものらしい。
それとマスターは自分達集団の事を「パーティ」と呼んでいた。成程「パーティ」とはこうした雑多な集団なのだと理解する。
あとマスターは自分を「ウィル」と呼べと言う。アンヘリカも「アン」と呼んでいいと言う。お陰で言語中枢部への負担が軽減した。もっともこの後には現在世界で使用されている言語を更新しなくてならないので微々たるものなのだけど。
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地上に出るとすぐ、ウィル以外のヒトに大勢出会った。ウィルが所属する冒険者組合と言う組織の責任者のネヴァヤ。ウィルと同じ冒険者の『紅霞』と言うパーティの面々。
誰もが皆、私に〈優しく〉接触して来る。私には知識としての「感情」と言うのは存在する。だけどそれがどの様な思考なのかは今後学習しないといけないのだから、今わかる知識での感覚で〈優しい〉と表現しているに過ぎない。それすらもウィルから受ける感覚と相違があるので断定出来ないのだけど。
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それと私はウィルから名前を授かった。その名は「ルアンジェ」。何でも『月の天使』と言う意味らしいとはウィルが教えてくれた。今まで製作者からは「オメガ」と呼ばれていたのだが、ウィルが付けてくれた名前は何と言うか──私を構成するあらゆる術式に浸透して来る。与えられた知識から導き出されるのは〈喜び〉と言う感情。そして恐らく〈好ましい〉と言う感情だと思う──成程と理解する。
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施設の在るザフィロ山脈からラーナルー市と言うウィル達が住む街に来てから2週間経過した。言葉はラーナルー市までの間、ウィルとアンが教えてくれたので問題無い。勿論、一般的な常識も。もっともコーゼストは「マスターに常識を教えられるのか心配です」と言ってウィルと言い争いをしていたけど。
そう言えばこの2週間は目まぐるしかった。冒険者ギルドに冒険者として登録して、武器や防具を買って、違う村に行って森に巣食うゴブリンを殲滅して、帰ってきたら責任者に怒られて、ラファエルの所に行って魔道具を作って、少し休んだらギルドの修練場で戦闘訓練して、その最中に変なのが来て、戦って、私の階級が上がって、と他にも沢山あった。本当にキリが無いくらい。
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そして初めての、ウィル達にとっては久しぶりの迷宮「魔王の庭」の探索。それまで経験していた戦闘とは全く違う、強力な魔物との戦闘が待っていた。
ウィル達と違い自動人形である私は〈疲れる〉と言う事を知らないけど、この時は初めて〈疲弊する〉と言う事を理解出来た。それだけこの「魔王の庭」と言う場所は過酷なのだ。
その「魔王の庭」の第八階層で遭遇した魔物──守護者は文字通り桁違いの強さで、強襲されてウィルが負傷、一時的にかなり危ない状況に陥ってしまい、私もこの時初めて〈不安〉〈恐怖〉〈悲しみ〉〈怒り〉と言う感情をその身に感じ、文字通り理解する事が出来た。
結局ウィルは復帰したが結果として、私は自分の武装を封印解除する事になった。それほど相手の魔物──ラミアのイーヴィリアードは強敵だったのだ。
やがて戦いの終わり。私達は激戦を制し、イーヴィリアードはコーゼストが新しい仲間として自身の中に取り込んだ。話には聞いていたけど、こうしてコーゼストは魔物の仲間を増やして行くらしい。
こうした所はやはり、コーゼストが古代魔族に創り出された事と関係あるのだろうか?
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「魔王の庭」から戻った私達だけど、ウィルが治癒院で1週間治療する事になってしまった。勿論その間はアンとファウストとデュークと一緒に生活を送る事になり、私はウィルの居ない自分の思考動作に奇妙な不安定さを確認する。だけどそれはウィルの顔を見ると嘘の様に思考回路から消え去ってしまった。どうやら感じた不安定さは〈寂しさ〉による〈焦燥感〉だったのだろうと理解した。
何時もそばに居てくれていたウィルの存在がここまで大きいと言う事を、はっきり自覚した瞬間でもあった。
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そしてあの第八階層の守護者のイーヴィリアードが、新しい仲間として姿を現した。だけどそれはあの戦いで垣間見たのとは違う明朗快活な素の顔だった。あの時見た威厳に満ちた雰囲気は、単なる虚勢だったらしい。
そしてそんなイーヴィリアードにウィルは新たに「ヤト」と言う名を与えた。尤もラミアの方から強請られての事ではあるけど。そのヤトだけど兎に角煩い? 喧しい? ううん、賑やかな性格で何時も何かしら巻き起こすのだ。少しは落ち着いて欲しいとはウィルの言葉だけど。
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そのあとヤトが居た部屋を調査して魔物を創り出す「生産設備」だと言う事が判ったり、その生産設備の管理機構をコーゼストが全て掌握したり、発毛薬と言う怪しげクスリを作製したりもした。だけどどんな時でもウィルは、「仕方ないな」と面倒がりながらも何時も何とかしてきた。
そして今──王都にあるギルド本部に来て、ギルドの最高責任者のグランドマスターと難しい話をしていたら、急に念話の連絡網で私達に意見を聞いて来る。
『私は何でも構わない。ウィルと一緒なら関係ない』
私はウィルにそう答える。単純だけど偽らざる私の思考だ。「仕方ないな」と言う一言だけで私を受け入れ、自動人形の私に何時も気遣い、何時も素っ気ないけど何時も大切にしてくれているであろう私のマスター。そんなウィルと触れ合って様々な経験をして、私は以前より人に近付けたのだろうか?
そんな事を考えると私の思考に製作者から与えられた《原初の命令》が過ぎる。それは一番最初に与えられた私の存在意義。
『人の為に存在し、人の為に行動し、人を理解し己を理解する。そしていつかはヒトに』
私と言う存在がここに確かに存在しヒトを理解出来る時──いつかは来るだろうその時に、私の側にウィルが居て欲しいと思う。それは《血の契約》から繋がる血の繋がり、それは私の新しい存在意義。ウィル、貴方は私をヒトに近付けてくれる存在そのもの。
そして、いつかはヒトに──── 。
ルアンジェの視線での話でした。今回は戦闘はおろか魔法すら無い………… 。
次回より本編に戻ります。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




