帰還 ~自動人形にも懐かれました~ (☆イラスト有り)
本日、第四十四話を投稿します!
折角問題を解決したのに、トラブルの元を押し付けられる事ってありません?
☆自動人形の少女のイラストを掲載しました!
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「はァ………」
俺は思わず大きな溜め息をついた。
迷宮の最下層の更に下に位置する管理施設で「アルカ」の問題を、コーゼスト任せで解決した後、俺達5人と2体は最下層である第九階層まで戻ってきた。アンやラファエル達も些か疲れた顔をしている──1名を除いて。
「──?」
青紫色の瞳をこちらに向けて、首を傾げる自動人形。
そうなのだ──結局あの後 有耶無耶なまま、この自動人形を押し付けられたのだ。とりあえずヒトらしい動きと思考は出来る様にはなっている……らしい。
それにしてもアルカの奴……『これ以外に謝意を示せる物が無いので』とか言っていたが、今の今まで封印していたのをいきなり譲渡しますとか……普通有り得ないだろが!?
『そもそもアルカには「二つの命令」が与えられていました。最初の命令は「自動人形の保護と封印」、後から与えられたのは「状況に応じた解放」。恐らく当初の計画がアルカの完成時に見直されたのでは無いでしょうか? 結果として矛盾する二つの命令でアルカの思考が混乱してしまいましたが……なまじ、ヒトの精神構造を模倣するからです』
コーゼストがざっくりとした話で教えてくれるが……それなら余計に何故と言う気持ちが募る。
『推測の域を出ませんが──私がアルカの中に並列処理能力を付与した結果発生した、二つの命令のそれぞれの帰結とは異なる「三つ目の解答」なのでは無いでしょうか? それだけマスターが高く評価されている証拠だと思ってください』
───つまり責任放棄の上、俺達に押し付けた訳だな! しかも、その原因の一端はコーゼストの所為かよ?!
俺が憤激していると、自動人形が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
『マスター。出来ればその様な負の感情を彼女に見せない様にお願いします。彼女の感情はマスターと違い純真無垢の白紙なんですから』
コーゼストから注意されてしまった………悪かったな、穢れてて!
「…………変な顔、している」
自動人形が澄んだ声でそう呟く───おっと、危ない!
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そう言えば第九階層は、アルカに少し作り変える様に話してきた──何しろ床も壁も天井も磨き抜かれていたら、「ここには何か特別な存在が居る」と吹聴しているのと同じだからだ。どうやら思考衰弱状態だった時のアルカは完璧を求める傾向があったみたいである。
些か、度を越しているが………… 。
なので第八階層まで戻り、そこで仮の避難所を決めて簡易型の転移陣を設置し一気に地上まで帰還した──思えば1ヶ月振りの地上である。
帰還を果たしたら果たしたで、ギルド臨時支部は大騒ぎになった。勿論最深部まで到達し帰還をしたと言うだけではなく、連れ帰った自動人形の事でである。まァ帰還したら少女が1人増えていれば当然と言えば当然だ。見た目は人間そっくり、いやそのものなのだから。
兎にも角にも事情はギルマスであるネヴァヤ女史に話す旨を伝えると、すぐさまネヴァヤ女史が非常転移陣を使用してこちらに来訪したのだ──何とも機動力が軽いギルマスである。そんなこんなで仮初の執務室に場所を移し、極秘の話し合いが持たれたのだ。
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「───と言う訳で俺達は彼女を押し付け──譲渡されて、魔導頭脳『アルカ』の元から地上に帰還して来たんだ」
俺はネヴァヤ女史に包み隠さずありのままを話した──信じて貰えるかどうかは別にして。因みに自動人形には、封印されていた密閉容器の傍に置かれていた箱に仕舞われていたのを着させている。約1000年前の物だが何処も傷んでいる様子が無かったのには驚いたが。
女史は話している最中、ずっと自動人形の方を見詰めていたが、話が終わると小さく溜め息を漏らし
「……俄には信じ難いですが………ウィル殿の話に、偽りは無いと私は信じます。何より最下層の更に下からこの娘を連れ帰った事が、真実であると証明しています」
ネヴァヤ女史は真剣な顔でそう言った。そして自動人形の方を改めて向き直り
「お話し、少し宜しいでしょうか?」
と、ニコリと微笑んで声を掛ける──と自動人形は少しコクリと頷き
「………ん」
と、返事を返して来た。そう言えばアルカから手渡されてから、碌に自動人形と話もしてなかった自分の事を省みて少し反省する。
「貴方の名前を聞かせて欲しいんだけれど」
《Ω1000ーZ99》
ネヴァヤ女史の優しい問い掛けに対し、自動人形は抑揚の無い声で自分の与えられている識別番号を告げる。
すると女史は首を軽く左右に振ると
「それは貴方と他を区別する物。そうじゃなくて……貴方を作ってくれた人は何と呼んでいたの?」
「………オメガ。私、はΩ1000ーZ99。だか、らオメガ。制作者から、はそう呼ばれて、いた」
自動人形──オメガはほんの僅か寂しそうな表情を見せた。本当に人間くさい。
「そう……ではオメガ。貴方は本当に自動人形なの?」
「これ、が、証し」
そう言うとオメガの頭上に光輪が現れた! これはオメガが目覚める時に、俺も目の当たりにしている。ネヴァヤ女史は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに落ち着きを取り戻し
「なるほど……では、貴方はこれからどうしたいの?」
オメガに更に問い掛ける。それに対し
「……………この世界、を知りたい」
オメガは短くそう答えると、ネヴァヤ女史を見詰めながら隣に座っている俺の右手を、ギュッと小振りな両手で掴んで来る。本当に懐かれてるよな……俺………… 。
『『血の契約』の効果ですね』
コーゼストがのほほんとした口調の念話で、冷やかしを入れて来る──うるせー!
───「血の契約」とは自動人形に所有者の血を1滴登録する事──なのだそうだ。実際オメガを目覚めさせる時に、俺は彼女の胸に有る「魔皇炉」なる部位に俺の血を1滴垂らしたのだ。いきなり胸の部分が開いて、中の機械が見えた時は吃驚したが…………
アルカに「必要な事だから」と押し切られた結果である──やれやれ。
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そんな事を思い出していたらネヴァヤ女史とオメガの話は終わったらしく、二人共に俺を見ていた──何だ?
「ウィル殿、宜しいですか?」
「……すまない、考え事をしていた………」
そんな俺の様子にネヴァヤ女史は軽く咳払いすると話し始めた。
「オメガとも話したのですが、ウィル殿にオメガを預けたいと思います。ウィル殿とオメガ双方の話を聴いた限り、これが最良の解決策だと思われますので……それに何より、オメガ自身の願いでもありますし」
そう言いながらニッコリ微笑むネヴァヤ女史。俺の脇ではオメガが、やたら澄んだ眼差しで俺を見詰めながら
「……ウィルフ、レド・ハーヴィー、駄、目?」
一瞬、躊躇しそうになるが泳がせた視線がラファエルとかち合った時、ラファエルの「私に任せたまえ!」と言う欲にまみれた雰囲気を感じ、何回目かになるかわからない溜め息を吐きながら
「はぁ………わかったわかった、オメガは俺が預かる──これで良いんだろう?」
前半はネヴァヤ女史、後半はオメガに向けて答えた。ラファエルが心底残念そうな顔をしていたのは無視する。アンは「当然です!」と言う表情で、ノーリーンは「何か問題でも?」と言う面持ちでいた。オメガは相変わらず表情が乏しいが──何となく嬉しそうである。
「ではウィル殿。オメガに新しい名前を付けてあげてくださいね。『オメガ』と言う呼び名は彼女の制作者の付けた呼び名ですので」
ネヴァヤ女史が微笑んだまま、そう宣って来た。
「ん……名前、お、願い」
オメガも何やら期待に満ちた視線を向けてくる。しかし名前……ねぇ……………そうだなァ……………………………… 。
「…………アン」
「何ですか? ウィル」
「エルフの言葉で『天使』って何て言うんだ?」
「それなら、『Ange』ですね」
成程……アンジェ……ねぇ……………それなら…………うん。
「……よし」
俺の声にオメガとネヴァヤ女史が反応する。心做しか、オメガの尻に犬の尻尾が生えている錯覚が──── 。
「考えは纏まりましたか?」
「ああ」
「それで──何と?」
ネヴァヤ女史が興味深そうな顔で訊ねて来る。
「───Luange」
「それは? どの様な意味が有るんですか?」
当然、聞かれると思っていました。
「大陸の西方に伝わる旧い言葉で『月』を表す『Lua』と、アンが教えてくれたエルフ語で『天使』を表す『Ange』。その2つを繋げて捩った」
「……ルアンジェ………私の名、前……………」
オメガは俺が告げた自らの新しい名前を、繰り返し呟くのだった───── 。
結局、「アルカ」から自動人形を押し付けられたウィル達一行でした。
何故「アルカ」はこの自動人形を封印していたのか、それは今後の話の展開で明らかにしたいと思います!
*Ω1000ーZ99(オメガサウザント・ゼーナインナイン)……魔導人工頭脳「アルカ」が封印処置をしていた自動人形。Ωは最終形式を表し、その1000番台目と言う意味。Zは最終製造ロットを示し99は99体目と言う意味。すなわち「最終形式1000番台の最終製造99体目」と言う意味。古代魔導文明では製造ロットは0番から99番の100体で区切られていたらしい。見た目は13~14歳ぐらいの少女型で身長154セルト、体重は不明。青紫の瞳、薄桃の長い髪、白い陶器の様な肌を持つ。
*ルアンジェ……ウィルが自動人形Ω1000ーZ99に付けてあげた名前。月を表す古代語「Lua」と天使を表すエルフ語「Ange」をもじって付けた。
☆自動人形Ω1000-Z99、ルアンジェのイラストはmanakayuinoさんの作品です! manakayuinoさんありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




