古の治療と超級と
大変お待たせ致しました! 本日は第303話を投稿します!
-303-
ルストラ師匠とイーヴァインやヤト達魔物娘’S、そしてクロノが試合をしてから3日ほど経ったある日。
「ああ、そういえば」
唐突にそう声にするのは俺。因みに今はいつものハーヴィー騎士団との早朝訓練の帰り道だったりする。
「? 何が「そういえば」なんですか、マスター?」
俺の声に真っ先に反応するのはコーゼスト。ファウスト達従魔達やクロノも、何事かと俺に視線を向ける。
「いや、なに。クロノの魔力制御不全症の事なんだが……やっぱりちゃんと治療した方が良いのかなぁ、と思ってな」
そんな視線をものともせず、自身の思いを口にする。思えばドゥイリオの所でコーゼストから、クロノが重度の「魔力制御不全症」だと聞かされて、そのまま放置していた事に今更気付いたのである。
「本当に今更ですね」
俺の台詞を聞いて何故か呆れた顔で言葉を漏らすコーゼスト先生。ちょっと待て、今何故に呆れた? 思わずコーゼストをジト目で睨むが、軽く無視される。
「まぁそれに関しては私もマスターに同意しますが、クロノ殿の気持ちはどうなんですか? 魔力制御不全症を本当に治療したいのですか?」
俺を無視したまま、クロノに話を振るコーゼスト──無視するにも程があると思うんだが?
「ふむ……特に別段問題はないのだが、治療してもらえるのなら頼みたいな」
話を振られたクロノはクロノで、そう言って軽く頭を下げるのであった──コーゼストに向かって。
やっぱり俺、泣いてもいいよな?
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兎にも角にも治療は屋敷に戻ってからと言う事になり、寄り道せず真っ直ぐに屋敷へと帰ってきた俺達。
「お父さぁーんッ! おかえりなさいッ!」
その屋敷の玄関広間では、愛娘のマーユの熱烈歓迎を受けていたりする。
「はははっ、ただいまマーユ」
一目散に駆け寄ってきて抱き着いてくるマーユの頭を優しく撫でる俺。青緑色の髪を撫でられているマーユは、コルチカムの様な淡い紫の瞳を細めて、実に気持ち良さげである。マーユは俺の感触をひと通り楽しむと
「ファウストにデュークにヤトお姉ちゃんにセレネお姉ちゃんにニュクスお姉ちゃんにイーヴァインお爺ちゃんにクロノお兄ちゃんにコーゼストお姉ちゃんも、皆んなおかえりなさいッ!」
ファウスト達やクロノ、そしてコーゼストの名を呼びながら、これまた元気良く駆け寄っていく。
「「ワンワンワンッ!」」
「マーユちゃん、ただいま戻りマシタ」
「マーユ! ただいまッ!」
「ただいま、マーユちゃん♡」
「くふっ、ただいま戻りましたわ。マーユちゃん」
「うむ、マーユちゃん、ただいま戻ったぞい!」
「マーユ嬢、ただいま戻ったよ」
「はい、マーユちゃん。ただいま戻りましたよ」
マーユの言葉にそれぞれ異口同音に答えるファウスト達とクロノとコーゼスト。皆んな、殊の外嬉しそうに返事をしている。
因みにクロノがマーユを一番最初に「媛」と呼んだら、マーユから真逆の苦言を言われ、以来「嬢」と呼んでいたりするのだが、それもまぁ些細な事だ。
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「さて、と……それじゃあ始めるとするか」
まずは腹ごしらえが大切だということで、食堂で朝食を摂ってから改めてクロノの魔力制御不全症の治療を開始する。と言ってもその殆どはコーゼスト先生が担当し、俺は彼女の指示通りに動くだけだが。先に腹ごしらえを済ませたのは、腹を空かせたヤト達魔物娘'Sにぶうたれられない為にである。
閑話休題。
兎に角そんな訳で今俺の目の前には、クロノが椅子に腰掛けて治療してもらうのを待っていたりする。
「前にも話した通り魔力制御不全症とは、魔力が魔法士本人の体内を巡る経路に滞りが起きて発症します。治療方法は高出力の魔力を体内の魔力経路に沿って瞬間的に流し、魔力が澱んでいる箇所に負荷を掛け、澱んでいた箇所の魔力経路を正常にします」
以前オルガを治療した時に話した蘊蓄を、今一度ドヤ顔で話して聞かせるコーゼスト。
「それで俺の魔力をお前が瞬間的に高出力化するんで、俺はクロノの魔力が澱んでいる箇所に手を当てれば良いんだろ?」
そのコーゼストの話に被せるように治療方法を口にする俺。
「話が早くて助かります。それではマスター、クロノ殿の心臓の位置に左手を当てて下さい」
「分かった──クロノも準備良いか?」
「うむ、宜しく頼むウィル殿」
俺は一言クロノに断ると、彼の左胸に左手を当てる。これはコーゼストの本体である腕輪が、俺の左腕に鎮座在しているから、こう言う形を取らざるを得なかったりする。
全く、やれやれだ…… 。
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俺がクロノの左胸に左手を当てると同時に、自動人形のコーゼストの頭上には何重もの魔法陣が浮かび上がる。
「それでは魔力を流します──」
端的にそれだけ言うと、彼女の頭上の魔法陣が一瞬輝きを放ち、立ちどころに宙に消えていく。
「ッ?!」
それと同時にクロノが小さな声を上げる。オルガの時もそうだったがこの治療法、治療を受ける者には思いの外に負荷が掛かるみたいだ。
「──はい。これで完了です」
「ふぅ、大丈夫かクロノ?」
コーゼストから完了の声が掛かり、クロノから手を離しながら話し掛ける俺。
「うむ、一瞬胸に痛みが走ったが、それ以外は特に何も無かったな。寧ろ胸のつかえが取れた感じがして、今の方が先程より心地好い感覚だ」
俺の問いにクロノは、微かな笑みを浮かべながら答えを返す。
「──・・──今再度クロノ殿の魔力経路を走査しました。魔力経路、全て正常です」
俺とクロノがそんな会話をしている間にも、コーゼストは只管マイペースにクロノの体を診察していたりする。お前と言う奴は本当にブレない奴だな?!
そんなコーゼストに変な感心をしながらも「そうか」と鷹揚に頷き答える俺。
「それでウィル殿、早速だが魔法を使ってみたいのだが……良いかね?」
「そうだな。それじゃあ裏庭の修練場で、魔法の試し撃ちをしてみるとするか」
クロノの言葉に俺はそう答えを返す。まぁ何事も事後の点検は重要だな、と俺は1人納得するのであった。
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それではと言う事になり、場所を食堂から修練場に移動してきた。この修練場にはコーゼストの魔法障壁が定期的に多重展開されているから、例え上級魔法を放っても大丈夫なようにはなっている。それでも念には念を入れて
「──『エイジス』展開しました」
絶対防御障壁『エイジス』を、コーゼストに駄目押しで展開しておいてもらう。これでクロノが万が一にも魔法の制御に失敗して、超級魔法を放っても大丈夫……な筈だ。特に今回はマーユも居るしな、安全に越したことはない。
「良し……それじゃあクロノ。早速魔法を使って見せてくれ」
「それでは先ず初級魔法の「点火」から試してみましょう」
「承知した」
俺とコーゼストの言葉にひとつ頷くと、手身近な木人形に向けて右の手の平を翳すクロノ。直ぐさま翳した手の指先に小さな火が灯り、揺らめき立つ。周りで見守るイーヴァインやヤト達、そしてマーユから小さなどよめきが起こる。
「どうやら大丈夫みたいだな」
その様子にホッと胸を撫で下ろす俺。
「──・──はい。今の所、魔力の過剰供給は確認されていません」
一方でコーゼストはクロノの魔力の流れを監視した結果を淡々と報告して来る。確かに俺の目から視ても、危ない所は無さそうである。
「良し……それじゃあクロノ。次は彼処にある木人形に「火炎弾」を撃ち込んでみてくれ」
それ等を確認すると、俺はクロノに向かってそう指示をする。何せ「火炎弾」は、魔力の過剰供給で「猛炎砲弾」になった前例があるからな。
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「相分かった」
そう一言答えると、今度は腰のベルトに挿した短杖を手に持って、俺の指し示した重甲冑の木人形に向かって構えるクロノ。直ぐさまワンドの先端に炎が生まれる。そして──
「──『火炎弾』」
クロノが紡ぐ言霊と共に瞬く間に球状へと変化し、ワンドから目にも止まらぬ速さで撃ち出される炎! 放たれた炎の玉は今度は肥大化する事無く、フルプレートに当たると同時に爆散して、その表面を焦がしながら穴を開けるのであった。
「良しッ! 治療は成功したみたいだな!」
その結果に満足気にそう言葉を発する俺。しかしコーゼストは
「いいえ、まだ時期尚早かと」
と鰾膠も無い。そして続けて
「クロノ殿、貴方の使える最大級の魔法をひとつ使ってみてください。但し威力はギリギリに絞った状態でお願いします」
これまた飛んでもない事をクロノに指示する──ちょ、ちょっと待て! 俺が慌てて止めようと声を出すより先に
「ふむ……ならばコレでどうかな? 『破雷殺槌』」
クロノはワンドを頭上に掲げながら、そう言霊を紡ぐ。同時にクロノの頭上に迅雷が巨大な槌の姿を形作って浮かび上がる! 激しい閃電と雷霆を纏った巨大なハンマーを、無造作に木人形目掛けて振り下ろすクロノ! 迅雷に巻き込まれてフルプレートごと粉々に粉砕される木人形! 激突時に発生した閃光が先に伝わり、遅れて衝撃波と轟音が修練場全体に鳴り響く!
閃光と轟音が止んだ後には、修練場の地面に巨大な衝突痕が出来ていたのである。
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「……おいおい、何なんだよ今の魔法は?!」
クロノが放った魔法の出鱈目な威力に、コーゼストを除く全員が言葉を失っている最中、辛うじてそう言葉を絞り出す俺。つい尖り声になるのは勘弁して欲しい。何せ俺の傍ではマーユが吃驚して、耳を手で覆ったまま涙目で固まっているんだからな。
「うむ、今のは「破雷殺槌」と言って、私が使える単体攻撃に特化した最大級の魔法のひとつだな」
そんな俺の訊問に何の気負いも無く、実に淡々と答えるクロノ。淡々とし過ぎていて、逆に怖いんだが?
「ふむ……今のは威力から鑑みて「超級魔法」ですね。さしずめヤトの「豪炎槌」の雷撃版と言った所でしょうか? 破壊力は此方の方が遥かに上ですが」
一方でこれまた淡々と今の魔法について考察をするのはコーゼスト。考察するのは自由だが、そもそもはキミがクロノをけしかけたんだよね? そんなコーゼストとクロノに、そう思いながらジト目を向ける俺。
片や当の両人はと言うと、特に慌てる様子も無く、今の超級魔法について互いの意見を交換し合っていたりする──てか、あまりにも2人ともマイペース過ぎないか?
と、そこで俺はひとつの考えに至る。そー言えばこの2人は古代魔族の思いっきり関係者であると言う事に。コーゼストは古代魔族に創り出された存在だし、クロノに至っては「魔王」の複製体の魔法生命体で、古代魔族そのものだ。
その辺は流石、加減を知らない古代魔族らしいと言えば、らしいな!
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「ね、ねぇ! クロノ! 今の「ぶりっつはんまー?」とか言う魔法って、私にも使える様になるのかしらッ?!」
俺が1人納得をしていると、それまで言葉を発する事すら忘れていたヤトが、文字通りクロノにグイッと詰め寄って来た。
「そ、そうね! クロノ、ヤトだけで無く私にも使えるのかしら?!」
「くふふッ、妾も是非とも使ってみたいですわ」
それを切っ掛けに、セレネやニュクスの魔法を使う面子までもが、やはりクロノに詰め寄る。それはまるで、今の今まで溺れていたヒトが、水面から顔を出して大きく深呼吸をしてから、一気呵成に話し始めるかのように。
こと「強さ」と言う事に対しては、貪欲さに定評のある魔物娘達だな。一方で詰め寄られたクロノは珍しく困り顔をして、俺に対して助けを求める視線を向けて来る──仕方ない、助けてやるか…… 。
「まぁまぁ、ヤトもセレネもニュクスも落ち着けって。クロノが困っているじゃないか」
とりあえずヤト達を宥める俺。するとコーゼストから
「「破雷殺槌」の魔法術式は私が解析済みなので、皆さんに教える事は可能です。組織網を使えば一瞬で済みますが……どうします?」
と真逆の衝撃発言が飛び出した。
「「「そう言う事なら今すぐにでも!!」」」
コーゼストの言葉に、割と即答で答えを返すヤト達魔物娘'S。見事なまでの三重奏である。本当に「強さ」と言う事に対しては貪欲だな、キミ達は!?
大切な事だから敢えて2回言わせてもらうが!!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




