戦闘訓練 〜馬鹿が笑顔でやって来た〜(☆イラスト有り)
本日、第五十二話を投稿します!
何事にも訓練鍛錬は大事ですが、やり過ぎると弊害が………… 。
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ヒュン──
2振りの鎌剣が煌めきを残しながら振り下ろされる!
ガガキーーン!
それをカイトシールドと長剣を交差させて受け止める俺! 一方のルアンジェは表情を変えないで押し込んで来る! 俺は両腕を押し拡げ、ルアンジェを身体ごと弾き返した! 如何せん体重差では俺の方が有利だな!
だが弾かれたルアンジェは、空中で3回ほど宙返りをすると体勢を立て直して軽やかに着地し、すぐさま姿勢を低くして駆け出した! そのルアンジェに2本の矢を同時に番えて狙いを定めるアン!
『──制圧矢』
流れるが如く、2本の矢を一斉に放つ!
アンが放った矢はルアンジェを捉えた──かと思った瞬間、急に姿がブレたルアンジェに難なく回避される! まるで幻の様にルアンジェが2人に別れたみたいに見える。あまりにも素早い足捌きで、残像が見えているのだとはコーゼストの談ではあるが── 。
俺達の隣りではファウストとデュークが戦闘と言う名の戯れ合いをしている。ここは冒険者ギルドの裏にある修練場、俺達は手持ち無沙汰なのと腕を鈍らせない為に、ここで戦闘訓練をしている最中なのだ。それにしても──周りの冒険者達の視線が集まっているみたいなのは何だ?
「ウィル──余所見しない」
そんな声が背後から聞こえたと思えば、同時に背筋に冷たいモノが走る! 瞬間的に前に飛び退きながら振り返ると、鎌剣を振るっているルアンジェの姿があった──いつの間に?! そっちに気を取られていると、視界の隅にアンが何本かの矢を放つのが見えた!
──うぉい?! 2人とも俺狙いかよ?!
俺は無理やり体勢を立て直すと、先ず向かって来た矢を左のカイトシールドを振り下ろし全て叩き落とす! 『制圧矢』は、そのまま受けると腕が盾ごと弾かれるからな。それを見て何人かの冒険者から「あんな体勢で良く……」と言う声が聞こえた。
俺はその場で身体を半身ひねると、ルアンジェの追撃に向かって空裂斬を放った! 瞬時に鎌剣を交差させて空裂斬の斬撃を受けると、思いっきり後ろに吹き飛ばされるルアンジェ──しまった、やり過ぎたか?!
だがルアンジェは後ろに向かって宙返りを何度か打つと、またもや鮮やかに着地した。周りからは「おぉ……」と言うどよめきが上がった。
どうでも言いがあんたらは訓練しなくて良いのか?
「──ッ、アン、ルアンジェ、ここまでにしよう!」
俺は次の矢を番えようとしていたアンと、鎌剣を構えて突っ込んでこようとしていたルアンジェ双方に声を掛ける。2人とも俺の声を聞くと、そろそろと戦闘態勢を解いてくれたが──どんだけ集中していたんだ?
『そう言うマスターこそ、以前より真剣味がありましたね』
念話で軽口を言うコーゼスト。全く──俺は何時でも真面目だゾ? そんな事を思っていたら周りの冒険者達から一斉に「おぉ──!!」と歓声が上がった。なんだなんだ?!
「皆、君達へ賛辞を贈っているんだ」
不意に背後から声を掛けられ振り向くと、蒼い重甲冑を着込んだ男が立っていた。右腰にはロングソード、右腕には盾装備で金髪の中々の美男である。歳の頃は俺と同じか3歳ぐらい年下か──?
「かく言う俺もついつい見惚れていたがな!」
そう言って呵呵と笑う美男。なかなか絵になる男である。周りの冒険者が「おい、あれは……」と言う声が聞こえるが、恐らくそれなりに有名人なんだろうな、この男。
「んで、それだけで話し掛けてきた訳じゃないんだろ?」
ただ感想を伝える為だけに話し掛けて来る訳が無いしな………… 。
「うん、実は一度手合わせして貰いたくて声を掛けた!」
実に真っ直ぐな言い様だな! 裏も打算も無く実に────
『馬鹿正直ですね』
コーゼストさんや……そう言うのは本人に聞かれない様に気を付けろよ………… 。
「そうか……で、俺達の誰とだ?」
「うん? 勿論3人一緒で構わないぞ!」
──やっぱり馬鹿決定か?
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訓練場の中央で対峙する俺達と美男。周りには訓練を放り出して見物に冒険者達が集まって来たが──どうしてこうなった?!
「……いつの間にか見世物扱いだな」
「その様だな、すまん!」
そう言いながらまた呵呵と笑う美男。正直少し暑苦しい気がしないでも無い。
「そういやあんた、名はなんと言う?」
「うん? あぁ、名前か──オルトだな」
──何が「だな」なんだ?! まぁ良い。
「俺はウィル。彼女はアン、あの子はルアンジェだ」
「うむ、ウィルとアンとルアンジェだな? 良く覚えたぞ! 改めて宜しく頼む!」
そう言いながら頭を下げるオルト。本当に真っ直ぐな奴だな………… 。
「……では行くぞ」
「よし、来い!!」
『本当に良いんでしょうか……』
『同感』
『……こいつの気の済む様にさせよう。行くぞ!』
オルトと会話しながらアン達と念話で話している俺。因みにルアンジェもコーゼストの念話の連絡網に繋がる事が出来る様になったので意思の疎通はバッチリである。
『それじゃあ、先ず私が行く』
ルアンジェが念話でひとこと言うと、オルト目掛けて駆け出した! うちの天使様は先鋒がお好きらしい。
「おっ? 先ずはルアンジェからか!」
オルトはロングソードを左手で鞘から抜き放つと、右腕の盾を前に構える! ルアンジェはいつもと同じ様に姿勢を低く取り、訓練場の地面を這うかの如く突っ込んで行く! そしてオルトの目前で急に踏み込みを変えると、オルトの左側に回り込み右の鎌剣を抜き放った!
当然オルトも左のロングソードを反撃で突き出すが、ルアンジェが鎌剣の向きを変えオルトのロングソードがルアンジェの鎌剣の湾曲した刃に挟み込まれた形になった!
そのままもぎ取られると思った次の瞬間、オルトは潔くロングソードから手を離すと体勢を立て直して右腕の盾でルアンジェを押し込んだ!
だが盾が当たる直前、ルアンジェは盾に脚を当て後ろに飛び退いた! その隙に手放したロングソードを素早く拾い上げ、ルアンジェに追撃を仕掛けるオルト! だがルアンジェは更に後ろに飛び退き回避する!
──この男、かなり強い!
俺はこの男──オルトの評価をグンと上げた。オルトはルアンジェを深追いせず、俺とアンに向かって来た! 判断も的確だな──!
「アン!」
俺はひと声吠えるとオルトを迎え撃つべく、空裂斬を放つと同時に駆け出す! 更にタイミングを合わせる様に、アンが3本番えた矢を同時に放った!
先に放った空裂斬が目前に迫ると、ロングソードを真っ直ぐ縦に振り下ろすオルト! 轟! と言う音と共に振り下ろされた剣圧は、空裂斬の斬撃波とぶつかり合い空裂斬が霧散する! 続けて飛んできた3本の矢は盾を使わず、ロングソードの鋭い剣捌きであっという間に叩き落とした──なんて奴だ!
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剣戟の間合いに達した俺は、上段からの斬り下しを仕掛ける! オルトはそれを盾で防ぐと、俺のガラ空きの右脇を狙ってロングソードで横薙ぎに斬りこんで来る──だが俺だって左利き対策ぐらい考えている! オルトの斬撃を肘当てを使った剣の腹への肘打ちで下へと叩き落とす! そうしながら一旦剣を引き、オルトの左肩を狙い突きを繰り出す俺! 短距離ながらの貫甲だ! だが剣先が当たる寸前、上半身を捻り突きを躱すオルト! そしてそのまま下から斬り上げてきた!
「くっ?!」
俺は剣を握る右手と腕に力を込めて、オルトの斬り上げを受け止めた! 一旦お互いに引くと、今度は正面から切り結び鍔付近で競り合う形になった!
「なかなかやるな、ウィル!」
「あんたも相当だな、オルト!」
オルトの獰猛な笑みにつられて俺も顔に笑みが浮かぶ!
『マスター、楽しそうですね』
コーゼストが念話でそう言って来るが、俺は戦闘狂じゃないからな!?
アンもルアンジェも俺達2人の気迫に呑まれて動けずにいたが「そこの2人、止めなさい!」と高く澄んだ声が訓練場いっぱいに響き渡った。
声がした方に意識を向けると、アンと見まごうばかりの美女が腕を組んで立っていた。アンと違うのは金髪であり、背も高そうである。何より胸が……大きい。そして耳が尖っている──森精霊か?
エルフの女性は呆れた声色でオルトに向かい声を掛ける。
「オルティース・トリスタン。貴方またやっているの?」
!? オルティース・トリスタンだって?!
俺は剣を交えた先に居るオルト改めてオルティース・トリスタンと、エルフの女性を交互に見詰めて固まったのだった。
結局、変なのに絡まれたウィル達でした。
アンもですが……ルアンジェもチートです(汗)でも無自覚でもあります(笑)
弊害とはいきなり勝負を挑まれる…… 。
いつもお読みいただきありがとうございます。




