一時帰還 〜豪傑との顛末、そして〜
大変お待たせ致しました! 本日は第289話を投稿します!
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「隷属術式、構築」
迷宮「魔王の庭」の第十一階層の守護者部屋に、いつもの如く響き渡るのはコーゼスト先生の声。
「個体:暗黒霊騎士へ魂の刻印完了」
「素体質量──虚数変換開始」
イーヴァインの身体が変換の光に包まれる──そして。
「変換完了──収納」
次の瞬間、光に変換されたイーヴァインの身体は、コーゼストの身体へと吸い込まれていったのである。
「フゥ……やれやれだな」
事の成り行きを見ていた俺は、その様子に大きく息を吐く。
「それにしても……珍しいですね。マスターから倒した魔物を従魔にしたいと言ってきたのは」
イーヴァインを収納してから、そう宣うのはコーゼスト。
「まぁな……お前の台詞じゃないけど「あれほど手強かった魔物をむざむざ死なせるのは惜しい」と思ったからな」
コーゼストの言葉にそう返す俺。実際にそう思ったんだから仕方ない。それほどまでにイーヴァインは強かったのだ。
「御主人様ァ、今度はあの何とか騎士を仲間にするの?」
一連の流れを見ていたヤトが不思議そうな顔で俺にそう尋ねて来る。
「ああ、その通りだぞ、ヤト。お前は何か不服でもあるのか?」
「ううん無いわよ! 御主人様に仕える仲間が増えるのは、単純に嬉しいわ!」
そう言うとニカッと笑顔を見せるヤト。ヤトの傍ではセレネやニュクス、ファウストやデュークも頷いている。どうやら皆んなもヤトと同じ気持ちらしい。
さて、と。そんじゃあこの部屋に仮の転移陣を設置して、一旦地上に還るとしますか!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんなこんなで凡そ15日ぶりに地上へと帰還した俺達分隊『混沌』。迷宮の外では既に陽が西に沈んでおり、夜の帳が訪れようとしていた。
「んーーーッ、さて、と……そんじゃあ冒険者ギルドに行くとするかぁ」
「そうですね。ヒギンズギルマスにイーヴァインとの事を話しておかないといけませんからね」
ひとつ伸びをしながらそう口にする俺と、それに同調するコーゼスト。ヤト達魔物娘’Sからは「早く屋敷に戻って食事にありつきたい」と絶賛抗議を受けたが、当然華麗に無視をして冒険者ギルドへと向かった。
いつも通りに冒険者ギルドの屋舎の大きな玄関をくぐり、広間へと入る俺とコーゼストと従魔達。
丁度よく受付帳場に見知った顔が。俺の奥様’Sの1人であるルピィだ。どうやら今日は午下からみたいである──どちらにしても丁度良かった。俺がルピィに気が付くのと同時に、彼女もまた俺達に気が付いたらしく
「あっ! 貴方、お帰りなさいッ!」
そう大きな声で言いながらカウンターを出て、俺の元に一目散に駆け寄り抱き着いて来る。
「おっと?! ははっ、ただいまルピィ」
そんな彼女を笑顔で受け止める俺。周りの職員達や冒険者達の何とも言えない視線は、敢えて無視する。
「もう第十二階層の調査が終わったのかしら?」
抱き着きながら、そんな事を宣うルピィに対し
「いや、まだ第十一階層を終えた所なんだが、ギルマスに報告があってな。一旦地上に還って来たんだ」
俺は用件を端的に告げるのであった。
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「どうしたウィル? また面倒事か?」
ギルマスが俺の顔を見た第一声がコレである。確かに面倒事ではあるが、報告連絡相談はキチンとしろと言ったのは、あんたじゃなかったっけ?
「あ、ああ、まぁ面倒事と言えば面倒事なんだが……」
俺はそう言いたくなるのをグッと堪えると、ギルマスに第十一階層の最後の部屋での顛末を話して聞かせた。最初は黙って俺の話に耳を傾けていたギルマスだが、話が進むにつれ、その顔は驚愕に彩られて行く。
「──そして俺はそのイーヴァインを新たな従魔にする事にしたんだ」
俺が最後まで話し終えると、前のめりになって話を聞いていたギルマスは、「はァ〜〜〜ッ」とデカい溜め息を吐きながら、腰掛けていた椅子の背もたれに背中を預ける。そして徐ろに
「すると何か? 今回はコーゼスト殿の独断じゃなくて、お前がコーゼスト殿に指示をしたんだな?」
俺の方に向かって何とも言えない視線を向けながらそう宣う。
「ああ、そうだ。今回は俺が指示を出した。本当にそのまま失うには惜しい人材だと思ったからな」
まぁイーヴァインは既に死んでいて魔物になっているから、人材も何もあったもんじゃないが。
そんな俺の返事を聞いて、またもやデカい溜め息を吐くギルマス。そして
「全く……お前と言う奴は」
一言言うと天を仰ぐ。そうしてまた独り言の様に
「……これは明らかに一ギルマスが処理出来る問題じゃねえよなァ……」
盛大にボヤく。
何か色々とすまん、ギルマス。
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とりあえず報告連絡は終わったので、冒険者ギルドを辞した俺達。何だかギルマスは急に老け込んだみたいだったが……まぁ大丈夫だろう、多分。
因みに相談はコーゼストが収納しているイーヴァインの調整が終了し、実際に顕現してから、と言う事になった。
更に因みに言うと、屋敷への帰路はファウスト達従魔’Sと共に、仕事を早退したルピィが同道していたりする──どうでもいいがルピィよ、そんなにホイホイ職務を放棄しても大丈夫なのか? 俺が心配になってそう尋ねると
「ギルドの仕事より貴方との時間の方が大切ですもの♡」
これまた物凄く爽やかな笑顔でそう言い切るルピィさん。そんな話ギルマスが聞いたら泣くぞ?
ルピィの今後に一抹の不安を感じながら、俺達は大通りを通りラーナルー市の第三層区画北街区、つまり俺達の屋敷が在る、貴族や神官等の所謂高給取りが住まう高級住宅街を進んで行く。
最初の頃はファウストやデュークやヤトやセレネやニュクスと言った魔物が街中を闊歩していると、それはもう大騒ぎになったが、ヒトの慣れと言うのは早い物で、今では誰もが俺達を見掛けると声を掛けて来るようになっていた。
「これは辺境伯閣下。従魔の皆様も。「魔王の庭」から今帰ってきたのですか? 無事のご帰還おめでとうございます」
「やぁ、有難う」
うちの屋敷のご近所さん達にそう言葉を掛けられると、改めて「帰ってきたんだな」と感慨深く感じる俺であった。
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「お父さぁん! お帰りなさいッ!」
屋敷に入るなり、そう言いながら駆け寄って俺に抱き着いてくるのは、ご存知俺の愛娘のマーユ。
「旦那様、皆様方も、お帰りなさいませ。無事のご帰還おめでとうございます。ルピタ奥様もお帰りなさいませ」
それともう1人、我が家の完璧家令のシモンも優雅な礼で、帰宅した俺達を出迎えてくれる。
「ははっ、ただいまマーユ。ただいまシモン」
そんな2人に向けて、にこやかに返事を返す俺。マーユは俺から体を離すと、今度はルピィに抱き着いて「ルピィお母さんもお帰りなさいッ」と、満面の笑みで出迎えの言葉を口にしてから、続けてファウスト達従魔’Sやコーゼストにも「皆んなお帰りなさいッ!」と笑みを振りまく。
ルピィは勿論のこと、ヤト達魔物娘’Sやデュークやコーゼストも、口々にマーユに「ただいま」と言葉を返す。ファウストに至っては尻尾を全開でぶん回して嬉しさを表現している。いつもの事ながら、これもまた俺に「今回も無事に帰ってきたんだな」と、実感させる瞬間でもあるのだ。
「それでは旦那様、先にお風呂にしますか?」
俺が感慨にふけっていると、シモンからそんな言葉が掛けられる。そういや15日間ずっと拭取タオルだったな。
「ああ、そうさせてもらうとするよ」
「では旦那様が入浴の間にお食事の準備を整えておきます」
そう言うと、侍女達にキビキビと指示を与えるシモン。
さて、そんじゃあ一風呂浴びてさっぱりしますか!
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「ふいぃぃ〜、あ〜、いい湯だぁ」
広い浴場に響く俺の気の抜けた声。 だって本当に気持ちいいんだから、この際勘弁して欲しい。
「マスター、お疲れ様でした」
その一方で俺と一緒に浴槽の湯に浸かりながら、そんな労いの言葉を投げ掛けてくるのはコーゼスト。俺は風呂なので全裸だが、彼女は勿論水着着用である。
最初の頃はコーゼストも全裸で入ろうとしたが、俺が断固拒否したのだ。何が悲しゅうて心身を休める為の入浴で、精神をすり減らさなきゃならんのか? 当然コーゼストはブチブチ文句を垂れていたが、断然華麗に無視したのは言うまでもない。
閑話休題。
「ところでコーゼスト。お前が収納しているイーヴァインの修復と調整はまだ掛かりそうなのか?」
浴槽でぐでーっとしながら、コーゼストにそう尋ねる俺。すると彼女は
「そうですね……今現在、急ピッチで作業していますが……明日の昼ぐらいには完了するかと思われます」
自身の細い頤に指を当てながら、訥々と答えを返してくる。
「すると明日の午下以降に、また冒険者ギルドでギルマスと相談だな……」
「マスターウィル、その前にイーヴァインの事をオルガ様にも話して教えておかないといけないのでは?」
俺の独り言に近い呟きに、律儀に答えるコーゼスト。
「ああ、そっちもあったな……」
古代魔導文明人の最後の生き残りであるオルガにも、ちゃんと今回の顛末を説明しなくてはならない事を、しっかりと忘れていた俺であった──やれやれだぜ。
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コーゼストから指摘を受けたので、俺は風呂から上がって直ぐにオルガに遠方対話機で連絡をした。
「いやはや私の旦那様はとんでもない大物とやり合ったんだねぇ」
俺の話を聞いて慌ててコーゼストの転移魔導機で屋敷にやって来たオルガの第一声がコレである。
「その物言いだとやはりオルガも知っているんだな、イーヴァインの事を」
そんなオルガの言葉に、そう聞き返す俺。すると彼女は
「うん、まぁ、ね。イーヴァイン・ナイトリーと言えば古代魔族のみならず、私達古代魔導文明人の間でも有名人だったからね」
そう言って苦く笑う。何でも古代魔導文明ではイーヴァインの事を『力狂い』や『戦好き』と、罵り倒していたらしい。それはまぁ当然の事ながら、イーヴァインの桁外れの戦闘能力に対する畏怖から来ていたのだろう。
『強過ぎる力は崇められるか、恐れられるかの二択しかない』とは、俺の師匠であるルストラ・フォン・モーゼンハイムの言葉である。きっとイーヴァインもそのご多分にもれず、後者の方だったのだろうと想像出来る。
「それにしても……私の旦那様は…… 。双頭魔犬に剛鉄岩人形に蒼玉岩人形に半人半蛇に女王蛾亜人に女郎蜘蛛に続いて、過去の豪傑まで従魔にしてしまうんだね……」
そう言うとやれやれと言わんばかりに、両手を広げながら首を左右に振るオルガ。
「何か色々と申し訳ございません……」
俺は思わずそう言って、彼女に頭を下げるのであった。
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明けて翌日の午下、俺とコーゼストとファウスト達従魔’S、そしてオルガとマーユとギルマスの姿はラーナルー市冒険者ギルドの修練場にあった。それは当然、修復調整されたイーヴァインをコーゼストが顕現する為である。
昨日の今日だけあってギルマスの顔色は、まだ些か悪そうだが断然華麗に無視する。
「さぁて! いよいよねッ! 本当に楽しみだわぁ!」
「ヤト、貴女の場合は単に早く先輩風を吹かせたいだけでしょう?」
「くふふ、何れにしても主様に仕える仲間が増えるのは良い事ですわ」
「「ワンワンワンッ!」」
「ヴ……本当ニ楽しみデス」
ヤト以下の従魔’Sは、イーヴァイン顕現を前に実に賑々しい。しかしこうして見ると、従魔内の序列はヤトが一番上なんだろうな。まぁ因みに俺は家庭内序列は底辺なんだが!
「マスターウィル。そろそろよろしいでしょうか?」
俺が1人で色々と納得していると、そう声を掛けて来たのはコーゼスト。おっと! いかんいかん! 今はこっちに集中しないとな!
「えへん! 良しッ!それじゃあコーゼスト。イーヴァインを顕現させてくれ」
わざとらしい咳払いと共にコーゼストにそう指示を出す俺。指示を受けた彼女は
「了解──虚数変換。イーヴァイン顕現化実行します」
そう言霊を口にする。その言霊に呼応するかの様に修練場の地面の上に光が生まれ、それがヒトの形を形成して行く! そして光が薄れると、そこには身長2メルトの黒鉄色の騎士が立っていたのである。
──って、ちょっと待て。イーヴァインの体は星銀じゃなかったっけ??
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




