Re.twelve level③ ~器の覚醒、そして新しき名~
大変お待たせ致しました! 本日は第294話を投稿します!
-294-
「魔王の庭」第十二階層最奥部の生産設備──古代魔族の言う所の『工廠』の予備施設、そこの更に最奥に有る調整槽のひとつがコーゼストの操作により500年もの昔から目覚めた。
調整槽内にある謎の液体が見る間に排水されて行き、その中に浮かんでいた「魔王の器」がタンクの床に足をつけて、遂には二本足で立ち上がる。やがて完全に排水されると、半透明の硝子の様な柱──云わばタンクの外壁部分が音もなく開いて、タンク内部の機械から身体のあちこちに繋がっていた線や管が、次々と外れて行き、「魔王」がゆっくりとタンクの外へと歩み出て来た。「魔王」は最後まで口元を覆っていた面頰のチューブ部分に手を掛け、これまたゆっくりとした動作でマスクを引き剥がすと、これまた虚ろな視線で辺りを見回している。
「魔王」の見た目は腰まである黒髪に黒い瞳で年齢は16、7歳か? まぁ飽くまでも見た目年齢なので確定は出来ないが…… 。
「……なぁイーヴァイン。彼は「魔王」で間違いないのか?」
俺は直ぐ傍で呆然としている暗黒霊騎士のイーヴァインにそう尋ねる。
「はっ!? う、うむ、た、確かにあのお顔立ちは「王」の物じゃが……」
俺の声に目を覚ましたか、何とかそれだけを口にするイーヴァイン。そうこうしている間に「魔王」の視線が俺を捉えた。そして
「I ask you, are you my master?」
言葉の意味は分からないが、俺にそう話し掛けてきたのである。
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「あれは古代神代言語ですね──魔王殿、古代大陸語に変換して下さい」
その時それまで黙っていたコーゼストが、俺と魔王に対してそう言葉を掛けてくる。すると
「This is rude────あ、あーっ、これで良いかな?」
途端に馴染みのある言葉遣いになる魔王。その辺はやはり魔法生命体らしい。
「あーっ、コホン。では改めて問おう、汝が私の主人なのか?」
仕切り直して俺に向かってそう尋ねてくる魔王。そんな所はやたら普通のヒトっぽい。まぁホムンクルスなんだが! 俺が1人で頭の中でボケツッコミをしていると
「マスター。ボケてないでちゃんと答えてあげて下さい」
凄まじいジト目を向けながら、的確な突っ込みを入れてくるコーゼスト先生。何か色々と申し訳ない。
「んん! た、確かに俺があんたのマスターだが……」
魔王に対してそう答えを返す俺。すると魔王は
「そうか、それでは私こと『Demon.Lord-666』の所有権をマスターに移譲しよう」
殊更嬉しそうにそう言い切るのだった。だがちょっと待て、魔王の所有権だって?!
「マスター。魔王はマスターとの「血の契約」により、マスターを正式な所有者と認めたのですよ。諦めて下さい」
唖然とする俺に向かって、そう言い放つコーゼスト。あまりの出来事に目が点になる俺。俺の目の前には誇らしげに胸を張る全裸の魔王の姿があった。
そらまあ、確かに「血の契約」はしたけど……まさか魔王を所有する事になるとは思いもよらなんだ──はァ。
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何はともあれ、この生産設備──工廠の予備施設の調査は未だ途中なのだ。なので改めてヤト様魔物娘’Sに引き続き施設の調査を指示する俺。ファウストとデュークにも再度部屋の出入口での周辺警戒に就いてもらったのは、言うまでもない。
なので必然的に俺の傍にはコーゼストとイーヴァイン、そして目覚めたばかりの魔王が居る事になる。とりあえずいつまでも魔王を全裸で居させる訳にも行かず、コーゼストの無限収納から俺の服を出して着させる事にした。多少だぶついているが、まぁ許容範囲だろう。
兎に角場所を魔王が眠っていた調整槽から、管理機構の有る小部屋へと戻り、調査を続ける俺とコーゼストとイーヴァイン。その様子を興味深そうに見ている魔王に、俺は質問をぶつけてみる事にした。
「なぁ魔王」
「ん? 何かな? マスターよ」
「俺の相棒の話だと、あんたには勇者に討たれる前の生前の記憶があるんだろ?」
「そうだな……記憶と言うか、知識としては有るな」
「そもそも何で世界征服なんかしようとしたんだ?」
魔王はふむ……と短く考えると
「それは……この既知世界を統一して、神に挑む為だったのだよ。志は道半ばで頓挫してしまったが……」
そう言って寂しそうに力無く笑う魔王。聞けば魔王は当時の神の過度なヒトへの干渉に不満があり、それ等を正す行動として世界征服を目指したらしいのだ。
まぁ当事者が言う話だし、それで間違いないのだろう。やり方は此方も過激でアレだが。
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俺と魔王の話はまだ続いていたりする。
「なぁ、あんたは「魔王」の「器」なんだろ? 聞いた話だとあんたの中には「魔王」の「魂」が入っていないらしいが……本命の魔王の「魂」は何処に行ったんだ? それに「魂」が無い割には、普通に活動出来ているのは何故なんだ?」
「確かに私は「魂」の「器」ではあるが、生命活動を維持する為に「魔王」の人格を模した、云わば「疑似人格」が生前の記憶と共に入力されているからだな。本当の私の「魂」が何処に行ったのかは、私自身よく分からないのが実情だ」
俺の問い掛けにこれまた丁寧に答える魔王。と言うか、魔王の「魂」は本当に何処に行ったのか? まぁ今目の前に居るこの魔王の「器」は、特にその辺の事は気にしていないみたいだし、特段不自由はしてないみたいだから……良い、のか? 俺が1人で悶々としていると
「お、王よ、儂の事は覚えているかの?」
それまで黙って俺と魔王の会話を聞いていたイーヴァインが、やや遠慮しがちに魔王に向かってそう尋ねて来た。
「ふむ……汝はイーヴァイン・ナイトリー騎士団長であろう? 久方振りだな──とは言え、今の私は「魔王」であって「魔王」では無い存在だ。故にそこまで畏まる必要は無いぞ?」
イーヴァインの問いにそう答えると、また寂しそうに笑う魔王。その様子に
「王よ……」
そう言って次の言葉に詰まるイーヴァイン。
そこにはえも言われぬ寂しさが垣間見えたのであった。
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「それはそうと、マスターよ」
そんなイーヴァインの様子を気に留めることも無く、
俺に向かって言葉を発する魔王。
「ん? 何だ?」
「私が死んでから一体どの位の年月が経過したのだ?」
「凡そ500年経過していますね」
俺に代わってそう答えるのはコーゼスト。すると魔王はそのコーゼストの顔を見て
「ふむぅ……失礼だが汝はどこの誰なのかな?」
至極真っ当な疑問をコーゼストにぶつける。
「私の名は『共生の腕輪』、と言えば理解出来ますか?」
「なにっ、 共生の腕輪だと?! それならば私を目覚めさせたのは汝なのか?!」
「確かに機械の操作はしましたが、貴方の覚醒を認めたのは間違いなくマスターのご意志です」
コーゼストの名を聞いて驚く魔王に対し、しれっとしているコーゼスト。実に対照的である。
「……まぁ積もる話は多々あるが、それは後ほどゆっくりとすれば良い話であるしな。それにしても500年か……時の流れとはかくも残酷な物なのだな……」
そう言ってまたもや寂しそうな笑みを浮かべる魔王。
「貴方が覚醒するまでに500年もの年月を要したのと同じ様に、私も目覚めるまで紆余曲折がありましたからね……」
片やコーゼストもそんな魔王に対して同情をしているかの様だ。イーヴァインは相変わらず無言を貫いている。
今此処には500年前に古代魔族によって造られたモノ達が、沈黙と共に一堂に会していたのである。その沈黙を破ったのはやはり魔王。
「マスターよ、こんな時だからこそ頼みがある」
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「……それは頼みの内容によりけりだが」
そう言って魔王の次の言葉を待つ俺。真逆世界征服を手伝えとか言わないよな?
「そんなに身構えないで欲しいな、マスター」
魔王はそんな俺の様子に苦笑いを浮かべながら、次の言葉を口にする。
「何、簡単な事だ。私に名を与えてはもらえまいか?」
「名前だって? あんたには「魔王」としての名があるんじゃないのか?」
突然の申し出に驚いて、思わずそう問い質してしまう俺。すると魔王は
「うむ、確かにな。嘗ての私には「シュヴァルト」と言う名があったが、それは既に死んだ者の名だ。新しき生には、是非ともマスターから新しき名を授けて欲しいのだよ」
と、やたら期待を込めた視線を向けてくる。確かに魔王の言う事にも一理あるが……名前かぁ…………名前ねぇ…… 。魔王の期待に応えるべく、頭をフル回転させて、少ない語彙力を総動員する俺。そうして唸ること暫し
「……なぁ、コーゼスト」
「何ですか?」
「魔王の生前の名前の「シュヴァルト」って何か意味があるのか?」
「はい。「シュヴァルト」は古代語で「黒」を意味していますね」
あまりにも思い付かなかったので、思わずコーゼストにそう尋ねると、真逆の答えが返ってきた。しかし「黒」か……黒、クロねぇ…… 。
「……良し、決めた」
「ん? どんな名か決まったのか? マスターよ?」
俺の呟きに反応して尋ねてくる魔王。俺は出来うる限りの笑顔で一言告げる。
「あんたの新しい名前は「クロノ」だ」
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「クロノ……クロノか。うむ、実に良き名だ! 感謝するぞ、マスターッ!」
口の中で俺の付けた名前を二度繰り返して言うと、今度は満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を口にする「魔王」改め「クロノ」。殊の外、気に入ってもらえたみたいで何よりである。
「それじゃあ改めて宜しく頼むな、クロノ」
「うむ! 此方こそ改めて宜しく頼むぞ、マスターよ!」
蓬髪の合間から見える黒い瞳を輝かせながら、差し出した俺の右手をしっかり握り締めて、俺と固い握手を交わすクロノ。
「あーっとな、俺の呼び方はマスターで固定なのかい?」
そんなクロノと握手をしながら、そう言って苦く笑う俺。
「ん? 何だ、マスターはマスターであろう? それとも別の呼び方が良いのかな?」
俺の言葉に、やや不満そうな声色でそう問うクロノ。だがその表情からは悪感情は感じられない。
「そうだなぁ……俺にはウィルフレドと言う親から貰った名前があるから、ウィルで良いよ」
「ふむ、心得たマスターよ。では今後はマスターでは無く「ウィル殿」と呼ばせてもらうとしよう」
「ああ、そうしてくれると助かる」
そう言って再度握手を交わしながら、どちらともなく笑い合う俺とクロノ。正直に言うと幾らホムンクルスとは言え、仮にも「魔王」だった存在なので少し、いやかなり警戒していたのだが、こうして実際に話すとかなり気さくな好青年と感じているのは、俺のここだけの秘密だったりする。
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「マスター、そろそろ宜しいでしょうか?」
俺とクロノが話し終えたのを見計らって、そう声を掛けて来たのはコーゼスト。
「ん? 何だコーゼスト?」
「はい、この生産設備の予備施設の管理機構を利用した調査は全て終了しました。魔王──クロノとホムンクルスの生産情報以外、特筆すべき物はありませんでしたね」
「そうか……それじゃあこの辺で終わりにしようか」
コーゼストの台詞にそう答えると、俺は念話でファウスト達従魔’Sを呼び寄せる。程なくして、ファウスト達が俺達の居る部屋へと戻って来た。
「御主人様ァ、これで終わり?」
従魔’Sを代表してヤトがそう尋ねてくる。
「ああ、そうだぞ。ホムンクルス以外、特に目ぼしいモノは見つからなかったからな」
「そっかァ、そうよねぇ……分かったわ! 今日の所はこれくらいにしてあげる!」
俺の台詞に何を思ったか、いきなり豊満な胸を張ってそんな台詞を宣うヤトさん。どーでもいいが、別にキミの許可は求めていないんだが?
「よ、よしッ! それじゃあ皆んな、そろそろ地上に戻ろうか?!」
思わずツッコミたくなる所をグッと堪えて、俺はそう口にする。俺の言葉に色めき立つファウスト達従魔’Sとクロノ。そんな皆んなを横目に、生産設備のある部屋の片隅に仮の転移陣を設置する俺。
兎にも角にもこうして第十二階層の調査を終えて、俺達は全員無事に地上へと帰還するのであった。
そういやファウスト達にクロノの事を説明するの忘れていたが──まぁ後で良いだろうな、うん!
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




