閑話〈17〉クロノ 〜魔王の過去と独白と〜
大変お待たせ致しました! 本日は閑話を投稿します!
閑話〈17〉
彼方遠くから戦いの音が徐々にこの城に迫ってくる。
ここは我ら古代魔族が住まう王都ヴァリハルにある王城ベアル・スグス、其処の玉座の間だ。私はそこにある玉座に何ら動じる事無く、悠然と腰掛けていたのである。私の名はシュヴァルト・ベリアズ、古代語で《黒》を意味する名を冠する古代魔族の「王」だ。
今、我ら古代魔族は窮地に陥っていた。その原因は唯一つ、ヒト族の『勇者』のその一行にあった。『勇者』──それは『神』によって選ばれた、あらゆるヒトを超越した存在だ。その『勇者』一行がヒト族全ての《希望》をその背に背負い、我ら古代魔族全てに戦いを挑んできたのだ。
既に何百と言う我らが同胞の街は、勇者一行に尽く滅ぼされ、何百万もの同胞の生命達が喪われた。老若男女問わず全ての古代魔族の生命が、である。
だがそれも、私が480年余り前に古代魔導文明を滅亡させた事と、何ら変わることが無いのだ。何せ今繁栄しているヒト族は、古代魔導文明人の従者の一族の末裔なのだから。
従者の一族に古代魔導文明の知識を分け与えて、古代魔導文明の技術と文明を継承させる計画が有った事は周知の事実である。だがそれは成功しなかったらしく、今のヒト族を見ると、技術水準も文明水準も古代魔導文明には遠く及ばないのは、一目瞭然であった。
だがその従者の一族の末裔に、今度は我等古代魔族が根絶やしにされようとしている……何と言う因果応報であろうか。
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「シュヴァルト王に申し上げます!」
私が1人そんな思いに囚われていると、玉座の間に駆け込んで来た伝令の者の焦りの声に、その思考が断ち切られた。一瞬、怒りにも似た感情が心の中に湧き上がる。
「──どうしたのだ?」
だがそんな事はおくびにも出さず、端的にそして鷹揚にその伝令を問い質す。
「はっ! 最前線においてイーヴァイン・ナイトリー騎士団長、勇者一行に玉砕されましたッ!」
その報告にその場に居た私の部下達に動揺が走る。そんな部下達を一喝する私。
「静まれ! それで残された騎士団はどうしているのだ?」
「は、はいっ! ナイトリー騎士団長の命により、総員ベアル・スグスまで後退! 籠城戦に移行するとの事です!」
「そうか……なれば我等もその様にするしかあるまい。ウルス近衛騎士団長、直ちに近衛騎士を城内各所に配置。勇者一行を迎え撃て」
「はッ! 直ちに!」
ウルス近衛騎士団長と呼ばれた男が、そう短く答えると玉座の間を足早に出て行く。
「ヘイゲス所長は「実験場」に保管されている『人造魔物』を覚醒。近衛騎士団と共に城内各所に配置せよ」
「心得ました。それでは1番から99番まで覚醒させます」
ヘイゲス所長と呼ばれた男は、私の指示に恭しく礼を執る。そして続けて
「それと──『創世計画』も第二段階へと移行させます」
そう言うと含み笑いと共に、やはり玉座の間を出て行くヘイゲス所長。それを見届けると部下の1人に指示を出す私。
「直ちにニヌヘンズを呼べ」
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それから間もなくして……頭の先から足元まで全身に漆黒を纏った男が姿を見せた。
「ニヌヘンズ、参りました」
「良く来たな、ニヌヘンズ」
彼こそは死霊術師のニヌヘンズ。先程話に出た『創世計画』には必要不可欠な男である。相も変わらず目深に被った頭巾で、表情が読めないが。
「それで、私めに何の御用でしょうか?」
「うむ、実はな──」
そう前置きして、わざわざ呼んだ訳を話して聞かせる。それはこれから起こるであろう事実を前提とした話。
「──以上の事を貴様に頼みたいのだ」
「──それは王の「遺命」と捉えても構いませんか?」
長い話をそう言って締め括る私に、全く感情の読めない声でそう聞き返して来る彼。
「うむ、そうだな。そう捉えてもらって構わない」
彼の問いに対して鷹揚に返答する私。すると彼は
「分かりました。では早々に準備がありますので、これにて失礼します」
初めて納得した様な物言いで言葉を発すると、彼は踵を返して、その場を去っていった。
そうしている間にも立て続けに伝令が来ては、戦況の悪化を逐一報告しに来ており、既に玉座の間に居た部下達も、それぞれに勇者一行との戦いの為に城内各所に散っていった。尤もそれは私が本気で勇者一行と戦う為には、必要な処置でもあるのだ。
やがて伝令も途絶え、この玉座の間には私と『人造魔物』の1体である双頭魔犬のみとなっていた。
「──来た、か」
そう独りごちる私。それと同時に玉座の間の大扉が開け放たれた。
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果たして玉座の間の大扉を開けて入ってきたのは、武装したヒト族の一団であった。
「貴様が魔王か?!」
先陣を切って入ってきた白銀の重甲冑の戦士が、私に何者かと問い質して来る。後から入ってきたやはり白銀の軽鎧の男と、黒い軽鎧の女、そして白い法服の男が、それぞれに油断無く私に視線を向けてくる。その風体は、正に部下達に聞き及んだ勇者とその一行、そのものだ。
「如何にも。私が古代魔族の王シュヴァルトである……そう言う貴様らは勇者一行か?」
脇で低い唸り声を上げるオルトロスを宥めつつ、白銀の戦士の問いに律儀に答えてから、今度は私から戦士達に訊問する。すると
「いかにも! 私は勇者シア!!」
「俺は武闘家のソロン!」
「我が名は魔導師のフレイ」
「私は聖人のイルッカ」
銘々に名乗りを上げる勇者とその一行。驚いた事に勇者シアは、紛うことなき「女」であった。
「……此処まで辿り着いたと言う事は、互いに問答は無用であるな」
「その通り! 『神』ライゼファの名に於いて魔王、お前を倒す!」
勇者シアの台詞は正に盲信者のそれであり、『神』の『言葉』に何ら疑問を感じる事すらなく、只管此処まで来たのだろう。それが何故か哀れにさえ思えてならない。だからこそ私は泰然自若と構えながら、一言だけ言い放つ。
「なれば是非に及ばず。互いに雌雄を決しようぞ」
私のその一言に、俄に勇者達に緊張が走る。それは文字通り、お互いの生死を賭けた死闘の幕開けであった。
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広い玉座の間に鳴り響く轟音! 私の超級魔法の1つ『鳳凰緋炎』が、勇者シアに向けて炸裂した音だ。だが勇者シアは金色の長剣──聖剣『デュランダル』で、私の『鳳凰緋炎』を真っ二つに斬り裂いてしまい、無傷のままだ。
片やオルトロスの方はと言うと、武闘家ソロンと魔導師フレイの2人を相手に善戦している。聖人イルッカはシアとソロンとフレイに向けて、防護魔法と強化魔法を重ね掛けしつつ、勇者一行全員に回復魔法まで掛けていたりする。
その辺は流石、たった4人だけでこの王城の玉座の間まで辿り着いただけの事はある。まぁ実際の所は、彼等が持つ聖剣や篭手や錫杖や槌矛が、『神』から与えられた『神器』である事が大きく起因しているのだろうが。
兎に角だ。折角自身の力を存分に振るえる様にと、玉座の間からわざわざ人払いしたのにも関わらず、得意の魔法が全くと言っていいほど勇者シアには通用しないのである。中級魔法ならいざ知らず超級魔法ですら、勇者シアの前には無力なのだ。あと残された手は極大魔法のみ、か……アレは魔力の消耗が激しいのだが……致し方がないな。
私は覚悟を決めて目の前に手を翳すと、『力ある言霊』を紡ぐ。
「──闇黒よりも昏く、常闇よりも深き存在。今此処に我は願う。汝ら全ての愚かなる存在に、ただ等しく滅びを与えん。今此処に終焉の星よ来たれ。『重星崩壊』」
詠唱の終わりと同時に、私の目の前の空間に暗黒の球体が音も無く出現した。
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私が言霊を紡いだ『重星崩壊』とは、詠唱の通りに終焉の星を生み出す、私の使える最強の一手である極大魔法だ。生み出された終焉の星は、その超重力により周囲の空間が大きく歪み、徐々に周囲にある物を手当り次第に吸い込み始める。
この『重星崩壊』は途轍もなく複雑な術式の制御が必要であり、無詠唱は勿論のこと詠唱破棄では発動出来ず、またその威力に比例して膨大な魔力を消費するので、この私でも一日に1回しか使う事ができない、文字通り「奥の手」である。
だがその威力は絶大であり、相対する勇者シアのみならず、少し離れてオルトロスと激戦を繰り広げていた武闘家ソロン以下の勇者一行すら、終焉の星の超重力に引き込まれそうになっている。
(勝ったな)
その様子に1人ほくそ笑む私。だが次の瞬間──
「──輝けッ! 『デュランダル』ッ!!」
勇者シアが一声そう吠えると、聖剣『デュランダル』の剣身が眩しい輝きに包まれる! そして!
「魔王よ! その身をもって受けてみよッ! 『虚空斬』ッ!!」
シアの掛け声と共に最上段から振り下ろされた閃光を纏った『デュランダル』! その光跡は空間を終焉の星ごと斬り裂いて、私を頭から真っ二つに断ち切って行く!
「ぐ、がッ?!」
たまらずそう短い絶叫を上げる私! どうやら勇者シアは『絶対切断』の技能を持っていたらしい。自らの体が斬り裂かれる嫌な感覚の中、それが私が思った最期の思考。
そして私の意識は其処で確かに途絶えたのであった。
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──次に私が自身を認識したのは、王城ベアル・スグスの地下に広がる「実験場」にある『工廠』の予備施設、そこに有る調整槽の一つの中。
どうやら私は間違いなく勇者に斃されて、この調整槽に安置されていた新しき肉体へと、無事に「魂」がニヌヘンズの「反魂術」で移されたらしい。これこそが『創世計画』と呼ばれる私の死後の復活計画の第二段階の真相である。
──だが何か違う。具体的に言うと私シュヴァルト・ベリアズと言う存在が勇者シアに斃された直前までの記憶が、記憶では無く知識として頭の中に存在しているのだ。そんな混乱する私に拍車をかけるかの様に、無機質な声が突如として脳内に響く。
『魔法生命体・コードDemon.Lord-666、半覚醒。直ちに強制睡眠に移行』
その言葉で全てを察する私。Demon.Lord-666は私の全盛期の肉体を目指して創り出されようとしていた完璧な複製体では無く、些か質の落ちた劣化複製を素体としたホムンクルスのコードナンバーだ。どうやら何かしらの面倒事が起きたらしく、この肉体には「魂」が入力されていないらしい。
つまり今の私は私であって、本当の私では無いということだ。それなら本来あるべき記憶が知識として存在する事に説明がつく。だがそうすると本来あるべき姿の私と、本来の私の「魂」は何処に行ったのか?
疑問が尽きない中、私の朦朧とする意識は再度、深い闇へと溶け落ちて行くのであった。
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『《血の契約》締結完了──封印解除します』
──久々に脳内に響く管理機構の無機質な声に、私の意識は深い闇の底から浮上する。培養液が完全に排水され、私は調整槽の外へと歩み出る。
覚醒した私の目の前には、ヒト族と分かる男の剣士と古代魔族の特徴を持った女の魔導士。それに双頭魔犬に剛鉄岩人形に半人半蛇に女王蛾亜人に女郎蜘蛛、そして忘れもしないイーヴァイン騎士団長と思しき重甲冑の騎士と言った面々が。
どうやら男の剣士──ウィルフレド殿が、ホムンクルスの私を《血の契約》を用いて覚醒させてくれたのだとは、女魔導士──いや『共生の腕輪』コーゼスト殿が教えてくれた。そして、私が勇者シアに斃されてから実に500年もの年月が経過している事や、イーヴァインが暗黒霊騎士となって、今やウィルフレド殿の従魔になっている事、嘗ての王城の地下の「実験場」が予定通り迷宮となっている事なども具に。
それにしてもウィルフレド殿──いや、ウィル殿は、私が嘗ての「魔王」だと知りながらも、そんな事には全く頓着せずに、逆に何かと気遣ってくれる御仁なのだ。しかも私に「クロノ」と言う新しき名をも与えてくれたりもした。
兎にも角にもこうして私は紆余曲折の末に、ウィル殿のお陰で、今新しき「第二の生」を歩み始める事が出来たのであった。これからは古代魔族の同胞達と、古代魔導文明人500万への贖罪の想いを胸に生きて行く事にしよう。
それが辛うじて「生き永らえた」私に出来る事なのだから。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




