偏屈者達の狂宴、再び
大変お待たせ致しました! 本日は第299話を投稿します!
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クロノの言霊が試用場に響き、発生した事象が辺りを揺るがす!
言霊と同時に生み出された火球が瞬く間に肥大化し、目にも止まらぬ速さで束の間の距離を飛び、標的の重甲冑を着込んだ木人形を飲み込んでから爆散する!
肥大化した火球は重甲冑を爆散させるだけに留まらず、その暴虐を具現化した様な灼熱の舌が、木人形の背後の石壁をも舐め尽くす! 灼熱に舐め回された石壁は、その表面が溶解し、磨き抜かれた硝子の様へと変化して行く!
やがて不意に爆発と業火が収まると、不意に試用場を静寂が支配する。その場に居た誰もがその惨状に言葉を失っていた。
「…………」
「…………」
「……あーあ、やっちまったなぁ」
そうである。クロノは唯の「火炎弾」を放つ筈が、また加減を間違えて「猛炎砲弾」を放ったのだ。
「おいおい、この魔法の威力は一体何なんだよ?!」
何とか辛うじてそう声を上げたドゥイリオに向かって俺は、クロノは元々魔力量がかなり多い事、魔法を放つ際に制御をするのが下手な事等を話して聞かせた。だが改めてこの状況を思うに、クロノはもしかしたら「魔力制御不全症」なのかも知れないな──嘗てのオルガみたいに。
『マスターの推察通り、クロノは「魔力制御不全症」ですね。しかも重度の “ 放出過多 ” の様です』
俺の思考を読んだコーゼストからも、その様な回答を念話で聞かされる。ある意味コーゼストからの確定を受け、俺はまた盛大な溜め息をひとつ吐くのであった。
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とりあえず興奮気味のドゥイリオを何とか宥め賺して、クロノの装備を微調整してもらってから代金を支払って、そそくさとガドフリー武具店を後にした。因みに代金は革鎧と外套と濶剣と短杖で、金貨9枚と銀貨8枚(調整料込み)と相成った。
その足で次は北区へとやって来た。クロノは兎も角、イーヴァインを腐れ縁の魔法士ラファエル・アディソンに会わせる為に、である。成る可く早くに会わせておかないとイーヴァインの事がアイツの耳に入ったら、直ぐさまうちの屋敷に押し掛ける事は目に見えているからな。
そんな事をつらつら考えていると、北区の外れにあるラファエルの屋敷に到着した。玄関の大きな扉にあるノッカーに手を掛け、ノックをする俺。程なくして
「はい、どちら様でしょうか──これはウィルフレド様、お久しぶりでございます。この度も迷宮からの無事の御帰還、おめでとうございます。ヤトさん達もようこそいらっしゃいました」
濃紺の侍女服で身を包み、白金色の短髪をホワイトブリムでキッチリ押さえた女性が、玄関で会釈しながら出迎えてくれる。ご存知ラファエルの屋敷で働く、ラファエルの天敵である侍女のノーリーンである。
「やぁノーリーン、久しぶりだな。早速だけどラファエルは居るかい?」
「はい、おりますよ。どうぞ中へ入ってお待ちください。今呼んで参りますので」
そう言いながら俺達を大広間へと案内してから、ラファエルを呼びに行くノーリーンなのであった。
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「──そして最後に俺は「居合」で、イーヴァインの星銀の重甲冑を一刀両断にして、辛うじて勝利を収める事が出来たんだ」
大広間に響く俺の声。イーヴァインとの激戦の顛末をラファエルに話して聞かせた所である。
「うむむむむ、それでその後にコーゼスト殿の『共生化』でイーヴァインを従魔にしたのであるな! 実に興味深い!」
俺の話にそう唸るラファエル。あの後すぐにノーリーンがラファエルを大広間に連れて来たので、新しく加入したイーヴァインの事を話して聞かせたのだ。序と言ってはアレだが、女郎蜘蛛のニュクスとの顛末もざっくり話して聞かせたのであるが、案の定と言うか、何と言うか、ガッツリ食い付いて来たラファエルなのであった。
やはりコイツには早目に話をしに来て正解だな──等と俺が思いを巡らせていると
「くふっ、ラファエル殿。改めまして、妾が只今主様から紹介をされました、アラクネのニュクスですわ」
「そして儂が、主殿から今紹介を賜ったイーヴァインじゃ。ラファエル殿、どうか宜しく頼む」
ニュクスとイーヴァインがラファエルに向かって自己紹介をしながら、それぞれに腰を折って挨拶を口にしていた。
「おお、丁重な挨拶痛み入る。ニュクスにイーヴァイン、どうかこれからも宜しくお願いする」
一方で挨拶を受けたラファエルはラファエルで、ニュクスとイーヴァインとそれぞれに握手を交わす。
言葉遣いは丁寧だが、ニュクス達を前に目を輝かすラファエル。魔物研究者の面目躍如である。
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そのあとニュクスとイーヴァインに幾つかの質問を投げ掛けるラファエル。その中でラファエルが食い付いたのは、ニュクスの星銀並に強度がある彼女の生み出す糸と、イーヴァインの相棒である大盾ガルガンチュアと巨剣ドラゴンファングの話だった。
先ずニュクスの糸だが、ラファエルの研究用にと俺が特別にニュクスに頼み込み、100メルト程の長さの糸をラファエル特製の糸巻き機に巻き取って提供する事となった。提供元のニュクスは、何とも言えない顔をしていたのが印象的だった。
それで次にイーヴァインのガルガンチュアとドラゴンファングだが、その出鱈目な強度に興味を持ったラファエルの熱望で、彼の屋敷の近くにある空き地で急遽試験する事と相成った。まぁテストと言っても、俺がガルガンチュアとドラゴンファングを構えるイーヴァイン目掛けて、通常の空裂斬で攻撃を仕掛けると言う物なのだが。
何せドラゴンファングは剛鉄製、ガルガンチュアに至っては剛鉄と神鉄の複合材にして修復してある関係上、素の大盾や巨剣の十何倍も重く、イーヴァインの怪力でなくては保持するのも儘ならないからだ。それに何よりガルガンチュアには、俺の「雷精断斬」でも微かな傷しか付けられないのは、「魔王の庭」第十一階層で証明されている。
兎にも角にもそうした理由もあり、こんな実戦形式の危険極まりない実験をする羽目になったのであった。
本当に自身の欲望に忠実なラファエルである。
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「──よし、それではウィルにイーヴァイン殿。準備は良いだろうか?」
実験場所になった空き地で響き渡るのはラファエルの声。
「俺の方はいつでも大丈夫だぞ、ラファエル」
「儂の方も準備万端じゃよ、ラファエル殿」
そんなラファエルの声にそれぞれに答えを返す俺とイーヴァイン。
「うむ、それでは早速始めてくれたまえ!」
「お父さんもイーヴァインお爺ちゃんも、どちらも頑張れーーーッ!」
ラファエルの実験開始の声と共に、マーユの声援が響く。
「よぉし、行くぞイーヴァイン!」
「おう! いつでも良いぞい! 主殿!」
イーヴァインの返事を聞いて、俺は腰に佩いた『天照』を鞘から抜き放ち、「正持の型」で構えると
「セイヤッ!」
鋭い気合の声と共に、最上段から『天照』を一気に振り下ろして、空裂斬の斬撃波をガルガンチュアとドラゴンファングを構えるイーヴァイン目掛けて打ち放つ!
放たれた斬撃波は束の間の距離を飛び、イーヴァインが交差して構えるガルガンチュアとドラゴンファングに激突する!
「ぬぅんッ!」
耳障りな音が鳴り響くのと同時に、聞こえてくるのはイーヴァインの気合の声! ガルガンチュアとドラゴンファングに衝突した空裂斬の斬撃波は、数瞬の間を置いて轟音だけを残して跡形もなく霧散する。
「かぁ〜ッ、効いたのう!!」
空裂斬を捌き切ったイーヴァインから、その様な台詞が漏れ聞こえて来る。
その彼の手には無傷のガルガンチュアとドラゴンファングが、しっかりと握られていたのである。
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「うむむむ! イーヴァイン殿のガルガンチュアとドラゴンファングは本当に堅牢なのだな!」
俺の空裂斬に傷ひとつ付かないガルガンチュアとドラゴンファングを目の当たりにして、やたら興奮しているラファエル。
因みに空裂斬の破壊力は、事前に重甲冑を装備した木人形で実証済みだったりする。まぁその時にダマスカス鋼製の重甲冑を、空裂斬が楽々と斬り裂いたのには俺自身吃驚した。何だか以前よりも空裂斬の威力が増している気がするんだが?!
「それは気の所為などではありませんね。マスターの格の上昇と比例する形で、空裂斬の威力が増大しています。恐らくは「炎精斬波」と「雷精断斬」の威力も増大しているかと」
そんな俺の思考を読んだコーゼストから、その様な指摘が!? いつも言っている事だが、お前はいい加減にヒトの頭の中を覗くのをヤメレと言うに。
俺は相変わらず鷹揚なコーゼストの言動に、やはり頭の中で思い切りツッコミを入れつつ、目を文字通り爛々と輝かせながら、イーヴァインにガルガンチュアとドラゴンファングについての質問を立て続けに投げ掛けるラファエルの様子に、またもやデカい溜め息を吐くのであった。
どーでもいいがラファエルよ、そんなにイーヴァインを質問攻めにするな。
「ラファエル、少しは落ち着けって」
ラファエルの怒涛の質問攻めに辟易している様子のイーヴァインに助け舟を出すべく、俺は苦笑いと共に口を開くのであった。
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興奮状態のラファエルを何とか宥め賺して、何とかその場を収めてラファエルの屋敷を辞した俺達。何と言うか……ドゥイリオと言いラファエルと言い、あまりにも興奮し過ぎである。まぁその道の専門家から言わせたら、興奮するなと言う事自体無理があるのだろうな。
などと言う事をつらつらと考えながら、屋敷への帰路に着く。当然の事ながら帰路の途中、クロノに俺達の本拠地であるラーナルー市を案内しながら、である。ラファエルの屋敷の有った北区から、冒険者ギルドの有る西区を通り、東区に有る市場へと寄り道をする。マーケットはいつも通りの活気に溢れていた。
「ふむ、これがマスター達の住まう街ラーナルー市なのか。何とも賑やかな街であるな。私の治世していた時よりも活気に満ち溢れていて、実に心地が好い」
通りを行き交うヒト達を眺めながら、そう感慨深げに声を漏らすクロノ。まぁ傍から見たら完全にお上りさん状態ではあるが。
「うむ、王よ。儂も初めてこのラーナルー市を案内してもらった時に、同じ様な想いを持ったものじゃよ」
そんなクロノの様子に、そう答えを示すのはイーヴァイン。どうやら古代魔族の目から見ると、このラーナルー市の賑わいは色々と心に響くモノがあるみたいである。まぁこれこそがコーゼストの言う所の「迷宮特需」と言うヤツなんだろうな。
クロノにあれこれと説明をするイーヴァインを見ながら、ふとそんな思いに至る俺なのであった。
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「よォ! ウィルじゃねえか?! 「魔王の庭」から帰ってきてたのか?!」
俺がそんな思いに浸っていると、いきなり声が掛かった。声のした方を見やると、そこには馴染みにしている食糧品店のおっちゃんが居た。確か名前は……マガスだっけか?
「やぁ、マガスのおっちゃん。久しぶりだな」
俺に続けてマーユやコーゼストやヤト達も異口同音に、おっちゃんに「お久しぶり」と挨拶をする。
「うむ、ご亭主。久しぶりじゃな」
イーヴァインもそう言いながら、おっちゃんに向かって軽く頭を下げる。
「おう! 久しぶり!マーユちゃんもコーゼストもヤト達もイーヴァインの旦那も久しぶりだなッ!」
そう言ってニカッと白い歯を見せて笑うマガスのおっちゃん。そしておっちゃんの視線がクロノに向くと
「ところで、その兄ちゃんは新しいメンバーかい?」
俺とクロノ両方の顔を交互に見ながら、そう質問を投げ掛けてくる。
「ああ、そうだよ。今度うちの氏族に入ったメンバーで、名はクロノって言うんだ。クロノ、このヒトはマガスのおっちゃん。俺が馴染みにしている食糧品店の店主だ」
クロノとおっちゃん、双方に手を向けながらそれぞれを紹介する俺。
「初めまして。今ウィル殿から紹介を賜った、私はクロノと言う者だ。ご亭主、どうか宜しくお願いする」
「おお、コイツはご丁寧にありがとうよ! クロノって言うのかい?! これからも宜しくな!」
互いに自己紹介し合う2人を見ながら、クロノの出自については秘密にしておこうと、俺はそう自分に言い聞かせるのであった。
これ以上の面倒事は勘弁である。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




