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いつも通りの鍛錬といつもと違う日常と

大変お待たせ致しました! 本日は第308話を投稿します!

 -308-


 朝早くからいつもの様に喧騒(けんそう)に包まれる訓練場。


 ある者はいつもの様に木剣(ぼっけん)木盾(こだて)を手に、他の者を相手に打ち込みをし合い、またある者達はやはりいつもの通り、だだっ広い訓練場の外周を利用した走り込みをし、そしてまたある者達はこれまたいつも通りに、ヤト達6体の魔物やイーヴァインの軍団(レギオン)を相手に云わば「模擬戦」を繰り広げていた。


 ここはラーナルー市にあるハーヴィー騎士団の訓練場、そこで繰り広げられているいつも通りの朝の訓練の一幕だ。


 (ただ)し今朝は参加している騎士団員の顔に、いつもと違う緊張の色が浮かぶ。それもその筈、今朝はジュリアス・フォン・ローゼンフェルト王太子殿下──ジュリアスと、ステラシェリー・フォン・ローゼンフェルト王女殿下──ステラの2人が、朝の訓練を見学しに来ているからに他ならない。


 ジュリアスとステラの2人は、昨日からこのラーナルー市の俺の屋敷に2泊3日の予定で宿泊しているのだ。それで今朝はジュリアスたっての希望で、ハーヴィー騎士団の朝の訓練を見にやって来ているだけに他ならない。なので騎士団員達には「いつも通りで構わないから」と通告してあるのだが、やはり王族である王太子殿下と王女殿下が其処(そこ)に居るだけで、要らぬ緊張をするみたいである──と言うか、緊張しない俺が変なのか?


(ようや)くマスターにも自覚が芽生えたみたいですね」


 俺の思考(考え)を読んだコーゼストからは、そんな台詞が?!


 そんな事言われても緊張しないんだから仕方ないだろ!


~~~~~~~~~~


「うむむ……これがウィルのハーヴィー騎士団か。聞きしに勝る鍛錬の厳しさだな」


 ハーヴィー騎士団の訓練を目の当たりにしたジュリアスからは、そんな言葉が漏れ聞こえてくる。ステラも無言で、訓練の様子に食い入る様に見入っている。


 聞くところによると、ジュリアスもステラも近衛騎士団の訓練には(たま)に参加しているらしく、その2人から見ても、うちの騎士団はかなり練度が高いのだそうだ。まぁうちの場合は全員の(レベル)の平均が70を超えているし、それにいざ有事となれば真っ先に戦場の最前線に立って戦わなければならないからな。何事も『備えあれば憂いなし』って奴だ。


 そんな話をジュリアスに話して聞かせると「比較対象が無いのも善し悪しだな」と苦笑されてしまった。どーでもいいが何故にそこで苦笑する? 思わず少し不満気な視線をジュリアスに向けていると


『折角自覚が芽生え始めたかと思えば、そんな些細な事で気分を害するとは……マスターは子供ですか?』


 隣に控えているコーゼストから、念話で絶賛嫌味を言われた。最近コーゼストさんのツッコミにいちいちトゲがある気がする。


『悪かったな、どーせ俺は見た目は大人で中身は子供だよ!』


『そこはお認めになるんですね、意外です』


 そのツッコミに思わず気色(けしき)ばむ俺とは対照的に、飽くまで冷静(ドライ)な物言いのコーゼスト。


 よぉし、その事について一度徹底的に話し合うとするか?! それこそ一晩じっくり時間をかけてな!!


~~~~~~~~~~


「時にウィル、君が直接指導はしないのかな?」


 俺がコーゼストとそんな念話のやり取りをしていると、ジュリアスが不意にそう尋ねてくる。


「ん? ああ、それはこれからだが……どうかしたのか?」


「いやなに、出来れば私にひとつ指南して欲しくてな。『英雄』の剣とは如何(いか)なるものなのか、この身で知っておきたいんだ」


 そう言うと軽くではあるが、俺に向けて頭を下げるジュリアス。流石にこれには俺も慌てた。


「おいおい、仮にも一国の王太子がそんなに軽々(けいけい)に頭を下げるもんじゃないぞ?!」


「しかし今回は此方(こちら)が指導を受ける身、礼を失する訳には行かない」


 そう言うと彼は再び俺に向かって頭を下げてくる。


「!? 分かったわかった! 俺で良ければ指南でも何でもしてやるから! だから頭を上げてくれ!」


「有難う、ウィル」


 俺がそんな状況に思わず慌てふためいて指南を約束すると、今度は一転、物凄く爽やかな笑みを浮かべて破顔するジュリアス。何となく上手く彼の手のひらで転がされてる気がしなくも無いが、そんなに悪い気はしない。その辺はやはり流石王族と言ったところか。


 そんなジュリアスに思わず苦笑しながら、近くに居た騎士団員に木剣を2振り用意する様に伝える俺。サッサと準備して始めないと、そのうちステラからも「(わたくし)にも是非にご指南していただきたいですわ」と、言われかねないからな。全く……兄妹とは言え、そんな所まで似ないで欲しいものである。


 いや、かなり本気(マジ)で!


~~~~~~~~~~


「ハァ! セイ! セイ! セヤッ! セイ!」


 訓練場に響くジュリアスの気合のこもった声と風切り音! ジュリアスが一心不乱に木剣を振るう音だ。元々彼は基礎がしっかり出来ていたので、今は木剣で真っ向への斬り下し、右上から左下への斬り下し、左上から右下への斬り下し、右から左への横()ぎ、左下から右上への斬り上げ、右下から左上への斬り上げ、そして正面への突きと、7つの動作を流れる様に連続して行う素振りを只管(ひたすら)繰り返させている最中である。


 それにしても……以前迷宮(ダンジョン)『精霊の鏡』でも見たが、彼の剣筋は剣術道場の素直さは残っているが、どちらかと言うと実戦向きに近いか? まぁ偶にとは言え、近衛騎士団の訓練に参加しているんだから、それなら実戦向きにもなるか。等と思いながら


「良し。素振りを止めていいぞ、ジュリアス」


 と彼に声を掛ける。すると彼は俺の声に反応して、繰り返していた素振りを止めて構えを解くと


「ハァハァハァ……ふぅ……あ、有難うございましたッ!」


 肩で息をしながら呼吸を整えると、俺に向かって一礼する。そして続けて


「それで? ウィルの目から見てどうだったのかな、私の剣筋は?」


 と期待を込めた目で尋ねて来る。


「うん、やはり基礎はしっかり出来ているみたいだな。これなら俺と木剣を交えて何ら問題ないだろう」


 俺の返答に、片手の拳を握り締めて喜びを表すジュリアス。そんな彼に苦笑しながらも、俺はコーゼストに審判役を頼むのであった。


~~~~~~~~~~


 訓練場に鳴り響く鈍く低い音! 俺とジュリアスが木剣を激しく交える音だ。あの素振りの後、小休止を(はさ)んでジュリアスと所謂(いわゆる)地稽古をしている所だ。因みに2人共に木盾は使用しない流儀(スタイル)である。


「ハァァァーーッ!」


 気合のこもった掛け声と共に、俺に向かって次々と木剣を振るうジュリアス! その連撃を同じ木剣で(ある)いは受け止め、また或いは()なして行く俺!


「お兄様もウィル兄様も、何方(どちら)も頑張って下さいましッ!」


「お父さんもジュリアスお兄ちゃんも、両方とも頑張れーーーッ!」


 地稽古をしている(かたわ)らではステラとマーユが、一生懸命に俺とジュリアス2人に声援を送っている。いつの間にかエリナ以下他の騎士団員達も訓練の手を止めて、全員で此方の地稽古に見入っていたりする。


 そうして木剣を交えること(しば)


「はぁはぁ……ウィル、一度で良いので君の本気を見せてもらえまいか?」


 肩で息をするジュリアスからそんな要望が出される。


「……わかった」


 そんな(ジュリアス)に短く答えると、俺は一旦距離を置き呼吸を整える。そして次の瞬間!


「フッ!」


 短く息を吐くと同時に、縮地(ショートカット)で束の間の距離を詰めて、彼に肉薄する!


 一瞬で自身の目前に迫った俺の姿に目を見開くジュリアス!


 俺はそんな驚く彼の首筋に、木剣をピタリと当てる!


「──ふぅ、これで満足か?」


「ッ!? あ、ああ、私の負けだ」


 俺の問いに少し悔しそうに負けを認めるジュリアス。


「そこまで」


 次の瞬間、審判役のコーゼストの声が訓練場に響くのであった。


~~~~~~~~~~


 地稽古の勝敗が決したのと同時に、周りでいつの間にか見物していたエリナをはじめとする騎士団員達や、ヤト達魔物娘'Sやイーヴァインやクロノ、そしてステラやマーユからは、やんやの大喝采が俺とジュリアス2人に向けて送られる。


「ふぅ……私の完敗だよ、ウィル。しかし今の最後に見せた武技(アーツ)は一体?」


 最初の悔しそうな表情から一転、実に爽やかな顔をしてそう尋ねて来るジュリアス。


「うん? ああ、アレは縮地(ショートカット)と言って、体を前傾させるのと同時に体軸を前へとわざと崩して、独特の足(さば)きで地面を蹴る事なく一瞬で相手との間合いを詰める武技(アーツ)さ」


 そんな彼の問いに何の事は無いと気軽に答えを返す俺。


「そんなアーツがあったとはな……私もその縮地(ショートカット)とやらを取得(マスター)出来るだろうか?」


 俺の返答を受けてそう口にするジュリアス。こと“ 強さ ”に関してはジュリアスは向上心が半端なく高いな?!


「ジュリアスは基礎がしっかり出来ているからな、少し修練を積めばマスター出来ると思うが……何なら少し()()を教えてやろうか?」


「「そう言う事なら是非にでもッ!」」


 俺の言葉を聞いてジュリアスは勿論のこと、何故かエリナまでもがジュリアスと声を揃えて懇願(こんがん)して来る──と言うかエリナさんや、キミはいつの間に俺の近くに来ていたんだ?!


 そんな彼女に思わず苦笑しつつも、俺はジュリアスやエリナの2人に縮地(ショートカット)のコツについて、あれこれと蘊蓄(うんちく)を傾けるのであった。


~~~~~~~~~~


 兎にも角にもジュリアスとエリナの2人に、縮地(ショートカット)のコツを実践を交えて教えた結果だが、先ずはエリナが、次いでジュリアスが、それぞれに縮地(ショートカット)をマスターするに至った。やはりと言うかなんと言うか、2人共に根底に必要な基礎がしっかり出来てるからなのだろう。


「ジュリアス殿下は現在レベル51、エリナはレベル80ですからね。まぁ能力的に言っても順当でしょう。それに2人共に技能(スキル)がそれぞれに『中級剣術』と『上級剣術』ですしね。因みにステラシェリー殿下はレベル30でスキルは『初級剣術』ですね」


 俺が1人で納得していると、その様に(のたま)うのはご存知手前勝手なコーゼスト先生。どーでもいいが、お前はいい加減にヒトのレベルとか勝手に覗くのをヤメレと言うに。


 だがまぁ、コーゼストの言う通りにジュリアスのレベルもそのくらいならば、迷宮(ダンジョン)「魔王の庭」の第七階層を踏破出来るくらいの力があると言う事だな──流石に連れては行かんけど! と言うか、そんな事したら絶対にステラも「是非とも私も行きたいですわ!」と言いかねないからな。それだけは絶対に避けなくていけないのだ、主に俺がエリンクス国王陛下からお小言を言われない為にも!


 ジュリアスとエリナがマスターしたばかりの縮地(ショートカット)を用いて、互いを相手に打ち込みを行う姿を見ながら、そんな事を真剣に思う俺なのであった。


「そうですね。マスターの心の安寧(あんねい)の為にも必要不可欠な事ですね」


 コーゼストさんや、それは言わないお約束である。


~~~~~~~~~~


「うむ、今日は実に良い汗をかいたな!」


 ハーヴィー騎士団の朝の訓練から屋敷への帰路での、ジュリアスの台詞がコレである。結局あの後、縮地(ショートカット)を覚えたジュリアスとエリナの2人は、時間の許す限りお互いを相手に打ち込みを繰り返していたのであった。


「それはよう御座いましたわね、お兄様」


「良かったね、ジュリアスお兄ちゃん!」


 そんなジュリアスの訓練を間近で見ていたステラとマーユからは、やはりそんな台詞が漏れ聞こえてくる。そう言えばキミらは飽きもせず、ずっとジュリアスに声援を送り続けていたな。


 因みに共に打ち込みをしていたエリナはエリナで、俺が直接指導をしている騎士団の選抜メンバーに、縮地(ショートカット)をマスターさせるのだと息巻いていたりする。どーでもいいがエリナさんや、君が指導すると力が入り過ぎて熱血指導になりそうだから、程々にしてやりなさいよ?


「まぁ、満足してもらえたなら良かったよ」


 だがそんな事は()()()にも出さず、ジュリアスに対してそう受け答えをする俺。


「うむ。明日も引き続き宜しく頼むぞ、ウィル!」


 俺の言葉にとても爽やかな笑顔で、物凄く不穏な言葉を口にするジュリアス。


「いや、明日もかいな?!」


 そんなジュリアスに俺は思わず()で突っ込んでしまう。俺のツッコミにその場に居た皆んながどっと沸く。


「マスターは明日も気苦労が絶えないみたいですね」


 物凄く爽やかな顔で、そう宣うのはコーゼスト先生。


 奇遇(きぐう)だな、俺も今激しくそう思った所だ!



ここまでお読みいただき有難うございます!


2025年はこれが最後の投稿になります! 本年も一年有難うございました!

新年2026年は2週間後の1月11日が最初の投稿になりますので宜しくお願いいたします!


なお、正月三が日は「なぜか俺のヒザに」スピンオフ!が投稿されますので、其方もお楽しみ下さいませ!

http://book1.adouzi.eu.org/n0542fy/


それでは皆様、良いお年をお迎えください!

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