古との対面と諸々の日常と
大変お待たせ致しました! 本日は第296話を投稿します!
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「魔王の庭」第十二階層の工廠──生産設備の予備施設から、「魔王」の「複製体」の魔法生命体であるクロノを連れ帰った翌日の朝、自室のベッドの上でいつもの様に膝上に重みを感じて目が覚めた。
「「クゥクゥクゥ」」
「…………」
「うへへへへぇ、御主人様ァ、もうお腹いっぱいィ……」
「すよすよ……ううん……御主人様ったら♡」
「すぅすぅ……くふ、主様ァ……好いておりますわ♡」
頭を少し上げて足元を見やると、ご存知ファウスト、デューク、ヤト、セレネ、ニュクスの面々が、短身モードで俺の膝上を仲良く占拠しているのが目に飛び込んで来た。どーでもいいがヤトにセレネにニュクスよ、キミらは一体何を夢に見ているんだ!?
そんな魔物娘’Sに戦慄を覚えつつ、今度はベッドの脇に目をやると
「おはようございますマスター。昨夜は色々とお楽しみでしたね」
いつも通りコーゼストが、椅子に腰掛けながら、これまたいつも通りの台詞を俺に向かって投げ掛ける。
「おう、おはようコーゼスト。お前はいつも一言余計だよなぁ」
そしてこれまたいつも通りの台詞を返しながら、ゆっくりとベッドから身を起こす俺。それに合わせて俺の膝上の面々も、それぞれに目を覚まし朝の挨拶を俺と交わす。
さて、と。今日は今日でやる事が沢山あるが、兎に角ひとつひとつ片付けて行く事にしよう。
俺は朝からファウスト達が賑々しい中、そう思い至り、自身にしっかりしろよと気合を入れるのだった。
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朝の屋敷の玄関ホールの床一面に輝く魔法陣! ご存知転移魔導機のサークルだ。サークルの輝きが薄れると同時に、その中央にはツェツィーリア共和国のリーゼロッテ──リーゼの姿が。彼女は俺から急用があると、遠方対話機で呼び寄せたのである。
因みにオーリーフ島のマデレイネ──マディとジータ、そして王都のオルガも午下に呼ぶ予定である。更に因みに言うと、エリナベル──エリナやルピィの奥様達は勿論の事、氏族の他のメンバー、果てはルストラ師匠にもクロノの事は話していない。知っているのはオルガとアン、そしてマーユとシモンだけだ。クロノの事を話すなら、全員集合した所でしようと思っていたからである。
それはそれとして。
サークルの輝きが完全に収まったところで、リーゼは出迎えの俺の姿を認めると
「ウィル!」
笑顔と共に一目散に駆け寄ってきて、ヒシッと抱き着いて来る。
「おっと! ははっ、おはようリーゼ。良く来てくれたなぁ」
「おはようウィル♡それはもう、貴方からの呼び出しですもの。お父様にあとはお任せして来たわ」
一頻り抱き合った後、俺の言葉に物凄く爽やかな笑顔でそう答えるリーゼ。何となくだが、リーゼに首相の仕事を押し付けられて、四苦八苦しているベルンハルトお義父さんの姿が幻視出来るのは俺だけか?
「それで? 今日はどんな急用なのかしら?」
「それはまぁ……全員集まってからキチンと話すさ」
興味深そうに尋ねてくるリーゼに、軽く笑いながらそう答えるに留める俺。
これであとはアン達が帰って来れば、マディ達を呼ぶだけである。
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「「皆んな、ただいま!」」
「「「「「ただいま戻りました!」」」」」
リーゼを出迎えてから小一時間ほど経ち、今度はアン達分隊『秩序』が「魔王の庭」から帰って来た。大広間に響くアンとレオナ、そしてエアハルト達の声。
「アン、レオナ、ハルト達もおかえり。予定通りだったな」
「アンお母さん! レオナお母さん! 皆んなもおかえりなさいッ!」
『『『『『『『おかえりなさい!』』』』』』』
そんなアン達を出迎えるのは俺とマーユとエリナとルピィとリーゼの奥様達、そしてベルタ達ハーヴィー騎士団の面々とジゼル達チーム『戦乙女』の面々とヤト達魔物娘’S。
しかし前回のイーヴァインの時と言い、チーム『秩序』のメンバーには無理をさせている気がしなくもない。これは何か後で労わなくてはならないだろう──主に精神的に。
などと俺が他愛もない事を考えていたら、程なくして
「ウィル、皆んなも、帰って来たわよ」
今度はやはり「魔王の庭」に潜っていたルストラ師匠が帰ってきた。師匠もまた俺がテレ・チャットで呼び戻したのだ。実はこんな事もあろうかと、師匠にはコーゼスト謹製のテレ・チャットを渡しておいたのである。
「おかえり、師匠」
師匠の言葉にそう答える俺。アン達も「おかえりなさい」と、戻ってきた師匠に挨拶の言葉を口にする。
何れにしても、これであとはマディとジータとオルガの3人を呼ぶだけになったな。
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やがて午下の1時になり、テレ・チャットで先ずはオルガに、次いでマディとジータに連絡を入れ、トランスポーターで急ぎ屋敷の方に来てもらった。オルガは言わずもがなだが、マディとジータには「急用がある」と告げただけであるが。
兎にも角にもこうしてラーナルー市の俺の屋敷に奥様’S全員とマーユと、氏族『神聖な黒騎士団』のメンバーとハーヴィー騎士団のメンバー、そしてルストラ師匠が一堂に会したのである。
大広間に集まった皆んなの前に立つ俺に、全員の視線が集まる。
「えへん! あーっと、皆んな。良く聞いてくれ」
俺はひとつ咳払いをすると、皆んなに今日集まってもらった理由を話すのだった。曰く「魔王の庭」第十二階層の最奥にある工廠──生産設備の予備施設をオルガの依頼で調査した事や、調査の結果そこは単なる予備施設ではなく、魔法生命体の製造と調整をすると施設だった事。そこで「魔王」の「複製体」のホムンクルスを見つけた事や、そのホムンクルスと「血の契約」を行い、500年もの眠りから目覚めさせた事。そのホムンクルスに「クロノ」と言う名前を付け、連れ帰ってきた事など、それこそ余すところ無く全てを話して聞かせた。
「──と言う訳で、今屋敷にはその「魔王」のクロノが居るんだ。この事を知っているのはアンとオルガ、それにマーユとシモンだけだがな」
俺の長い説明に誰もが咳ひとつ立てず、ただ聞き入っていたのである。
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「……そんな事になっていただなんて」
たっぷり数分の沈黙の後、その沈黙をまず破ったのはエリナ。
「全く……魔王とかホムンクルスとか……とんでもない話だわァ」
「ホントだよ……昨日アンがウィルから連絡を受けてから様子がおかしいとは思っていたけど、真逆こんな話とはね……」
「本当に……これがウィルの口から語られた事じゃなければ、一笑に付するところね」
「全くマディの言う通りさ……アタシなんかでだって、その昔話は良く知っているんだからね……それにウィルがそんな嘘を言う訳無いって、知っているから余計に吃驚だよ……」
「でも……ウィルならアリかなぁって、納得出来ちゃう自分が居るんですよねぇ」
エリナに続けてルピィ、レオナ、マディ、ジータ、そしてリーゼが、銘々にその率直な想いを口にする。その一方でベルタ達やエアハルト達、ジゼル達はまだ絶句しているが──この場合、呆気に取られていると表現した方が正解か? アンやオルガも今一度俺の話を聞いて、何とも言えない顔をしている。
「……本当に途方もない話よね」
ここでポツリと呟く様に言葉を発するのはルストラ師匠。そして続けて
「でもまぁ、貴方やオルガさんやマーユちゃんがそのホムンクルスを無害だと信じたのなら、それが全てなのでしょうね。それに彼の命を助けたいと思った貴方の気持ちも分かるしね」
慈愛に満ちた視線と共にそう言葉を紡ぐ。
お陰で皆んなの間にあった微妙な緊張感が綺麗に霧散したのであった。
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「それじゃあウィル、そろそろそのクロノと言うホムンクルスを私達に紹介してくれないかしら?」
俺の話が一通り終わったのを見計らって、そう言ってくるのはアン。他のメンバー達もアンの言葉に皆一様に頷いている。俺はひとつ頷くと
「分かった──イーヴァイン、クロノ、入って来てくれ」
大広間の別の扉に向かってそう声を掛ける。すると扉が開き、先ずはイーヴァインが、それに続けてクロノが室内へと入って来た。実の所大広間に全員集まった段階で、クロノに世話役として付けていたイーヴァインに、大広間の扉の前までクロノ共々来る様に念話で指示を出しておいたのだ。
大広間に入って来たイーヴァインとクロノは、そのまま俺の後ろに控えるように並び立つ。
「あーっと、先ずは師匠やジゼル達に紹介しておこう。此方の彼はイーヴァイン。つい先日俺の従魔になった暗黒霊騎士だ」
そう言うとイーヴァインに手を向けて、師匠やジゼル達に紹介する俺。
「お初にお目にかかる。儂が新しく主殿の従魔となったイーヴァインじゃ。以後宜しく頼む。特に主殿のお師匠殿、どうか宜しくお願いする」
俺の紹介を受け、軽く会釈するイーヴァイン。続けて
「それと此方の彼が、件のホムンクルスのクロノだ」
クロノに手を向けて、集まった皆んなに紹介する。
「今ウィル殿が紹介した通り、私がクロノだ。どうか宜しくお願いする」
クロノの挨拶に、誰かが息を呑む音が微かに聞こえた気がした。
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兎に角そのまま黙っていても埒が明かないので、先ずはクロノにオルガ以外の俺の奥様’Sを1人1人紹介して行く俺。アン達1人1人と「宜しくお願いする」と挨拶を交わすクロノ。
そのまま俺はベルタ達やエアハルト達やジゼル達、そしてルストラ師匠にも1人1人手を向けてクロノに紹介して行く。こちらにもクロノが「宜しくお願いする」と挨拶の言葉を交わす。それを受けてこれまた銘々にクロノに「よろしく」と、言葉を交わすアン達。
そうしてクロノとメンバー全員との顔合わせを終えたところで
「それにしても……本当にクロノは「魔王」なのね。顔立ちや風体はまさしく森精霊の伝承の通りだし……」
アンがポツリと言葉を漏らす。
「伝承って……「魔王」の事がどう言い伝えられているんだ?」
アンの言葉を聞いて、思わずそう尋ねてしまう俺。アン曰く、エルフの間にはクロノ──かつての「魔王」の悪行と共に、その人相が言い伝えられているそうな。伝えられている人相は腰まである長い黒髪と眼光鋭い黒い瞳、そしてエルフほどでは無いが少し尖った耳と、それは正に今目の前に居るクロノそのものだ。その辺の話は流石に長命なエルフだけあって、全て口伝で伝えられているらしい。
まぁアンさんだって確か300歳とちょっとだった筈だし、500年前の出来事だとリアルで体験したエルフも沢山居るのだろう。正に「歴史の証人」と言えるのがエルフの様な長命種なのだと、俺は1人納得するのだった。
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そんなこんなで何とか無事(?)に、アン達奥様’Sや他のメンバー達や師匠とクロノを、それぞれに紹介し終える事が出来た。
古代魔導文明によって生み出された存在であるルアンジェの反応が気掛かりではあったが、当の本人から特に何も無くて密かにホッと胸を撫で下ろしたのは、ここだけの秘密である。まぁ良くよく考えてみれば、ルアンジェも古代魔族生まれのコーゼストとかなり長い付き合いだし、今更なのかもしれないな──などと俺がつらつらと考えていると
「色々と気を使わせたみたいで済まなかったな、マスターよ」
クロノが軽くではあるが、俺に向かって頭を下げたのである。
「まぁ、その、何だ。俺も曲がりなりにもアンタのマスターだからな。それなりに責任は負う覚悟はあるさ」
クロノのそんな行為にちょっと驚きつつも、何のことは無いと、迷いなく言い切る俺。殊の外、話の規模がデカくなって来ている事に、ちょっとビビっているのは俺だけの秘密だ。
「よしッ! それじゃあクロノと皆んなとの顔合わせも無事に済んだ事だし、この話はここまでと言う事で! それに旦那様には伝えたい事もあるんだよ」
その時、両手をパンッと打ち鳴らして、話を切り替えるのはオルガ。何か嫌な予感しかせんのだが?
「……何だよ、伝えたい事って?」
「うん、クロノの件に関して落ち着き次第、世界評議会に彼共々出頭して欲しいって、エウトネラ議長から直々の勅命さ!」
満面の爽やかな笑顔と共にそう宣うオルガ。嫌な予感が的中したな、と俺はガックリ肩を落とすのだった。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




