周知の密約
本日、第六十九話を投稿します!
グラマスとの話はどんどん進んで行って………… 。
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「それは──最高統括責任者としての勅命なのか?」
「いやいや、本当にただのお願いだから。そんなに身構えなくて大丈夫だよ」
俺の問い掛けに笑顔で答えるグラマス。何となくだが、この笑顔に騙されてはいけない気がするのは気の所為──か?
「そんなに難しい話じゃないよ。君達『黒の軌跡』に僕の直属になって貰いたいんだ。勿論君達を縛り付けるつもりは毛頭無いから安心して欲しい。今まで通りの自由な活動も保証するからね」
…………そう来たか。これはつまり……
「つまり、囲い込みって訳か……」
「そう捉えて貰っても構わないよ。事実、コーゼスト殿の持つ古代魔族を含む過去の知識と技術は僕達のみならずこの世界には過ぎた代物だ。ヒトは緩やかにその文明を進歩させるべきで、急激な変化は必ず軋轢を生むからね」
俺の鋭い指摘に対し、急に真顔になって解答を示すグラマス。確かに今の俺達の文明って奴は983年前より劣っているのは間違い無い。俺達は古代魔導文明や古代魔族が遺したモノを細々を使っているだけで、その技術は未だ理解出来てすらいない、とは知り合いの魔法士も言っていたしな。
そうなるとコーゼストの存在はまさに貴重であり稀有であり、同時にグラマスの言う様な危険も孕んでいる、と言う事になる訳か…… 。
『何やらセルギウス殿は私の事を危険視しているみたいですが、今現在マスターと価値観を共有している以上、私がこの既知世界において大変革を行う事など、この上無く愚かな事をする筈がありません。マスターの大切な人達と大事な世界を破壊する様な事は決して有り得ません』
グラマスの言葉に対しコーゼストが不機嫌に言葉を返す。かなり憤懣やるかたないみたいである。ちょっと意外なコーゼストを見た気がするが──またわからない言葉が出た。
「何だよ、パラダイムシフトって? 」
『大変革とは『技術の急激な進化』と言えば宜しいでしょうか。先程グラマス殿が仰った通り、ある日を境に自分達の生活が急激に変わったら戸惑いませんか? 多少の便利さなら歓迎でしょうが、何もかもヒトが何もしなくても全てが出来てしまう世界──全く有り得ない話ではありません。技術の急激な進化とはそう言う危険性を孕んでいる事なのですから。そしてソレは嘗て古代魔導文明で現実に起きた事でもあるのです』
ひと言聞いただけなのに怒涛の返答である…… 。だが言いたい事はわかった。確かにいきなりそんな事になったら混乱どころの話じゃないからな。まぁ何事も加減って奴が必要って事だな!
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「──何で御主人様達はまだ起きてもいない事を気にしてるの?」
ヤトが不思議そうに尋ねて来る。
「何でって……」
「だって私達魔物と呼ばれてるモノ達は、この道の先に何があるかだなんて心配なんかしないわ。道があるなら行ける所まで行く。その途中で別の魔物やヒトに会ったら戦う、戦って勝って食べて生きる為にね。前にも言ったけど自分が負けたなら、それは自分が弱かっただけだもの」
「……ヒトはそうは生きられないんだよ。道があるならその先を色々考え想像し、何があっても慌てない為に知恵を絞るんだ。何としても生き残る為にな」
「私達も知恵を使うけど、それはいかに上手く、そして手早く相手を倒すかと言う事だけよね」
つまりはただ相手を倒す事のみに知恵を絞ると言う事か……本当に魔物と言われる奴達の考えは単純明快だな。正直羨ましい── 。
「成程……君ら魔物達の思考は極めて単純明快なんだね。参考にさせて貰う事にするよ。まぁ僕達ヒトと言うのはウィルフレド君の言う通り、そうして昔から生きて来たんだ。知恵を絞り策を弄して、より効率的に勝つ為にね──ヒトと言うのは防具を剥ぎ取り武器を奪えば、この世界では最弱な生き物に過ぎないんだから」
ヤトの台詞を受けてグラマスが率直な感想を述べる。こうして魔物の考えが直に聞けるのは確かに貴重ではあるが、セルギウス殿は随分と柔軟な思考を持ち合わせているらしい。
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「さてと……随分逸れてしまったけど、話を戻そうか。それでどうかな? 決して悪い話じゃないと思うんだけど」
……そういや随分と本題から外れまくった。
『皆んなはどう思う?』
手早く念話の連絡網でアン達と相談する。
『私は受けても良いと思うわ。少なくともグラマスには裏は無い様に視えたけど』
先ずアンが自分の意見を述べる。成程……アンの眼にはそう視えたと言う事か…… 。
『私は何でも構わない。ウィルと一緒なら関係ない』
続けてのルアンジェは何時も通りの答えである。まぁ慕ってくれている……のだと思うんだが。
『私も自動人形と同じね。御主人様の傍に居れるなら、あまり拘りとか無いわ』
いきなりヤトが念話に参戦して来た。元々聞くつもりだったので問題無いんだが……聞くだけ野暮だったみたいである。最後は──
『この話、決して悪い話ではありませんが受けるにあたってはきちんと約定を取り交わす事を推奨します。口約束にすると後々齟齬を来す可能性がありますので』
……またコーゼストは小難しい事を…………でもまァ言いたい事はわかる。
メンバー全員の意思をひと通り確認して考えを纏める。因みにファウストとデュークの意見はヤトから確認して貰った。
「グラマス」
俺は纏まった考えを告げる為に口を開いた。
「うん?」
「その話──受けたいと思う」
俺の口からその言葉を聞いたグラマスは溢れんばかりの笑みを顔に浮かべると
「そうかい! 受けてくれて嬉しいよ! それじゃあ早速書面にするから確認して署名してくれるかい?」
そう言うと机の引き出しを開けて皮紙を取り出しながら
「何か君達から付けたい条件はあるのかい?」
と聞いてきた。まぁ、こちらから書類にして欲しいと言う前に書いて貰えるのは有難いが……条件ねぇ…………そうだな…… 。
「それなら1つ。俺達『黒の軌跡』の活動拠点はラーナルー市冒険者ギルドだと明記して欲しい」
とりあえず未だ「魔王の庭」の探索が継続中である以上、そうして貰えるとこちらとしては有難いからな。それにこうして於けばギルマスに貸しが作れる。
『マスターも意外と腹黒いですね』
いやいや、お前ほどじゃないが? コーゼストの念話での突っ込みに思わずそう言う所だったが、グッと言葉を飲み込んだ。
「わかった、その様に明記しておこう。あと所属もラーナルー市にしておくからね」
俺とコーゼストの間でそんな会話がされているとは知る由もないグラマスは早速皮紙に認め始めた。
やがて一気に書き終えると「これでどうかな?」と出来たての書面を見せてくる。読ませて貰った約定は無理強いされている事も無く、此方としては特に異を唱える内容には見受けられなかったが、一応コーゼストにも確認させてみた。
勿論コーゼストからも「問題ありません」との保証も得て、書かれた3枚の書面にそれぞれ署名をグラマスと俺が認めて、1枚はグラマスが、1枚は俺が、そしてもう1枚は王都ギルドがそれぞれ厳重に保管する事になった──やれやれ。
「『黒の軌跡』の諸君、改めて宜しく御願いするよ」
セルギウス殿が椅子から立ち上がり右手を差し出してくる。俺はニッと笑うとしっかり握手を交わしたのである。そして手を解くとグラマスは徐ろに
「さて、では君達には一旦向こうで待機しておいて貰うとしよう。勿論ヒギンズ君にはこの後すぐに僕から経緯は報告しておくから安心して欲しい。とりあえず指示があるのは統括責任者会議を終えてからと言う事になると思うから」
それを聞いて内心ホッとした。どうやらグラマスは会議で俺達に説明させるつもりは無いらしいのがわかったからだ。
「わかった。では俺達はラーナルー市で待機している」
そうして何だかんだの末、グラマスの直属となった俺達はギルド本部を辞する事にした。
この話を聞いたらギルマスは間違い無く卒倒するだろうな………… 。
紆余曲折を経てグラマス直属になったウィル達『黒の軌跡』。コーゼストの持つ可能性と危険性を考えると……妥当かと。
これから舞台は「魔王の庭」から王都に……移りませんので御安心ください!
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




