帰還! 2人の殿下
皆様、遅ればせながら新年おめでとうございます! 本年もよろしくお願いいたします!
それでは2026年初っ端の本日は第309話を投稿します!
-309-
ラーナルー市にある俺の屋敷に、王都ノルベールからジュリアス・フォン・ローゼンフェルト王太子殿下──ジュリアスと、ステラシェリー・フォン・ローゼンフェルト王女殿下──ステラの2人が泊まりに来てから3日目の朝を迎えた。つまり今日はジュリアスとステラがブリシト城に帰る日なのだが──
「ハァ! セイ!セイ! セヤ!セイッ!」
当の本人の1人であるジュリアスは、早朝から屋敷の裏庭に設えた修練場で、木剣による素振りに精を出し
「お兄様ァ! 頑張ってくださいましッ!」
もう1人の当人であるステラはステラで、そんなジュリアスに盛んに声援を送っていた。どーでもいいがキミ達、今日は帰るんだよね?
そんな2人の様子を見ながら、思わずそんな事を考えてしまう俺。だってこれってどー見ても俺の屋敷にまだ泊まる気満々にしか見えないんだけど?!
「セイ! セイッ! ……ハァハァ……ハァァ……。ふぅ、ウィル、最後に今一度私と手合わせをしてくれないか?」
俺の思いを知ってか知らずか、素振りを止めてそう宣うのはジュリアス。良かった、ちゃんと帰る気でいたんだ…… 。だがそんな事はおくびにも出さずに
「わかった分かった」
と言いながら、置いてあった木剣を手に彼の前に改めて立つ俺。
「それでは私が審判を務めます」
この状況で審判役を買って出てくれたのは、ご存知コーゼスト先生。それにひとつ頷く俺とジュリアス。
「双方宜しいですね──では始めッ!」
コーゼストの澄んだ声が、修練場に響き渡るのであった。
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「ふぃぃーーーッ、あーっ、いい湯だぁ」
「ふうぅぅーーーッ、本当だなぁ」
修練場での地稽古で一汗かいた俺とジュリアスは、揃いも揃って屋敷の大浴場で朝風呂と洒落込んでいた。本来ならこの様な事は出来ないのだが、今回はジュリアスたっての希望で一緒に入浴していたりする。まぁ所謂「裸の付き合い」と言う奴だ。
因みにこの3日間のジュリアスとステラの着替えに関しては、俺の方で準備していたりする。その分の費用はジュリアスから来訪時に手渡されていたが……白金貨は流石に出し過ぎだぞ、ジュリアスさんや?
閑話休題。
「しかしなぁ……」
大浴槽に張られたお湯に肩まで浸かりながら、一言ボヤく様に呟くのはジュリアス。
「……幾らウィルとの実力の差はあれども、私の剣が一度も通らないとはなぁ……己の実力不足を痛感したよ」
「そんな事はないさ。ジュリアスの剣はまだこれからだと思うぞ? 模擬戦とは言え、なかなかの腕前なのは俺が保証するよ」
「そう……なのか?」
「ああ、嘘やお世辞なんかじゃないぞ? 自慢じゃないが、俺はそう言うお世辞を言えるほどヒトが出来ていないからな」
笑顔で話す俺の言葉を聞いて、元気を取り戻した様子のジュリアス。そのうち、また再戦を申し込まれるかも知れないな、とそんなジュリアスを見ながら、心の中では苦笑いを浮かべている俺なのであった。
本当にジュリアスは、こと “ 強さ ” に関しては向上心が高いからな。
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兎にも角にも短い入浴を済ませた後は、朝食を摂る為に食堂へと向かう俺とジュリアス。食堂には一足先にマーユとステラが居て雑談に花を咲かせていたが、俺達の姿を認めると
「あっ! お父さんにジュリアスお兄ちゃん、おはようございますッ!」
「お2人とも、良いお風呂でしたか?」
話を止めて銘々にそう言葉を掛けて来る。
「ああマーユ、おはよう。ステラも、おかげさまで汗を流せてサッパリしたよ」
「やぁマーユちゃん、おはよう。うむ、朝風呂とはかくも気持ち良いものだと実感したよ、ステラ」
そんなマーユとステラの2人に、やはり各々答えを返す俺とジュリアス。
そして俺達2人が席に着くと直ぐに、家政婦長のタティアナと侍女達が料理長のジアンナ達が作った美味しそうな料理を、食卓に次々と並べて行く。今朝の献立は御付けと鴨の蒸し焼きと白パンと乾酪と果物の盛り合わせだ。
「よし、それじゃあ料理が冷めないうちに、皆んなで食べようか?」
「うむ、そうしよう」
「「はーいっ!」」
俺の掛け声に銘々に答えて、賑やかに食事を開始するジュリアスやステラやマーユ。
俺達が朝食を摂り始めると間も無くして
「ふわぁぁ〜ッ、あっ、御主人様、皆んなもおはようォ〜」
今朝は惰眠を貪っていたヤトが、寝ぼけ眼で食堂に顔を出した。それに続けてセレネやニュクスも「おはようございます」と、眠たげな表情でやはり顔を出す。
キミらは、朝の訓練が無い時は本当に自由だな!?
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寝坊助のヤト達魔物娘'Sや、やはり遅く起きてきたアン達氏族のメンバーも交えて、賑々しい朝食を食べ終える頃
「マスター、少し宜しいでしょうか?」
と言いながら、食堂に顔を出したのはコーゼスト。そういやコイツは今朝はジュリアスに遠慮してか、いつもみたいに水着で風呂に突撃して来なかったな…… 。
「何だ? コーゼスト」
そんなコーゼストに何食わぬ顔で、そう答えを返す俺──顔に出てないよな?
「いえ、マーユちゃんを私達に同行させるに当たって、マーユちゃんの身の安全を守る為に魔道具『エイジス』を用意した方が宜しいかと思うのですが、如何でしょうか?」
そんな俺の思いを知ってか知らずか、コーゼストは端的にそう進言して来た。
因みに魔道具の『エイジス』とは、対物理対魔法の絶対防御障壁である『エイジス』と状態異常回復魔法『異常回復』、そして転移魔導機の機能も付帯された魔道具であり、ジュリアスやステラを含む国王陛下一家全員にコーゼストが献上した逸品だ。それをマーユの為に今一度作製すると言うのだ。まぁそう言う事なら良いか…… 。
少しだけ頭の中で考えを巡らせてからコーゼストに許可を出そうとしたら、背後から無言の圧が?! 思わず振り返ると、アンさん以下奥様'Sから物凄いジト目を向けられていた。
「……アン達も欲しいのか?」
俺の言葉に物凄い勢いで首を縦に振るアン達奥様'S。
そんなアン達に苦笑しながら、俺はコーゼストに奥様'Sの分も作製する様に伝えるのであった。
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大小幾つもの魔水晶を右掌に乗せて、目の前に翳すコーゼスト。そして続けて言霊を口にする。
「Magic operation(魔法術式起動)」
翳した掌の上に複雑な魔法文字で構成された魔法陣が浮かび上がる。
「Magic search(魔法術式検索)──Construction of proper operative method(適正術式構築)──」
「──Construction of proper operative method(適正術式構築)」
「Construction method completion(術式構築完了)──Start writing(書込み開始)」
その台詞と共に幾重もの魔法文字の円環はひとつ、またひとつとコーゼストの翳した掌の上の大小合わせて27ものクリスタルへと吸い込まれて行く。
「──Check of operative writing(術式書込み確認)──Activation simulation(起動シュミレーション確認)───Complete confirmation(確認完了)──全工程完了致しました」
そうしてあっという間に掌のクリスタルを、魔道具化し終えるコーゼスト。
「これは……なんと言えば良いのか」
「ふわぁ……とても幻想的で綺麗でしたわァ……」
片やコーゼストの魔道具作製作業を唖然として見ていたジュリアスとステラからは、その様な言葉が漏れ聞こえてくる。
コーゼストの魔道具作製作業は初めて見ると凄く幻想的だからなぁ──その感動も然もありなん。
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ジュリアスとステラの見守る中、計9つの魔道具『エイジス』を瞬く間に組み上げたコーゼスト。そのあまりの手際の良さに、見ていたジュリアス達が驚きで言葉を失っていたりする。
完成した『エイジス』の筐体は金色に輝く神鉄製の垂飾先であり、その鎖も勿論コーゼスト謹製のオリハルコン製だ。
ペンダントトップは普通に石座も爪もある形状をしており、中央に大きなクリスタルが1つ、その両脇に小さなクリスタルが2つ、とその構造は極めて単純に纏められている。
その中でもとりわけ異彩を放っているのが、コーゼストがマーユ用に作製した『エイジス』のペンダントトップだ。他の8つがシンプルなデザインとなっているのに対し、マーユのモノは「小熊」を題材としたデザインとなっており、パッと見てもコレが本当に魔道具なのか? と思わせる様な可愛い仕様となっている。
「まぁ、なんと言ってもマーユちゃんは可愛いですからね。そんなマーユちゃんに合わせたデザインとさせていただきました」
とは製作者であるコーゼスト本人の弁である。いつもヒトの事を「親馬鹿」と言っているコーゼストだが、当の本人も十分に子煩悩なのでは? まぁ思っていても口には出して言えないけど…… 。
「何か言いたげですね、我がマスターは?」
「いいえ、何でもございません」
コーゼストのジト目に、しれっとすっとぼける俺なのであった。
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「さて……と、ステラよ。コーゼスト卿の魔道具製作と言う貴重な物も見れた事だし、我々はそろそろお暇しようとするか」
「そうですわね、お兄様。名残りは尽きませんが、そろそろお城に帰らないとお母様に怒られてしまいますわ」
アン達とマーユに『エイジス』が無事に行き届いたのに合わせて、そう宣うのはジュリアスとステラ。と言うかステラさんや、この場合はエリンクス国王陛下からお小言を貰うと言うのが普通だと思うんだが…… 。
やはり国王陛下一家の中ではマティルダ王妃殿下が家庭内序列が1番であり、国王陛下は2番目と言う事なんだな。何となく国王陛下に親近感が湧くのは俺だけか? だがそんな事はおくびにも出さずに
「そうだな、そろそろ頃合いだな」
と言うに留める俺。だってそんな事、口が裂けても言えないからな──後が怖いし。
『「言わぬは言うに勝る」とも言いますからね』
『うぉい!? 言い方ァ!?』
俺がそんな事を考えていると、ご存知「場の空気を読まない」コーゼストから、念話でその様な発言が?! 念話で良かったが、お前はもう少しデリカシーと言うモノを持った方がいいぞ?
コーゼストと俺の念話は連絡網で繋がっているアン達には丸聞こえで、その可笑しさのあまり肩をプルプル震わせて耐えているいるのを見て、俺はデカい溜め息をひとつ吐くのであった。
コーゼストさんや、いい加減に場の空気を読む事を覚えないと、『既知世界最高の魔道具』と言う肩書きが泣くぞ?
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なんのかんのと話も一段落ついて、いよいよブリシト城へ帰る運びとなったジュリアスとステラ。2人は少ない手荷物を纏めてから、屋敷の玄関広間にやって来た。
「……この3日間、皆んなには世話になったな。本当に有難う」
少ししみじみとした声で、そう口にしたのはジュリアス。
「本当に、お兄様共々皆様にはお世話になりましたわ」
ジュリアスに続けてステラもそう口にすると、俺達に向けて深々と頭を下げる。2人とも本当に名残惜しそうである。
「あーっと、2人とも? 忘れているかも知れないが、この後アースティオ連邦の大舞踏会でまた会えるんだからな? それまでの辛抱さ」
あまりにも湿っぽくなった2人を見かねて、わざと戯けた様な言葉を掛ける俺。
「そう……か、うむ、確かにそうだな。ではまたその時に世話になるとしよう!」
「そうですわね! その時が来るのを楽しみにしてますわ!」
俺の言葉に少し元気を取り戻したジュリアス達。そして続けて「では帰るとするか」と、ジュリアスが腕輪型の『エイジス』を起動させる。エントランスホールの床に、転移の魔法陣が出現し輝きを放つ。
「では、また会おう!」
「今度は大舞踏会で!」
「ああ、2人ともまたな!」
「ジュリアスお兄ちゃん! ステラお姉ちゃん! またねッ!」
『『『さようなら!』』』
お互いの別れの言葉と共に、2人の姿が転移の光に溶けて行く。こうして慌ただしかった3日間が終わりを告げたのである。
さて、と。次はいよいよ本番の大舞踏会だな!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




