再び、とある日常 〜やっぱり普通では無い〜
本日、第五十五話を投稿します!
久しぶりに「魔王の庭」に潜ろうと準備を進めるウィル達の、慌ただしい日常をお伝えします!
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──キラッ──
ギルマスの手からルアンジェに真新しい金の札が手渡された。Aクラス冒険者の証である認識札である。
「……しっかりAクラス冒険者として務めてくれよ」
ギルマスはチラリと俺の方を見ながらルアンジェに声を掛ける──何で俺を見る?
「ルアちゃん、おめでとう! それで早速なんだけど幾つか説明があるの。まずは──」
ルピィが嘗て俺達にしたのと同じ説明をルアンジェに言って聞かせ始めた。どうでも良いがファウストを抱いたまましないで欲しいものである。それとは対照的にギルマスは覇気が無い。まぁ色々と気苦労が絶えないのだろうが………… 。
『その気苦労の9割は私達が原因だと思いますが……』
コーゼストが念話でボソッと呟く──奇遇だな、俺もそう思った!
これは本当に回復薬とか差し入れした方が良いかな? と俺がひとり悶々としている一方、ルアンジェは説明を聞き終えて「これでウィル達と同じ」とご機嫌である。
どうやら今まで俺達と階級が違っていたのにご不満だったみたいであるが──そんな事は些細な事だと思うんだがなぁ。
『恐らく──これはルアンジェに芽生えた新たな感情なのでは? 恐らくは "つまらない" と "嬉しくない" と言う感情だと推測します』
念話で自分の推測を言うコーゼスト……だとすると益々ヒトっぽくなって来ているのか。だが………… 。
『ちょっと待て、コーゼスト。その2つの感情を表すのに一番ピッタリな表現があるぞ』
『それは何でしょうか?』
『── "拗ねる" だな』
『──・──成程、これが "拗ねる" と言う事なのですね。私も拗ねてみたいものです』
一呼吸置いて納得したみたいに、コーゼストが答える。お前が拗ねても可愛くないんだが…… 。
「兎に角だ! ルアンジェもAクラスになり、お前達『黒の軌跡』も実質的にベテランと言われるAクラス冒険者パーティーになった訳だ! 頼むからくれぐれも自重してくれよ?!」
やたら頼むから! と言う台詞にギルマスは力を込めて話すが……なるべく心掛けるとしよう。
『その誓いも、マスターは直ぐに忘れますけどね』
コーゼスト、それを言ったらお終いなんだが?!
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無事に(?)ルアンジェも昇級し、俺達の行動制限も解かれ、全く覇気のないギルマスの執務室から街に出た。当然「魔王の庭」に探索で潜る為の買い出しである。
「よぅ、ウィル!だいぶ久しぶりだなァ」
いつもの店でいつも通りにファウストの分も含め多めに干し肉を買う。
「あぁ。暫く外に行っていたが、久しぶりに「魔王の庭」に潜ろうと思ってな」
「アンちゃんもファウストも久しぶりだなぁ……っと、その子は新しいメンバーなのかい?」
「はい、孤児の子を引き取ったんです! ルアンジェって言うんですよ! よろしくお願いしますね♡」
「……ルアンジェです、よろしく」
「そうかそうか、ルアンジェちゃんって言うんだな?! 頑張りな!」
店のおっちゃんはルアンジェの頭に手を置いてガシガシ撫でると、胸に燦然と輝く金の認識札に気付き
「へぇ?! ルアンジェちゃんはAクラスなのかい? 凄いじゃないか!!」
「うん、今日なったばかり」
「ハハハ、そうかそうか! それはめでたいな! 良し! 今日は特別におまけしてやるからな!!」
おっちゃんは豪快に笑うと、ルアンジェに干し肉の包みを1つ余分に手渡した。ルアンジェは包みとおっちゃんの顔を交互に見ると「おじさん、ありがとう」と薄ら笑顔で礼を言った。
「おっちゃん、悪いな」
「なーに、良いって事よ! ルアンジェちゃんの面倒はしっかり見てやれよ!」
そう言って背中を大きな手のひらで、バシッと叩いて来るおっちゃんに苦笑いを浮かべる俺──手荒い応援である。
『皆さん、口より手の方が早いですからね』
そう感想を述べるコーゼストだが……お前も意外と言葉で言うより、ヒトに行動させる方が早くないか?
そのあと食糧の買い出しに3軒ほど店に立ち寄ったが、何故か3軒ともからルアンジェにおまけしてやると言われ、余分に食糧が手に入った。3軒目ともなるとルアンジェも慣れたのか、少しぎこちないながらも満面の笑みでお礼を述べ、店のおっちゃんや女将さんがニヨニヨしていたが……まぁ構わないだろう……多分だが。
『他の人から見るとルアンジェは庇護欲を掻き立てるのでしょうか?』
コーゼスト……また小難しい事を………… 。でもまぁ実際の所、うちのメンバーの中ではルアンジェは見た目可愛いからな〜。少し無愛想気味だったりしても可愛さで帳消しになるから、やはり可愛いのは得をする。勿論だが美人であるアンさんも見た目+性格の良さで得をしているのは言うまでもない。
…………良く考えたら、どちらも俺には無縁な物なのを改めて思い知り軽く凹む。
『……マスターは男なのですから可愛さは必要無いかと』
…………………………そういや、そうだった。
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買い出しを終えて西区にあるガドフリー武具店に来た。「魔王の庭」に潜る前に俺達全員の装備を整備して貰う為である。
この前にも訪れたのだが、前回はドゥイリオ製作のカイトシールドの使い勝手を伝えに訪れただけだったのだ。
今までは自分で整備もしていたのだが、コーゼストから『自己整備より熟練に整備して貰う方が間違いが無い』と勧められたので、そう言うものかと思いながら再度訪ねてみたのだが──── 。
「なかなか良い心掛けだな!」
いきなりドゥイリオに誉められた。
「最近の冒険者や領兵は武具は買ったら使いっ放しで整備に出す事をしない! いざと言う時、敵の一撃で壊れるかもしれん鎧を着て、攻撃を当てただけで折れるかもしれん剣や槍で戦えるのかってんだ!!」
成程……以前ドゥイリオは、自分が手渡す武具は「人を長生きさせる為」だと言っていたからな。俺も自分自身を省みないとな………… 。
そう思いつつ俺は留金を外し、手早く軽鎧を外すと剣共々ドゥイリオに手渡す。それを見ていたアンとルアンジェも、そそくさと武具を外してドゥイリオに手渡した。俺とアンの武具は結構使い込んだので、いい加減くたびれている様子が見て取れる。
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俺達が武具を全て外したのを確認すると、ドゥイリオは店の奥に向かい「おい、仕事だ!」と声を掛ける。店の奥から「はいよ!」と返事があり、やたら小柄な女性が姿を表した──誰だ? その小柄な女性はドゥイリオの所まで行くと、俺達が預けた軽鎧の山を軽々と抱えた──えっ?! 驚く俺を見てドゥイリオが
「紹介して無かったか? 俺の妻のグードゥラだ。俺と違い生粋の侏儒だがな!」
と驚嘆すべき事実を告げてきた! マジでか?!
「……ドゥイリオ、あんた……所帯持ちだったのか?!」
「応よ、ってか俺が結婚していちゃ悪いのか?」
不機嫌そうに顎髭を撫でるドゥイリオに変わって、妻のグードゥラが答える。
「あははっ、ドゥイリオ! あんたいつも同じ事言われるねぇ!」
そして軽鎧の山を抱えたまま、俺達の方に向き直り
「初めましてだね、お客さん。あたしはドゥイリオの奥さんのグードゥラって言うんだ! この人はこんな偏屈だけど、ま、よろしく頼むよ!」
「おい! 誰が偏屈だ?!」
ドゥイリオが怒鳴るが、グードゥラは「あははっ」と大笑いしながら奥に防具を運んで行く──どうやら夫婦仲は良さそうである。
ドゥイリオは小さく「……まったく」と呟くと俺に向かって話し掛けた。
「すまんな。グードゥラは口は悪いが腕は確かだ。俺が保証する」
──いやいや、口の悪さならアンタも負けてないと思うが?
頭に浮かんだ言葉をグッと飲み込む俺。
「何時もは俺がひとりで武具全般やっちまうんだが、急ぎの場合は俺が剣とかの武器を、アイツに防具をやって貰っているんだ」
そう言いながら俺の剣やルアンジェの鎌剣を持つドゥイリオ。
「どの位掛かりそうだ?」
「だいたい……1日見ておいて貰えれば間違い無いな。費用は……修復程度によりけりだ……」
ドゥイリオは顎に手を当てながら、ポツリポツリ答える。
「それなら──」
俺は水晶地図板を取り出し時間を確認すると、あと1時間位で昼になる所だった。
「なら俺達は一旦帰らせて貰って、明日の昼前に来させて貰おう。昼も喰いたいしな」
「それで構わんぞ! 昼は『黄金の夢』か?」
「そのつもりだが……?」
「そうか、ならイヴァンによろしく伝えておいてくれ! またには顔を見せろとな!」
ニヤリと笑いながらドゥイリオはそう告げる。俺はわかったと答え、店を辞する事にした。昼食と聞いて、ファウストの尻尾がブンブン振られ千切れそうである──ちゃんとブラッドブルの塊肉を食わせてやるからな。
「さて……向かうとするか」
「はい、参りましょう♡」
歩き出す俺の右腕に自分の左腕を絡めるアン──えっと、アンさん?
するとそれを見ていたルアンジェは俺の左腕を両手でしっかり絡めとった──ル、ルアンジェ?!
『正に両手に花ですね』
「う、うるせー!!」
珍しく冷やかしてくるコーゼストに、すっかり狼狽える俺──何やら気恥しい!
周りの視線が集まるのを感じながら俺は、急いで『黄金の夢』に向かうのだった。
ある意味表情が豊かな(笑)ウィルに保護されているルアンジェ。益々人間っぽくなってきました! それにも増して人間っぽくなって来ているのは意外にもコーゼストかも?!
そしてウィルは相変わらず──ヘタレでございます!
*グードゥラ…………ガドフリー武具店店主ドゥイリオの奥さん。
半侏儒のドゥイリオと違い生粋のドワーフである。気難しいドゥイリオと結婚した奇特な人(笑)
いつもお読みいただきありがとうございます。




